tofubeats「20140803」

やっぱりいい声だった。いつもオートチューンでバキバキにしているし、実際この曲でもサビではバキバキにしているんだけど、やっぱりtofubeatsの声ってすごくいい。

こういうことを書くと誤解されそうだけど、tofubeatsの声はエモい。今度リリースする新作『First Album』には森高千里藤井隆BONNIE PINKPESといった錚々たるメンバーが参加しているのだけど、tofubeatsのボーカルが一番いいというか、元々tofubeatsの音楽はtofubeatsの声で作られているのだと思う。それはデモ音源がそうってのもあるけど、歌が上手い人に歌ってもらうことを前提に作られていない。

だから歌が上手い人がtofubeatsの曲を歌って「めちゃくちゃ歌がうまい!」というよりも、彼らの歌声を通すことで曲の飛距離が増している感じがする。より多くの人に届くためのマイクとして機能させている感じがする。楽曲提供の場合は相手の魅力を引き出すことに専念しているけど、tofubeats名義では代わりに歌って貰っているのだと思う。

tofubeatsが歌うことは一貫している。「音楽があればいい」それだけ。

ディスコの神様よ
今夜楽しくしてちょうだい ねえ
(ディスコの神様)

 

Don't stop the music もしかして
あの曲が 聞こえるから
耳を澄まして
(Don't Stop The Music)

 

君は知ってるかい?踊らな死ぬ事を
(水星) 

そして今回の曲は多くの人に届けることを意識していない。だから自分で歌っているのだと思う。

てゆか毎日 どうでもいいことばっかり 気にして入れるのが幸せ
ダンスをしたい好きなだけ 好きなタイミングで 好きな音楽で
(20140803) 

どれも全部本音だと思うし、どこかで無理をしすぎているわけでもないと思うけど、やっぱり普段っぽいtofubeatsを感じさせてくれる今回の「20140803」がすごくよかった。今までで一番好きな曲です。

 

 

ぴっち(@pitti2210

tacica『LEO』

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2人体制となってから初となるシングル『LEO』が発売された。

今回はサポートドラムとして元ART-SCHOOLの鈴木浩之を迎えている。これが非常に違和感なくマッチしている。実は今回の曲は少し心配もあった。トシ君(元メンバー)の「繊細かつ一つ一つの音をしっかり鳴らす」という当たり前の事を不器用ながら鳴らしているのがtacicaの魅力の一つだったので、次に出るであろう新曲ではバンドの音そのものが変わってしまうのでは無いかと思っていた。しかし、そんな心配はただの杞憂だった。鈴木さんかなり良い仕事をされてる。違和感無くマッチしているし、tacicaの持つ無骨さにさらに拍車が掛かっている。

以前に僕はこのブログでtacicaの『HOMELAND 11 blues』を紹介した際tacicaというバンドは「人間とは」というテーマのもと歌っているバンドだと書いていたのだが、少し訂正させて欲しい。tacicaは変わってきている。 正確には『命の更新』以降だ。比喩的な表現の歌詞を使い抽象的ではありながらも「人間」というテーマを通して自分の内面を掘り下げていくのが『jacaranda』までのtacicaの音楽だとすると、『命の更新』以降のtacicaは「生きていくことは素晴らしくて難しい」という当たり前のことを伝える音楽にシフトしていったのではないか。今までよりも他者に向けて歌われる曲が多くなったのも伝える音楽にシフトした結果だと思う。バンドがそのことに自覚的か無意識なのかはわからないけど。

かなり前置きが長くなってしまったが、今回の「LEO」もまた「生きていく事」について歌っている曲である。不安げに映る未来、振り返っては残る過去の後悔。そして僕らが生きるのは代わり映えのしない日常だ。猪狩の声はいつもよりとても優しく歌われているのだけれど、決して明るい歌では無い。けれどtacicaが歌っているのはその単調な日常でさえもきっと大切なモノだということだ。

tacica「LEO」

「LEO」の最後の歌詞はこのように締めらている。とても素晴らしいと歌詞だと思う。

丸い滑走路を
皆 飛べると信じ直走る
止まりそうに揺らいで光ってみる
ほら きっと 大切な夜

なんだか調子に乗って色々想像で書いてしまっているけれど僕が「LEO」を聴いたのは以上のような感想だ。聴いた人の人生を変える一曲では無いにしろ、退屈な日々を送っている僕のような人には響く所が多い曲だと思う。

ちなみに、DL版や通常版には初期の頃のお蔵入り曲(もしかすると廃盤で一度リリースしているかも)「anaphylaxis」という曲がブラッシュアップされてカップリングに収められている。初期の頃からtacicaはメロディーのキャッチーさが群を抜いている事が分かる良曲なのでぜひ。

ちなみにフルサイズのPVがYouTubeにアップされているので張っておきます。お時間あれば。期間限定のようです。

 

 

うめもと(@takkaaaan

関東インディーガイド#3 コミックマーケットC86 音楽ブースの私的振り返りとディスクレビュー

8月17日、東京。千葉マリンスタジアムと東京幕張メッセで、サマーソニック2014が開催されていたちょうどその頃、僕はといえば、海を挟んで対岸に居する東京国際展示場にいました。

そう!プロデューサーさん!コミックマーケットですよ!コミックマーケット

ツイッターをやっている人、それ以外でもネットニュースに触れている人なら誰もが目にしたことがあるであろう、日本最大、いや世界最大規模の同人作品即売会。

 

いきなり基本的なことに立ち返りますが、同人とはなんぞや?という人向けに、一応の説明をば。同人というのは、同じ趣味や志をもった人、仲間ないし集団のことで、アマチュアとかプロとかインディーズとかいう括りとは、ちょっと違う意味合いなのがミソです。

実は初めてコミケの音楽ブースには足を運んだんですよね。そして買ったCDはこちら!

左上から順に

  • Blue RecordさんのARIAイメージCD
  • 100-200+taigonさんの新譜『Daybreak』(右は旧譜のParallax)
  • Diverse systemの『AD:HOUSE3』
  • CLOSED/UNDERGROUNDの『逆廻遊戯 或いは某医師の愉快な記録』
  • Tokyo Audio Waffleの『Travel Sound Sandwiches』
  • For tracy hydeさんの新作ダウンロードコード
  • Floater-ioさんの内田彩さんイメージCD 『AYAFFECTION』

 

まず、DOL_backeyさんのARIAトリビュート作品

マイクを立ててアコギの音を録音、空間録音で仕上げた一作は、破格の100円5曲。録音時に流れた風の音、ほんの少しだけ「ジー」と囁くノイズ、まさに宅録かつローファイなアコースティックサウンド。もちろんテクニックも十二分で、非常に良かったです。

DOL_backey's comments on SoundCloud - Hear the world’s sounds

今回『AD:HOUSE3』と『Travel Sound sandwiches』という作品を買いましたが、両作に参加しているトラックメイカー100-200さんとtaigonさんによるユニット、100-200+Tanigonの新作『Daybreak』もゲットしました。トータル5曲の今作、一曲目「intro」と最終曲「Outro」はまさかのジャズピアノ曲、その間の3曲では「Tumbao」と「Granizado」ではハウス、表題曲「Daybreak」はトラップと、非常に聴き応えのある一作です。

100-200+tanigon - from Soundspringer

 

さて、次はその『Travel Sound sandwiches』を。

同人レーベル「en;Dolphin」から発売されているTokyo Audio Waffleシリーズ。<携帯可能な音楽カフェ>を標榜し、現在全国のヴィレッジヴァンガードでも発売展開している人気シリーズの第5弾が今作だ。

今作のテーマは、ズバリ「旅」。そのせいもあってか、なるほど、集められたサウンドはBPM127を前後する由緒正しきハウスミュージックがズラリ。印象的なキャッチーなメロディラインが随所に光る8曲入りの今作のなかでは、「Caffe' Shakerato」と「Blueberry Vanilla Ice Cream」の2曲が個人的には好み。まだシリーズ全てを買い揃えてはいないので、余裕のあるときに揃えてみたいです。

Travel Sound Sandwiches - en;Dolphin records

■■About■■ - en;Dolphin Records

 

お次は、Diverse Systemの『AD:HOUSE3.0』を。

Diverse Systemとは、運営主のYsK-与作曰く「2000年に立ち上げたレーベルのようなモノ」だそう。2012年には年間14本のCDをリリースしたが、運営しているのはなんと与作さん一人だそうです。

現在のDiverse Systemのポリシー/根底は「YsK439が聞きたいもの」です。極論から言えば個人の趣味を1枚のCDにしているだけです。

というコンセプトの元、与作本人はテーマ設定と運営に徹し、作曲・デザイン・イラストレーションすべてを依頼や公募のかたちで制作し、その長い運営期間で関わった人数は既に100人を超えているとか。商業的な流通は一切通さず、同人販売会や通販販売を主にしており、インディーズとも同人サークルともつかない、独自な活動をつづけています。

そして今年発売された『AD:HOUSE 3』、特定のジャンル・テンポ数などの題目に絞ったコンピレーションアルバム「AD」シリーズのハウスミュージック盤の第3弾に当たる今作は、2枚組24曲24組のトラックメイカーを集めた、まさに渾身の一枚。派手な飛び交うシンセサイザーの音色やピアノの煌めく音色が終始耳を奪うが、トラックのボトムを支えるのは間違いなく<ハウス・ミュージック>のグルーヴ。デトロイトハウス、ディープハウス、テックハウス、イタロハウス、プログレッシブハウス、更には70年代ディスク/ファンクを遠景した最近流行りのファンキーハウスともいえようサウンドに、ジャズテイストなボーカル曲まで、コレ以上ないほどのハウス・コンピレーションアルバムです。

オススメは「sunlight」「D For You」そしてやはり「Get On The Floor」だろう。コレ以上にない3曲だと思います。

また今作と同時に、ハードコア系を中心にコンパイルした『HARDCORE CHALLENGE』、仕事や作業用BGMとしてシリーズ化した「works.4」と、非常に多くの出番をもらっているトラックメイカーtigerlily氏による「works.tigerlily」の3枚が発売され、さらにベスト盤ならぬ2011年発売のCDの完全版『A.D.2011 COMPLETE』も発売。これを期に、一気に廃盤になってしまうというのが非常に残念だが、彼の精力的な活動はまだまだ続いていきそうです。 

 

続いてはCLOSED/UNDERGROUNDの『逆廻遊戯 或いは某医師の愉快な記録』

ご存知の人もいるとは思いますがこのサークル、ボーカルを務めるのは片霧烈火美少女ゲームやアニメソングで多数の作品を残し、同人音楽界隈では大御所と言っていいボーカリストです。

そんな彼女の活動初期、2003年にとある作品が発売されました。ルイス・キャロル不思議の国のアリス鏡の国のアリスを原典とし、オリジナルストーリーを自身で脚本、それを楽曲として歌い上げたという、驚愕の一作。発表当時は様々な論議を呼び、今もちょこっとだけ考察サイトが残ってます。5つの書き下ろしヴォーカル曲+ドラマを収録した17曲、その作品は『幻想廃人、或いはK氏の手記』。

とあるところでは、Sound Horizonを例にあげて<物語音楽>などと言う時があるけども、深く知るにはこの作品を知らなきゃウソになります(キッパリ)。あと付け加えれば、その内容は非常に暴力的で、性的で、精神的な、虐待描写もある、あくまで18禁作品であり、それが故に異常な狂気性を孕んだ一作です。

それから11年、今年彼女はついにその続きといえよう『逆廻遊戯 或いは某医師の愉快な記録』を今回のコミケで発売したわけです。

また廃盤となっていた『~K氏の手記』も同時に再生産発売、かなり大きなアクションを起こしました。気になる内容ですが、『K氏の手記』に収録されたボーカル曲5曲をピアノ弾き語りによってセルフリメイク。より沈痛かつ重々しい、捻れ曲がりそうな狂気が再びここに吹き込まれています。

何より朗報なのは、次回となる今年冬のコミックマーケットで今シリーズ第3弾となる次回作が発売予定であること。シンガー片霧烈火としての彼女を知る人間から見れば、陽の光を当てるにはあまりにも悍ましすぎる狂気と物語が、このシリーズにはある。そして同時に、彼女のアーティスティックかつサディスティックな感性が包み込まれた作品といえよう。

逆廻遊戯 或いは某医師の愉快な記録 【戯言歌劇展】 | CLOSED/UNDERGROUND

 

最後に、この一枚を。

サークル運営主はitmさん、2009年より東方Projectの楽曲の二次創作アレンジを動画サイトに投稿するなどの同人活動を開始、先述したTokyo Audio Waffleにも参加し、しかもポーランドのレーベルからEP『As You Are』をBeatportにて発売、その後EPがジャンル別リリースチャートにランクインするなど、今後めきめきと頭角を現してくるであろう若きクリエイターさん。

そんな彼のお気に入りの声優は、ラブライブ!南ことり役でお馴染みの内田彩さん。そう、今作『AYAFFECTION』が内田彩さんイメージソングCDとなるのだ。

クラブフロア向けな強度の高いサウンドではなく、自己主張の弱いキックはルーム・ミュージックとして最適で、イージーリスニングとしても非常に耳触りの良い柔らかなシンセサイザーの音色とゆらぐメロディ。本人の得意分野であるプログレッシブ・ハウス~ディープハウスでよく聴けるミニマル・ダブの音像が、内田彩さんの女性的で優しい面を表現している(あくまで妄想だということにご注意を)。非常に好みの一枚で、8月の下旬はほとんどこの一枚を聴き倒していた覚えがある。

最後に一言、内田彩さんを模したであろうジャケットの女の子、めっちゃくちゃどちゃくそ好みですわ。

floater-io

 

 

さて、ここからは私的な振り返りをツラツラと書きます。興味ない人はタブを閉じるんだ!

最初に「マチュアとかプロとかインディーズとかいう括りとは、ちょっと違う意味合いなのがミソ」と僕は書きました。特に今年の場合、ここらへんの意味を捉え直すショッキングな出展者がいたのを忘れちゃいけません。

"ラスボス"こと、小林幸子の出展です。

諸般の事情から事務所を離れ独立した彼女が、まず最初にこのコミックマーケットに出展したのは、なにもニコニコ動画など得た<若者人気>をより着実にしようというだけではなく、<音楽を好む同好の士>としてこの輪の中へと足を踏み入れてきたということで、しかもそこが大きなマーケット市場を持っていたからこそ、非常に大きな話題になったわけです。これが全然小規模の即売会だったら、ここまでデカイ話にもなりませんし、むしろ小規模即売会に出るとなると他出展者に迷惑にもなりかねない、だからこその、コミックマーケットへの進出だったと思います。

 

午後2時には出展物が売り切れ、その後列をなしてブースに訪れた参加者一人ひとりに握手をするというサービス精神の裏には、逼迫した台所事情と同時に、これから自らのファンになってくれるであろう方々への強い感謝と願いが込められていたようにも思えます。その意味では、彼女らは今回のコミケで、最も「売上重視」な出展者だったのかもしれません。コミックマーケットには出展してきましたが、果たして音楽同人に特化した即売会である「M3」に彼女は出展するでしょうか?、畏怖してしまうような別次元の存在として「ラスボス」などと呼ばれてしまう彼女の存在は、今後大きな影響を与えていきそうだと思います。

(ちなみにですが、秋葉原某所では会場限定で販売された今回のCDが中古品として売られていましたが、今年発売としては異常な値がついていて驚きました。)

はい、これで終わり。今月は、アニソン連載と関東インディ連載は1個ずつ更新できればいいかなってかんじです。ではでは、また今度。

 

 

草野(@grassrainbow