ドキドキを取り戻すための/tofubeats『FANTASY CLUB』

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tofubeatsの『FANTASY CLUB』をずっと聴いている。正直に言うと、このアルバムはtofubeatsの最高傑作ではないと思うし、おそらく現時点における彼の最高傑作は『lost decade』なのだが、ただ滅茶苦茶いいのだ。

今作は前作の『POSTIVE』やさらに前の『First Album』と比べるとJ-POPの要素が薄い。一応ゲストボーカルもいるのだが、どちらかと言うとYOUNG JUJUはラッパー、suger meはコーラスとしての側面が強く、あまりJ-POPらしい曲が見当たらない。日本語のポップミュージックと言えばその通りなのだが、歌謡性は薄く、ヒップホップやハウスを行ったり来たりしている印象が強い。

またゲストボーカルの意味合いが少ない反面、tofubeats本人が歌う比率が以前より大きい。いつも同様オートチューンを用いているのだが、前に出ようとする意志が強い。前だとたとえば『ディスコの神様』のカップリングのデモ版の「衣替え」で申し訳程度に歌い(でもすごく良い)、アルバムではBONNIE PINKが歌ったりしていたのだが、今作の「SHOPPINGMALL」「CALLIN'」「WHAT YOU GOT」「BABY」といった曲は「tofubeats自身が歌うこと」を想定して作られているかのようだ。実際、力強く歌っている。

それにしてもこのアルバムを聴けばワーナー以降のtofubeatsに何があったか察することができるし、WIREDのインタビューを読むと良いことも悪いこともあったというか、どちらかと言うと悪いことの方がたくさん起こって、それに対する怒りとか葛藤とか苦しみが多かったように思える。ただ、それでも「BABY」で

ドキドキは今以上のBABY

と歌っていることが、4年前の「LOST DECADE」での

ドキドキしたいならこれを
ワクワクする瞬間このときを
わすれないで
わすれないで

と重なっていて、もちろん変わるものもあるけれど、音楽で一番大事なこの部分を忘れていない事実にぐっとくる。

あと個人的にはやっぱりフランク・オーシャンの『Blonde』と重ねて聴いていた気がする。単純な物量でいい切れる話ではないけど、もしtofubeatsが数年以内に『First Album』『POSTIVE』のように多彩なゲストと共演しながら、同時に『FANTASY CLUB』のような内省的なアルバムを作ることができたら。いや、ただの妄想でした。

 

 

ぴっち(@pitti2210

破壊の末に戻ってきた「らしさ」/チャットモンチー『Magical Fiction』

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先日ブックオフでマンガを漁っていた時「あれ?チャットモンチーみたいな曲だけどもしかしてこれチャットモンチー?」みたいな曲が流れてきて、Shazamで確かめたら本当にチャットモンチーだった。チャットモンチーらしいチャットモンチーの曲を聴いたのはいつ以来だろう?

もちろん、チャットモンチーがこれまでずっと活動してきたことは知っている。高橋久美子脱退後の『変身』も、サポートを迎えた『共鳴』も一通り聴いていた。でも誤解を恐れずに言うなら、2011年以降チャットモンチーは変わり続けていたし、さらに言うなら高橋久美子がいた『YOU MORE』の段階でチャットモンチーはぶっ壊れていた。

そうなると、そもそもチャットモンチーらしさって何?という話になるのだが、僕の意見をいうなら「淡々としているけど切ない」ではないかと思う。そんなことを言ったら「『ハナノユメ』のどこが淡々?」とか言われそうだし、ポップだったりロックだったりエモかったりするチャットモンチーもそれぞれ魅力的だけど、でも僕の中ではカップリング曲であったり、アルバム半ばくらいの「落ち着いてるのにどこか切ない」曲がチャットモンチーの原風景としてあるのだ。

そして個人的に言わせてもらうなら『YOU MORE』以降のチャットモンチーはすでにぶっ壊れていた。ブレーキが壊れアクセルは踏みっぱなしになり、切なさなんて微塵もなくなっていた。だから高橋久美子は辞めたし、残された二人もチャットモンチーという屋号を残すことだけで必死でチャットモンチーらしさなんて考える余裕はなかった。

そして2人になった彼女たちはさらにチャットモンチーを破壊し尽くした。普通ならサポートドラマーを招いて再始動すれば良いものの、2013年の『変身』ではなぜかあっこがドラムにコンバート。それどころかえっちゃんまでマイク片手にドラムを叩くという男以上に勇ましい演奏を見せつける展開に。2015年、10周年ということでようやくサポートを加えたと思ったら、なぜかハイスタの恒岡章the chef cooks me下村亮介を迎えた男陣、そして北野愛子と世武裕子を迎えた乙女団という2種類の編成を用意する始末。

でもだからこそ今でも時々「チャットモンチーはあの3人でなくちゃ嫌」と思ってしまうのである。あれほど違った形を追い求めながらも頑なに3ピースを避け続けているのは今でも彼女のことを待ち続けているから、というのはファンの一方的な願望に過ぎないのかな?

「Magical Fiction」でえっちゃんはこう歌う。

足りない気がしてる?
まだあの風景をさがしてんのかい
待ち人はもういない
さぁ 新しい靴の準備をして

全部悲しみ消える呪文
どんな後悔にも永遠のさよならを バイバイ
これがいつの時代も必要な薬

もうあの頃には戻れないことはわかっている。そしてそれを望んでいるわけではないことも。4人編成という形を2バンドも試しながら、それでも打ち込みを用いてまで2人体制にこだわるのは、彼女たちの言葉を借りるなら「よりワクワクするから」なのだが、それでもその座席を空けて待っているからと解釈する余地くらいは残っていないのだろうか?*1

もちろんあの頃とは違う。だけど激動の時期を通り過ぎて、ようやく切なさを感じさせてくれるチャットモンチーが戻ってきた。「さよならGood bye」を感じさせる表題曲も最高だけど、カップリングの欲望むき出しの「ほとんどチョコレート」もチャットモンチーらしい。

 

 

ぴっち(@pitti2210

*1:とか書きつつ、作詞したあっこ本人は「去年の『M-1グランプリ』を見たときに書いた歌詞」とか言ってるが

過去と今を繋ぐ魔法/チャットモンチー『変身』

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2012年にリリースされたチャットモンチーの5thアルバム『変身』は魔法がかけらた作品だ。そしてその魔法により、これ以前/以降でチャットモンチーの存在定義が変わった作品でもある。

そもそもチャットモンチーはどんなバンドか。シンプルなギターロックをフォーマットに、90年代におけるWhiteberryやZONEのようなアイドル的なガールズバンドではなく、ロックバンドとしてのガールズバンドというスタンスを2000年代に確立したバンドである。そして彼女たちのフォロワーで2010年代以降ガールズバンドを飛躍させたのがSHISHAMOであり、SHISHAMOの今の活躍もチャットモンチーがいなければ無かった……

……みたいに思われがちだが、チャットモンチーの楽曲はまったくシンプルでではない。より正確に言えば、巧みに変拍子や自在にテンポを変えながら楽曲そのものはシンプルに見せる秀逸なバンドだった。そしてその要がドラム高橋久美子であり、彼女のビートがあったからこそチャットモンチーは他のガールズバンドから一歩抜け出た存在になれたのだ。個人的には彼女たちのフォロワーで2010年代このビートを先鋭化したバンドこそtricotであると思うし、そのように考えるとdetroit7の山口美代子が福岡晃子にドラムを指導していること、そしてtoricotのサポートをしていることにも合点がいく。

さて高橋久美子というバンドの要を失って初めて作られたアルバムがこの『変身』である。普通に考えれば今までの魅力は失われるし、実際にギターとベースをやっていたチャットモンチーの二人がドラムを叩くこともあり、過去作に比べてビートは単調だし、繊細なグルーヴも感じられない。しかしそんな欠点を補って余りあるほど今までにない魅力で溢れている。

はてな」や「きらきらひかれ」といったような衝動やエモーショナルをそのまま音にぶつけてるナンバーやシンプルなドラム・ビートとオルタナなギターサウンドが印象的な「満月にほえろ」など本作は構造で魅せるチャットモンチーとしては珍しく、骨太で力強いロックなサウンドであふれている。

また「きらきらひかれ」でASIAN KUNG-FU GENERATIONの後藤正文、「コンビニエンスハネムーン」で奥田民生といった外部のアーティストをプロデューサーに迎え入れ、さらには「初日の出」「ウタタネ」ではエンジニアとしてジム・オルークを招集するなど積極的に外部と交流した事で過去作にない手触りを持つ作品に仕上がった。この「チャットモンチーとしては珍しく」や「過去作にはない」というのが本作の魅力であり、これこそチャットモンチーにかけられた魔法でもあった。

彼女たちは高橋久美子を失ったあと、解散することも休止する事なくバンドをやり続けた。しかもサポートを入れずに二人編制で。それはこのままでチャットモンチーを終わらせないという意地ももちろんあったと思うのだが、それ以上に2人になった事で3人ではできなかった無限の可能性への挑戦でもあった。

福岡「私たちもスリーピース時代のチャットも絶対的にカッコいいと思っているけど、ツーピースになって全く新しいバンドに生まれ変わろうと思ったし、そうしなきゃ意味がないと思っていたので。*1 

まったく新しいバンドになろうとした意気込み、それこそが今までにない力を生み出し1年で5枚のシングルと本作を作り出した。それはチャットモンチーが危機を乗り越える為に発生した魔法によって突き動かした結果だと言ってもいいのかもしれないし、新しいチャットモンチーへと生まれ変わる賭けに勝てた事を証明したとも言える。もはや3人であった頃の呪縛はない。魔法がかかった彼女たちは無敵である。それを証明するアルバムこそ『変身』なのだ。

と、ここで終わればこの拙い文章を綺麗に締めることができるのだが、そう上手くいかないのが世の常。どんな魔法もいつかは解けてしまう。チャットモンチーも同様で二人にかかっていた魔法は『変身』後に訪れた1年近くの活動休止期間ですっかり解けてしまった。そして2014年以降はどのような編成/楽曲が自分たちに合うか、思考を柔軟に働かして試行錯誤していった。その試行錯誤の過程こそ『共鳴』であったし、ライヴだと武道館における10周年記念だったと思う。私自身この時期のチャットモンチーもおもしろいと思うのだが、どうしても『変身』の頃に期待したあのマジックが再び宿ってきてほしい。そんなことを思っていた矢先である。シングル『Magical Fiction』を聴いたのは。

チャットモンチーはまたも二人で活動し始めたのだ。表題曲「Magical Fiction」はモータウン・ビートを取り込みながらも嫋やかでポップな仕上がりとなっているし、アンビエントサウンドスケープを持ちながらもチョコレートの事しか歌わない「ほとんどチョコレート」などあの頃と変わらず二人でありながら自由に新しいことを突き詰めてようとしている。それはまるで『変身』の頃に感じていたあの魔法をもう一度取り戻そうとしているかのように。デビュー10周年を過ぎてもなお、スタイルに拘らず新しい挑戦を続けるチャットモンチー。また再び魔法がかかる日はすぐそこかもしれない。

 

 

ゴリさん (@toyoki123

ki-ft ダラダラ人間の生活