隠れすぎた名盤 第1回 SACRA『ついのすみか』

こんにちは、クラークです。

今回は少し趣向を変えて「隠れすぎた名盤」を紹介しようと思います。隠れすぎたといっても自費出版やネットに何の情報もないあまりに入手困難な作品を紹介してもちょっと面白みに欠ける記事になるので、ヤフオクAmazonマーケットプレイスで入手できる作品に絞って何作か紹介できたらと思っています。

今回紹介するアルバムはSACRAというアーティストの『ついのすみか』です。L'Arc-en-Cielの元ドラムスのsakuraさんやSACRAという同名のロックバンドも存在していますが、まったくの無関係です。

SACRA『ついのすみか』

f:id:ongakudaisukiclub:20140511203833j:plain

SACRAは90年代前半に札幌を拠点としていた民族音楽グループです。メンバーはヴォーカルの小畑香さん、ギターの高橋裕さん、ハンマーダルシマーの小松崎健さん。アルバムも1991年にこの『ついのすみか』1枚をリリースし解散しました。ボーカルの小畑さん以外のメンバーは現在も音楽活動をされているとのことです。

アルバムはアジアン雑貨のお店でかかっていても違和感のないエキゾチックなワールドミュージックになっています。ほぼ全曲がアジアンテイストのアレンジで、小畑さんの透明感のあるボーカルとハンマーダルシマーも涼しげで、イージーリスニングとしても気軽に流せる作品です。

しかしこのアルバムが単なる癒やし系BGMなのかと言われれば、決してそうではありません。アルバムタイトルの「ついのすみか」=「終の棲家」から連想されるように、このアルバムのテーマは「死」です。そしてここで鳴らされる死はSACRAの音楽と同様に、ある意味とても軽やかなものなのです。西洋的で重厚な死生観を皮肉する「ガブリエルのラッパ」という曲も収録されています。

天国への階段 昇ってはみたけど

そこにはなにもないよ

このアルバムの楽曲は主に中国大陸、モンゴル、チベットが舞台になっています。アニメや絵本などで見たことのある雄大な景色のところどころから、まるで無邪気な子供のように死が音となり、言葉となり、その顔をこちらに覗かせます。

ヒマラヤの山のうえ

骨をうずめにゆこう

(「チベットワルツ」)

うれしいな

涅槃は近い

(「蘭の舟」)

SACRA「南冥行/蘭の舟/ケシの花」

小畑さんの素晴らしい声と歌唱はまるで極楽に誘うかのようです。そしてアルバムも天上に向かって日本に寄ったり韓国に寄ったりしながら緩やかに進んでいき、終曲「わーい」を迎えます。

春の陽射しのようなハンマーダルシマーとストリングスからはじまる「わーい」はアルバムの中でも飛び抜けて明るくポップな曲です。まるで太陽のポカポカとした光に全身が包まれているような幸福な光景が広がっています。その景色がSACRAの描く死です。そしてその世界にいるのは「ぼく」だけではありません、長い長い旅の途中ではぐれてしまった「あの人」もそこで待っています。

顔いっぱいに笑みをうかべて

あの人がやってくるよ

あかるい光にてらされて

ひょいひょいとやってくるよ

 

ああ ぼくはそれを見たとたん

涙がとめどもなく あふれ出てとまらない

本当に会いたかったよ

本当に会いたかったよ

 

わーい!

SACRA「わーい」

このような死生観に共感できるかどうかは別として、『ついのすみか』は本当に素晴らしいアルバムです。多くの人に聴かれてほしいです。この美しいジャケットをどこかで見かけることがあれば、ぜひ手にとってみてください。もしかしたらあなたにとってジョアン・ジルベルトの『声とギター』やR.E.Mの『オートマチック・フォー・ザ・ピープル』の隣に並べたくなる大切な作品になるかもしれません。

 

 

くらーく(@kimiterasu

いまここでどこでもない