2013年発売のtacicaの4枚目のフルアルバムとなる『HOMELAND 11 blues』
個人的に2013年ベストアルバムの1つ。今更感のあるレビューだけど書こうと思う。せっかく不特定多数の方に読まれるブログに参加させてもらっているのだから「だいすき」という気持ちをありったけ込めて。
tacica（タシカ）は北海道出身の3ピースのロックバンド。メンバーは 今年に入りドラムのトシ君こと坂井俊彦が脱退し、猪狩翔一（vocal, guitar）小西悠太（base）の2人編成となった。
無骨でオルタナティブな音像に親しみやすいメロディー。意味を汲み取るのが難しい内容でありながらも頭に残りやすい歌詞であったりと、いろいろ魅力が多いバンドだ。そして不器用なバンドでもある。それはライブでも顕著に現れてるのだけど、頑なに3人で鳴らす音で全てを表現しようとするところ、MCがヘタクソなところも同じだ。
歌詞にも同様の不器用さが現れている。猪狩は自分の中の考えを表現しないと生きていけないタイプの人間だ。彼は誰もが共感出来るような歌詞を書かない。基本的には「人間とは」というテーマの中でいろいろな事を歌っているのだが、ほとんどインタビューに応じないため、彼らの曲を理解するには歌詞とにらめっこするしかない。だから「正直なんのこっちゃ？」という時もある。その中でもキラリと光るフレーズが素晴らしかったりもするのだが。
そんな不器用な彼らが、動物や物体に例えながら僕らにメッセージを送ってきてくれていたのだけど、前作あたりから少しずつ難解な世界観が減り、ストレートで伝わりやすい内容も歌うようになってきた。
そして今回のこのアルバム。今までで一番取っ付きやすさがあり、そして「アナタ」や「キミ」に対して歌う曲が圧倒的に多くなった。対自分に対して突き詰めた内容を歌い、少しずつ歩みながら進み、時には歩みを止めて来た、そんな彼等だからこそ、今歌われる「キミ」へのメッセージはとても胸を打つものがある。
tacica「Co.star」
基本的にtacicaはミドルチューンの良曲を作るのが上手いバンドだけど、アルバムの先行として出たこの曲は正直tacicaの中でも1、2を争うほどの名曲。というか単純にめちゃくちゃ格好良い。ラストのサビの爆発的な流れは圧巻。
アルバムの中では隠と陽で分けるとすれば「Co.star」は隠側のアッパーな曲なのだけど、もう一つ個人的に隠側の名曲がある。
tacica「大陸」
この曲は完全に、「僕」に対しての自問自答のような曲。猪狩のインナーワールドに迫る一曲なんじゃないかなと思う。意味を全て汲み取れた訳では無いけど、この歌詞が彼の本音のようで。
ここだけが唯一の安心で
僕自身が僕の恩人で
角に打つかりたい
角に打つかりたいと吠えるの
基本的に音楽で安心を得ながらも、でも実際そこに答えの見つからないものを探して、答えを見つけたいと叫んでる。そんな勝手な感想を抱いてる。
また「大陸」とは対照的に歌われる「キミ」に対しての曲 「vase 」「 From the Gekko 」こんなストレートに見える歌詞の内容がtacicaにしてはめずらしい。それなのに一番しっくりくるのも彼等の不器用な人柄が現れてるからだろうか。
tacica「DAN」
描けない夢なんてない
叶わない夢なんてない
って思ってたんだろう ひとり
残り全部の命を使って
そんな「キミ」に対して歌われる曲の中で最後に歌われる「DAN」がとにかく素晴らしい。もしかしたらこの曲は悲しい曲なのかもしれない。それでもこの歌詞が本当に素晴らしくて泣けてくる。きっとtacicaは何があろうとtacicaであることをやめないし。当たり前だけど、これからも歌を作り続けていくんだろう。その覚悟を歌った一曲。
この素晴らしいアルバムを作り終え、シングルを1枚発表した後、トシ君はこのバンドを離れた。このバンドを知ってる人はこの3人のアンサンブルがどれだけ強固な物で圧倒的であった十分にわかってるはずだ。それほど絶対的な3人だった。バンドを離脱した理由は僕らにはわからない。もちろんいろいろな事情はあるだろうし、しょうがないことだとも思う。ただ本音を言えば、やっぱり今も寂しいしとても残念だ。トシ君が病に倒れ、一時バンドを離れた後、復活した時に出したシングル「命の更新」を聴いて感極まって泣いてしまった自分は特に。
ただtacicaはこのアルバムでも歌っている通り、これからも歌い続けていくのだろう。そして僕はこれからも彼らを追い続けたいと思う。
tacica『HOMELAND 11 blues』trailer
うめもと（@takkaaaan）
