徒然なるままに、今どきのクラウトロック

ザワークラウト(Zauerkraut)。それはドイツなどで愛されている食物である。何なのか?ザワークラウト。キャベツの漬け物である。酢漬けと勘違いされることも多々あるがそうではない、それはピクルスである。かつてより食べられてきた伝統的食品であり、かつてのドイツの軍事食でもあった。だからなのか、英米軍の兵士たちは第一次・二次世界大戦中、ドイツの兵士をこう蔑称した、「Kraut(きゃべつ)」と……。

クラウトロックは70年代頃のドイツのユニークな音楽群をさして呼ぶ言葉で、ジャンル名としてもよく使われている。ここでの「クラウト」はもう蔑称なんかじゃなくて、むしろその独創性と実験精神にリスペクトを評したニュアンスにすらなっていたそうな。だがしかし、やはり由来が闇の濃いものだったからだろう、素晴らしい音楽に対してそのような侮辱的呼称など使うべきではない、という意思表明をする人も少なくないのが実情のよう。そういう人はジャーマン(プログレッシブ)ロックと呼び習わすことでクラウトロックなるワードを回避している。そんなわけで私も普段はジャーマンの方で通してるんだけど、今回はドイツ60's後半〜80's前半の音楽の血脈は今どんな風に実を結び、あるいは流転しているのかを徒然と見ていこうという内容なので、このタームを一度は紹介すべきだと思い記した次第である。もちろんニュアンスの剥ぎ取られた、ただの記号としてしか使っていないので悪しからず。

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そう、今回はつまり10'sに息づくクラウトロックのDNA、その芳醇な発露を確認していこうと思っている……。いや、そんな大層なものでもないな。クラウトロックというキーワード一つで旬の音楽をパパッとどれだけザッピングできるか試してみる、といったところか。インターネットカルチャーが普及したおかげで私みたいな若輩者ですら、かつてのエソテリックでアルカナたる音楽鉱脈の採掘を行えるようになったし、地元レンタル屋の一角で異様な空気感を醸すジャケオンリーで構成された棚の正体が、実はまぎれもなくカンタベリー系とクラウトロックの集合体だったことを感得したのであった……という長い前置きはもういいや、早速見ていこう。

まずぱっと思いついたのはやっぱりEditions Megoと傘下のSpectrum Spoolsだった。うん、Emeraldsです。

Emeralds「Candy Shoppe」

FFのイントロを思い出したのは私だけじゃないはず。彼らの拠点であったポ-トランドだけじゃなくUSは全体的にノイズについての造詣が深い人々が多くてシーンがあると書いてあったの何年前だったかな。すでにEmeraldsも解散しちゃっているし、今はどうなっているんだろう。まあそれでも2010年に出たアルバム『Does It Look Like I'm Here?』は気持ちがいいほど完全にクラウトロックだった。Mark McGuireのもろManuel Gottschingな虹色ギターパッセージが、Steve Hauschildtらのエレクトロニクスの雲海で鮮やかに舞う。メンバーの一人John Elliottは先述のSpectrum Spoolsを主宰しているのだけど、このレーベルほんとSteve MooreといいBee Maskといい、そういうラインナップなのね。Mooreは最近流行りのL.I.E.Sとも交流があるみたい。

で、Megoで忘れちゃいけないもう一人はOPN。もうWarpだけど。

Oneohtrix Point Never「Where Does Time Go」

Emeraldsと同じ2010年にアルバム『Returnal』をリリース、運命を感じる。これを出す前のNo Fun Productionsからの『Rifts』もシンセドローンの図書館みたいな内容だったっけ。彼ことDaniel Lopatinが主宰しているレーベルはSoftwareという名前で、もしかしてドイツのエレクトロデュオのSoftwareから拝借したのだったらすっごく納得する。『Returnal』は1曲目がタイムリープをミスったような宇宙船にいる感じっていうか、Megoお家芸ではあるかもだけどPan SonicMerzbowかみたいな激ノイズなので気持ち良くも驚くこと間違いなし。でも2曲目からはスペーシーでメディテーティヴなシンセドローンが続くのでリラックスしてSF気分に浸れる。宇宙を漂っていると、ときどきお肌スベスベのエイリアングレイな宇宙人の交信を傍受しちゃったムードに襲われたりもする。

今度はところ変わってUK。近年のUKロックシーンでも、カリスマ的な魅力を持つバンドがクラウトロックの遺伝子を持っていることは少なからずのようで、やっぱり最初にピンとくるのはThe Horrorsか。

The Horrors「I See You」

新譜の曲がカッコイイ〜。もうクラウトっていうよりダンスミュージックだけど。ゴスというタームで語られていたのはTNP同様もはや過去。そのThe Horrorsが賛辞を送るのがサイケな5人組TOY。

TOY「Join The Dots」

すでに話題の人たちだけどもっと有名になるのでは、いや、なっておくれ。Tame Impala、The Preatures、Foxygenといった60's、70'sリヴァイバルとも共振って言いそうになるけど、よりハイブリッドで個人的にどこか一線を画した孤高の印象があるんだ、彼らには。

そして、去年のっしと頭一つ抜きんでたのがTemplesでしたね。この国はこういうタイプの音が得意なのかと改めて思えてきます。当時Faustが支持されたのもUKだったそうだし、そういう土壌なのかも(アングロサクソンの性なのか?)。

Temples「Shelter Song」

もう少し別なアプローチでクラウトロックの遺産を受け継いでいるのはどんなだろうと考えたとき、浮上したのはLAの才媛Julia Holterele-king橋本氏の『Loud City Song』レビューによれば、TMTは彼女の音楽についてモータリック・シャンソンなんて素敵なフレーズで形容したとか(そんな表現してみたい!)

Julia Holter「Our Sorrows」

抑制が効きながらも悲しげなムードが滲む最中で、ソフトにではあるが繰り返される鉄槌はまさしくハンマービート。いつも思うがなんというバランス感覚なんだろう、この人。いかにもヨーロピアンな香りが漂ってるけど、彼女はAriel Pinkのお友達でLAが拠点だそう。今までにリリースされたアルバム3枚全部名盤だし、ファーストはLeavingでセカンドはDomino&RVNG発。もう言わずと知れたスターになったね。

もっと特殊なアプローチ、いや、至極まっとうなアプローチだと、最近やっていたアニメ「ウィッチクラフトワークス」のEDも入るのかな。

ウィッチクラフトワークス ED

いい曲だ〜。タイトルとジャケからして清々しいや。ちなみにアニメの方はまだ見ていません。

さらにアイドルもNeu!なトラックで歌うのがこの時代。オルタナティヴな存在であり続けてほしい、彼女たちの名は、ゆるめるモ!

ゆるめるモ!(You'll Melt More!)「SWEET ESCAPE」

(両方とも素敵だけど)リリスクやEspeciaみたく黒い音楽を武器にバズっている裏でこんなにクールなアイドルがいるってことも、もっと知られてほしい。シューゲなトラックでも歌ってるよ!

そうだ、そもそも本国ドイツではどうなのか?そこで登場、期待のバンド(新人ではない)Klaus Johann Globe。

Klaus Johann Grobe「Koordinaten」

サンクラのタグはKrautrockばかりだったけど、もうここまでくると80's色強いし、半分Neue Deutsche Welleって言えるんじゃ?それにしてもこのAta Takなズレ具合、さすが本場の感性である。あっ、あとポストクラシカルで若干クラウトのニュアンスがあるような気が個人的にしているNils Frahmも挙げておこう、彼はハンブルグ出身。

Nils Frahm「Says (Official Music Video)」

いろいろと見てきたけど、クローザーはこの国のブライテスト、Ogre You Assholeにしよう。

Ogre You Asshole「ロープ(Long Ver) スタジオライブ」 

筆者は先日、愛知県は岡崎市リゾームライブラリーというイベントに行ってきたのだけれど、数々の強者が揃う中でも断トツに圧巻だったのが青葉市子さんと彼ら。名盤『homely』が出た時からライブがやばすぎると噂されていた「ロープ(long ver.)」をやっと生で聴けたんだけどこれが……凄すぎる!!ホールを不敵に揺らすリズム隊、確実な明度と輝度を湛えて発散される昂揚感たっぷりの轟音。に支配される快感空間。とその持続。一心不乱にこちらの覚醒を誘発するギターを鳴らす馬渕氏、終始冷静な佇まいにも潜む熱気がムンムンの出戸&清水両氏、そしてとにかく大太刀を振るう武士の如く快刀乱麻のハンマービートを繰り出し続ける勝浦氏が本当に素敵だった。座席に座っていようと、これが血液が沸騰しないわけないじゃんよ!私の地元シーンで活躍していたというOYAが今これほどの境地に立っていることにも感慨深いものがあった。ブルルゥァアアー↑ヴゥォオーゥウ↓!!!(訳:ブラボー!!!)

以上からまとめると、クラウトロックの血脈はその根本的な快感原則と実験精神を決して損なうことなく、新たな輝きすら獲得しながら全世界に拡散しているということだろう。今までも、そしてこれからも。・・・・・徒然にということで心の向かうままに書きなぐり(というかキーを打ち込み)ましたが、それ故粗い筆致の拙い文章になりました、どうぞご了承くださいませ。それではまた。

 

 

KV