米津玄師『YANKEE』

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米津玄師という方をご存知でしょうか?最近では東京メトロのCMに「アイネクライネ」が採用されたこともあり、耳にされた方もいらっしゃると思います。4月にリリースされた2ndフルアルバム『YANKEE』について先日個人ブログに長々と感想をあげました。ですが「みんなはどう感じたのかな?」という思いが。そこでせっかく音楽だいすきクラブがあることだし、最近合評といういい手があるじゃないか!と呼びかけたところ、自分を含め4名の方にご協力いただくことができました。(かんぞう)

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米津玄師 2nd Album「YANKEE」クロスフェード


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そもそもこの『YANKEE』という言葉は、アメリカ北部の人のこと、つまりイギリスやオランダ系の移民をさす言葉だそうです。移り行く人、放浪者、移民。日本の言葉で言う不良や非行者という言葉とは少し意味が違います。

この一枚を聴いたときに、ただただシンプルに誰かに聴かれる瞬間を意識して作ったのだと感じました。ライブを見据えた曲が増え、これまでボカロクリエイター・ハチとしてニコニコ動画を席巻していた頃の彼とは違い、アナログでいて肉体的な、暖かみのある力強いサウンドが随所にみられます。収録曲で言うと「リビングデッド・ユース」や「花に嵐」「TOXIC BOY」などはその典型で、生の音に拘り抜いたバンドらしさが十二分に発揮された曲たちです。フィジカルなエネルギーや熱気が溢れんばかりに漂っている。人の血が通ったアルバムに仕上がっているのではないでしょうか。

きっとニコニコ動画からの彼を知っている人にとっては、今「米津玄師」として活動している彼の音楽は、きっと受け入れ難いのかもしれません。J-POPに寄ったとも言われ、確かにかつてのアクの強さは鳴りを潜めました。でも僕はそれでいいのだと思います。今回の『YANKEE』というタイトルには、そういう所から移民してきた自分を表す言葉として、この言葉をセレクトしたんじゃないか。そんなふうにも思います。

彼の場合は、今回はきっと「あなた」を意識したのでしょう。このCDを再生し音を聴いたあなた、ライブで自分が演奏したときに目の前で聞いてくれているあなた、いろんな「あなた」に向けて伝えたいこと、伝えるべきことをこの1枚に詰め込み、『YANKEE』を作った。僕のような偏屈な人間だけではなく、ただ道すがら通りかかった兄ちゃん姉ちゃん父ちゃん母ちゃん爺ちゃん婆ちゃんなど、いろんな人にきっと受け入れてもらえるような、優しくもたくましい曲が詰め込まれています。

あくまでも僕の持論ですけど、「誰の為に音楽を鳴らすか」は大事だと思っていて。別にそれがどの方向に行ってもいいのです。自分の為でも、愛する人でも、隣の人でも、それがたとえ人じゃなく街や風景であっても、どこに思いを寄せるかは人それぞれでいいと思います。

東京メトロのCMを聞いて、きっといろんな人が「あ、いい曲だな。誰だろうこれ?」と思ったはずです。普段オリコンチャートやTVで流れるものしか聴かない人でも、グイっとひっかけて、心を鷲掴みにして離さないだけの力強さと求心力を持っている。本当に素晴らしい名盤であると、僕は声を大にして言いたい。ぜひ聴いてみてください。

 

 

かんぞう(@canzou

canzouのblog

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もはや世の中に「いいメロディの曲」というのは出尽くしている。しかしこの米津玄師の2ndアルバム「YANKEE」を聴くと、「まだこんなにもいいメロディの曲があるのか」と思ってしまう。それは米津玄師がかつてボカロPとして数々の曲を世に放ちながらも、今作ではバンドでレコーディングしたという、従来のバンドやシンガーソングライターとは全く違うキャリアを築いてきた背景も間違いなくあるだろう。

2年前のデビューアルバム『diorama』は、米津自身が脳内に描いた「街」を一枚のCDにしたコンセプチュアルな作品だった。しかしあまりにも一枚を通しての完成度が高すぎて、「○曲目だけを聴こう」と思ったことは今に至るまで一度もなく、聴こうと思った時は1曲目から最後まで通してしか聴くことはなかった。

しかし『YANKEE』は『diorama』のようなコンセプトアルバムではない。それを象徴しているのが1曲目。『diorama』では物語のオープニング的な「街」だったが、『YANKEE』はいきなりシングルになってもいいような「リビングデッド・ユース」で幕を開ける。つまり『YANKEE』は1曲だけを切り取っても成立するような、いわゆる、全曲シングルカットできるようなアルバムである。ただ、先行シングルの「サンタマリア」がアルバムの流れで聴くと、より神々しさを増して聴こえたり、初回盤の画集を見てから聴くと、やはりアルバム一枚を通して聴いてもまた別の魅力が浮かび上がってくる作品でもある。

どちらのアルバムが好きかは人によって異なるだろうが、このアルバムは、デビュー作が傑作だった新人は2nd以降で失速する、というジンクスとは全く無縁であるということは間違いない。それどころか、これから先、3枚目や4枚目でさらなる進化を遂げるのではないかという可能性に満ち溢れている。現時点で2014年の暫定1位アルバム。

 

 

ソノダマン(@yoppeleah

主にロックバンドのライブのセトリや全体の空気感をなるべく早くアップするブログ

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米津玄師「アイネクライネ」

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「街」をコンセプトとした前作『diorama』は、この世界のとある町というよりはどこか知らない街、それこそ米津さんの描くキャラクターたちが生きている別世界の物語のように私は感じていました。それから約2年、今作『YANKEE』は架空や想像上の世界から、私たちの日常にぐっと近付いたアルバムだと思えます。

前作と今作の間に出されたシングル曲「サンタマリア」が、2作の変化の過程をよく表していると感じます。《掌をふたつ 重ねたあいだ 一枚の硝子で隔てられていた》と、人と人とが根本的には一緒になれないということを前提にしながら、《闇を背負いながら 一緒にいこう あの光の方へ》と、それでも他人と解り合おうとしたり、いつか解り合えるはずだと信じたりする強さがあるこの曲。そこには、ひとり宅録で自分の世界観を作り上げた前作を経て、他のミュージシャンを迎え、人と関わりながら今作を作っていく選択をした彼の意志や決意が内包されているのではないでしょうか。

楽曲制作からアニメーションまで一人でも手掛けることのできる彼が、人と関わりながら音楽を作っていく選択をした、それが今作に与えた変化は大きいはずです。楽曲制作の過程で自分の世界観と音楽を共有しようとする意志がこのアルバムからは感じられ、それは結果として「あなた」に向けたメッセージとして、聴く人の世界や日常に近付き寄り添おうとするアルバムになったのだと思います。

発売に先駆けて公開された「アイネクライネ」を聴いた時には、おもちゃで遊ぶように楽器を鳴らすなぁと感じたのですが、ボカロ周辺のクリエイターに共通している良い意味で遊び心のある創作性は、米津さんにもあると言えるのではないでしょうか。ボカロP・ハチとしての独特な楽曲のユニークさは、バンドという形を取って表現された今作にも見事に生かされていると思います。意図的に不協和音を使って中毒性を生んだり、ころころとした電子音をぽんぽんと鳴らしてみたり、「MAD HEAD LOVE」などはそれが顕著です。一方で「花に嵐」などバンド形態として正統的な楽曲もあるし、そのどちらとも言えない異質な「KARMA CITY」も面白く、私は大好きです 。

間もなく米津玄師にとっての初ライブがありますが、それを経てからの次作も楽しみです。の前にこちらを聴き込みたいし、多くの人に聴いてもらいたい一枚です。

 


おとべ(@tobe_msc) 

あることないこと

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抱いていた期待をはるかに上回られた!と思いました。

安易にすごい、かっこいい、と表現したくない気もするけれど、聴いているとそのあまりの完成度の高さにそんな言葉がふと口をついて出てしまう、そんなアルバムです。

ボーカロイドを用いた「ハチ」名義の頃の楽曲や、その後現在の名前で発表したデビューアルバム『diorama』等も聴いていましたが、その頃に比べて一気に「開けたな」と感じました。これまでの作品は彼の頭の中の着想を抽出し、描き出したものを額縁に入れて飾る静物のようでしたが、今回の『YANKEE』はこちらに何事かを伝えようと訴えかけてくる、その熱気、気迫が伝わってくる、まるで生き物のような温度を持ったアルバムだと思います。

前作『diorama』はそこがひとつの箱庭であるかのような、一種まとまりのある印象だったのに対し、『YANKEE』ではここに収録された一曲一曲が異なった空気感を持っており、この一枚で様々な情景とそこで暮らす人々の姿や息遣いが伝ってくるような、そんな雑多な日常を表す空気感を感じます。単純にメロディラインの素晴らしい曲ばかりだとも思います。なんとなく口ずさんでしまうような歌と歌詞とが無数にちりばめられていて、緻密に作り込まれたそんな作品に改めて驚かされます。

少し具体的な楽曲の話をしますね。

「リビングデッド・ユース」「MAD HEAD LOVE」「しとど晴天大迷惑」等のやりきれない感情を爆発させるようなアップテンポチューンもあれば、神々しさを湛えた静謐な「サンタマリア」等の楽曲もあり、また「アイネクライネ」のように「あなた」と「わたし」の体温が伝わってくるような暖かみのある曲もあります。かと思えば「ホラ吹き猫野郎」「百鬼夜行」のようなどこか妖しげな和風テイストの曲もあったりと、その振れ幅は広く、通して聴くとまるでおもちゃ箱のような魅力が詰まっています。

そしてこのアルバムの最後は「ドーナツホール」という曲で締めくくられます。これは昨年の10月頃にハチ名義で発表された楽曲であり、それを米津玄師本人がカバーしているというものです。

会えなくなってしまった「あなた」について歌った曲ですが、この曲の最後のフレーズ《あなたの名前は》というところが少し気になりました。

これはわたしの推測ですが、この曲のカバーを行ったのは「米津玄師」と「ハチ」、ふたつの名前を持つ彼がその間に存在するかもしれないギャップを埋めようとしたためなのではないか。しかし彼は「ハチ」でなくなった(=会えなくなった)わけではないし、そうだとしたら、ここで呼ばれたかもしれない名前は何だったのだろう?と考えを巡らせたところでこのアルバムは終わります。

しばらくはきっと聴き込むだろうけれど次作への思いも抱かずにはいられないようなこんな作品をつくる彼から目が離せません。ぜひ一度触れてみてほしいと思います。

 

 

夢(@MissTraum