aiko『泡のような愛だった』

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aikoの新作の合評です。aikoの音楽を文章にするのは難しいです。毎回同じようなことをしているように見えて、着実に変化している。ロックで言うと奥田民生のように淡々と作り続ける職人的な凄みを感じさせる歌い手なのですが、みんないまいち捉えきれていない感じがします。僕たちの感想がaikoの音楽を解き明かしているのかはわかりませんが、ひとつの指針のようなものになればと思います。まだ聴いてない人はせっかくの機会なので聴いて、唸ってくださいね。(ぴっち)

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久々に女友達から近況報告が届いた。aikoのアルバムは、いつもそんなふうに思っている。
今回の「泡のような愛だった」はタイトルの通り、切なさが漂っている。失った恋や忘れられない思い。時々、そんなことを思い出しつつ、日常生活では気丈に振る舞っているような女友達の姿が思い浮かぶ。曲はポップだけど、ずっと切なくて、胸がきゅっとする。ここまで心を動かすのは、きっと日常的な小物が歌詞にいっぱい入っているからだと思う。炭酸水、ガム、手紙、Tシャツなどなど。なんとなく、自分の日常や思い出と重ね合わせて聴こえてくる。

一番好きなのは「あなたを連れて」。体は隣にいるのに、心は遠く知らない過去にいるんじゃないかって思う瞬間だと私には聴こえた。どんなに近づいても他人は他人。でも誰よりもわかりあいたいと思ってしまう。「卒業式」は自分の高校卒業時に聴いていたら、あまりにぴったりで息が止まりそうになったのではないか。本当に一日中泣いていた。二度と会えなくなる訳じゃないのに。そんなことを思い出した。

あまりに心が動くので、何度も聴く訳ではないのだけれど。時間のある一人の時間にじっくり聴きたい。蛇足ですが、歌詞カードのワンピース姿のaikoがかわいいです。

 

 

かえで(@kaede_lily

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aiko「Loveletter」

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aikoの新作『泡のような恋だった』は結論から言えば「aikoの音楽は最高だ!」と思わせてくれる、質の高いポップアルバムです。

前作『時のシルエット』は荘厳な緊張感を感じさせつつ、円熟期に入ったと思わせる作品だったので、その分今回のアルバムに対しての期待感は高まり、自分の中のハードルが上がっていました。今回のアルバムは自分が今歌いたい言葉、出したい音をそのまま詰め込んだような自由度の高いアルバムになっていると思います。とてもフレッシュな作品になっていると感じました。

1曲目「明日の歌」のイントロでのハネたピアノから始まるaikoの少しぶっきらぼうな歌い出し。3曲目、「Love Letter」では久々にギターを前面に押し出したスピード感と緊張感を見せ、6曲目「遊園地」はブラスを取り入れた陽性なサウンドなど、様々な顔を見せるaikoの音楽。そしてこのアルバムのハイライトは何と言っても10曲目「君の隣」。イントロから溢れ出す多幸感、伸びやかな歌声によるこの曲は個人的にはaikoの曲の中でも最高傑作に入る部類なんじゃないかと勝手に思っています。

デビューから16年、その間にオリジナルアルバム10枚リリース、ベストアルバムも2枚リリース。紅白歌合戦もほぼ毎年出演しているなど、活動歴はもはやベテランの域。これだけ長い期間音楽活動を繰り返すと、音楽性が変化するなどよくある話。さらに音楽シーンは絶えず変化し、様々な音楽が流行り廃りを繰り返す中、aikoは一貫して「わたしとあなたの世界」を歌い続けている。周りがどうであれ、自分の表現方法を変えず貫いてきている。

人によっては「どんな曲も同じに聴こえる」など、aikoの音楽について否定的な声を持っている人もいるかもしれません。アルバム毎に音の雰囲気が異なる、というわけでもないので、そう感じてしまうのも無理はない気はします。

逆にこれだけの長い期間、自分の表現を変えずにやってきたことで、aikoの音楽は老舗の名菓のように、偉大なる安定感、安心感をもたらしてくれる。

前回、僕はいきものがかりの最新作のレビューで、「いきものがかりの音楽は今のメインストリームに対するカウンターである」と書きましたが、aikoこそまさに時代を問わずいつでも耳に素直に入る、普遍性を持った高品質の音楽であり、今の音楽シーンの中で、王道であり異端ですらある存在であると思っている。

この先、時代がどう変わっていったとしても、彼女の音楽はきっと変わらずに、寄り添ってくれるんだろうと確信させる、そんなアルバム。

 

 

のすペン(@nosupen

南極ペンギン大冒険部屋

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aiko「君の隣」

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約2年ぶりとなるaiko11枚目のアルバムです。待ち遠しかった。

前作『時のシルエット』では、1曲のみ編曲を吉俣良氏が手掛けていました(それがまたいい出来だった)が、今作では全曲とも編曲は島田昌典氏。aikoの安定系スタンダードです。

「明日の歌」

MVも作られている今作のリードナンバー。最初の一音からaikoらしさ全開です。時のシルエットにおける「冷たい嘘」などでも同じことが言えますが、これも歌詞の出だしが面白いですね。

「Love letter」

aikoの中ではTOP5に入るくらいのロックナンバーで、Love Like Rockにはピッタリ。わりと回数聴いてるんだけど、やっぱりサビが(いい意味で)気持ち悪い。ブリッジではストリングス隊が活躍してくれて、待ってました〜!みたいな感じになります。

「4月の雨」

良質なミディアムバラード。かつ、半音の魔術師という異名通りの音使い。ウィンドチャイムがシャリラリラーンと鳴り響くのはaikoでは珍しい気がします。

全体的に『BABY』のようなバンドサウンドテイストが強い印象です。前作『時のシルエット』を初聴したとき、あまりのクオリティの高さに驚いたことを覚えていますが、今作もなかなかな仕上がりでした。

「染まる夢」のような先の展開が読めないワクワク感などはやっぱり流石だし、「サイダー」や「キスの息」なんかは『泡のような愛だった』というタイトルを落とし込んでいく面白さがあります。

結局のところaikoの描く世界の根本はずっと変わらず、安心します。まるで並走する電車のように、生活の横にそっと腰を下ろして。

aikoクリシェを否定しません。あなたを包む音楽がここにはあります。ぜひ、繰り返し触れてみてください。

 

 

れーふぉ(@re_fort

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aiko「明日の歌」

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菊地成孔が雷に打たれたみたいにラーメンが食べれなくなった「くちびる」の歌詞《ああ、あなたのいない世界には、あたしはいない》で興味をもったのが最初。それからtwitterで流れてきた過去のラジオの「こんな天気だと家にこもって猿みたいにヤリまくりたいなあ」発言のエピソード(真偽は不明)など、きっかけはいろいろあった。

全員がそうだとは言わないけど「ヤリまくりたい」的な性欲だけではなく、人を好きになって愛しまくりたい衝動に駆られた経験は誰にでもあると思う。でも365日ずっと発情しっぱなしの人はあまり多くないだろうし、そういう衝動は食欲や睡眠欲よりは頻度が低いと思う。僕の場合、時間に換算すると「音楽を聴いていたい」欲求のほうがずっと強い。もちろんだからといって性欲や恋愛欲がゼロというわけではない。

aikoの歌は恋愛欲や性欲といったものにダイレクトに応えるように作られていると思う。音楽欲を満たすために作られているとは思えない。僕はこのアルバムの中で「キスの息」という曲が一番よかった。彼女はこう歌っている。

あと2時間でまた朝が来る カーテン閉めれば闇が来る
じゃあ巻き付けて二人の夜を作ろう
上手にキスが出来やしないや だけど怖いくらい繰り返した
闇の中で闇を消して不安は止まり離れられないキスの息

 

あぁこの世界に墜ちた

(「キスの息」)

付き合いはじめの恋人たちのようでもあり、まるでアダムとイブの話のようにも思える。恋とか愛といったものを大袈裟に描いているわけでもないし、かと言って突き放してみているわけでもない。自分の中の衝動を自覚しながら、それを一般化し過ぎることもなく、かといって大袈裟に描くわけでもなく、淡々と言葉を紡ぐ熟練の職人のような迫力がある。

彼女は「恋愛とその喪失」という一つのテーマを一生涯かけて追い続けるタイプのシンガーソングライターなのだと思う。そして言葉を伝えるために、アレンジをできるだけわかりやすい形にしている。その変化の乏しさが個人的に物足りないけれど、逆に言うと彼女の音楽に改善はあれど改悪はありえない。淡々と毎回、最高水準(最高傑作は聴く人によるだろうし)を更新し続けるのだと思う。そういう難しいことをしている。

 

 

ぴっち(@pitti2210)