うみのて『UNKNOWN FUTURES (& FIREWORKS)』

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5月30日の秋葉原グッドマンでのライヴをもって、ライブ活動休止期間に入っているうみのて。しかし今でも制作には意欲を見せているので、音源の発表が期待される。

『UNKNOWN FUTURES(&FIREWORKS)』は、聴く者に忘れられない爪痕を残すうみのての1stミニアルバムだ。レコーディングエンジニアに、道下慎介(LSD MARCH、オシリペンペンズ)を迎え、1stフルアルバムから約8か月のスパンで届けられた。

これほどメッセージ性にあふれた音楽を作っているのに、フロントマンの笹口騒音ハーモニカは「伝えたいことはない」と言う。うみのての音楽はどこか傍観している。ただ温かい。僕はそれを優しいと感じる。笹口さんの湯気が立つようなボーカルの横で、高野P介のギターも、円庭鈴子の鍵盤と鉄琴も、早瀬雅之のベースも、キクイマホのドラムも、歌を邪魔せずに気温と湿度を上げていく。エフェクトを重ねるギターとファルセットに裏返る笹口さんのボーカルは、どこか幽玄の音世界を作り出す。うみのての音はむき出しだ。魂も狂気も空腹にうずくまる愛も、うみのての音楽はさらけ出す。

1曲目の「UNKNOWN IDIOT」は2ちゃんねるのことを歌った曲だ。笹口さんが2ちゃんの"うみのてスレ"に苛ついて作られた。キーボードを叩く音と断頭台のようなリズムからはじまり、虚無を埋める闇夜のようなギターが繰り出される。笹口さんのエミネムを真似たようなボーカルが温度を上げる。否定と憎しみの渦にまみれた2ちゃんの世界にうみのては愛を持ち込む。メンバーの5人の顔を合成した今回のアルバムジャケットのような匿名の名無しのお前を吊し上げ、腐りきった心と顔を白日の下にさらす。濃密な2分半だ。

「UNKNOWN IDIOT」

2曲目の「NEW(NU) CLEAR.NEW(NO) FUTURE」は原発のことを歌っている。2ちゃんや原発といったテーマに自身の思想を投げかけてエンターテインメントにしている。twitterで曲を紹介する際「1曲目 2ちゃん(笑)、2曲目 原発(笑)」と「(笑)」を笹口さんはつけていた。

その皮肉的な冷めた視線がうみのての思想に一般性と客観性をもたらしている。個人的にこの曲が今作のハイライト。

不穏なエフェクトの音とジャグバンド風のリズムから、感情的で叙情的なギターの音が流れる。そこに乗る笹口さんのどこかしら達観したボーカル。音がバグっていくようなこの終わり方は、NO FUTUREを描いていると同時に、NEW FUTUREやUNKNOWN FUTUREも描いているのではないか。近未来では記号は破壊され、愛だけがさまよう。

気づけば1曲目と2曲目を終わりなくリピートしている僕がいる。体温や血の匂いにも似た温かさは、僕の寂しさの空洞を埋めてくれる。笹口さんも笹口さんの中にある空洞を埋めたくて歌っているのではないか。

「NEW(NU)CLEAR, NEW(NO)FUTURE」

3曲目「下から見上げる花火、上から見下ろす火花」は、笹口さんが大林宣彦の『この空の花-長岡花火物語-』からインスパイアされた。花火大会の風景と戦争の空襲の風景がクロスし、爽やかな風と殺戮の風が交錯する。美しさと鮮やかさと明るさ、残酷さと不穏さと隠れた血なまぐささが広がる。

4曲目「上から見下ろす火花、下から見上げる花火」はアップテンポのアッパーなチューン。ライブで陽気に踊れそう。お祭り的なワッショイワッショイの曲で、これぞ和風ダンスナンバー。日本のお祭りの狂騒と祝祭感が、うみのての狂気に祭り上げられる楽しい曲だ。

ボーナストラックの「僕の家(海の家ver.)」は、ピアニカとギターの物悲しい旋律がかき立てる、笹口さんの空洞の周縁にある疎外感に共感する美しい曲だ。「UNKNOWN IDIOT(idiot mix)」は、あらかじめ決められた恋人たちへの池永正二による、こってりとしていて踊れるダブリミックス。低音がクセになる。ううむ、この曲を機にダブステップの世界に目覚めてしまいそうだ。

うみのてのこれからがとても楽しみだ。これからも追いかける心構えができた。

過去から未来を見渡す透徹した視線の一方で、うみのてには花火や火花にも似た温かさがある。昨冬は冬の冷たいコンクリートの壁の中で、うみのての音楽で暖を取った。物事を一歩引いて見ているようなとてもクールな音楽でもある。今年の暑い夏は、うみのての音楽を聴いてはやる心をクールダウンさせたい。うみのての音楽は、欠けた脳の破片のラストピースのように、僕の空洞も埋めてくれる。

 

 

よーよー(@yoyo0616

とかげ日記