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アーバンギャルド『鬱くしい国』

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本作についての感想を書く前に、まず自分のアーバンギャルド論について書いてみたい。

アーバンギャルドは「トラウマテクノポップ」を自称しているが、テクノポップというジャンルで語ることができない音楽性だ。雑多な情報が音に詰め込まれて、ジャンル分けしにくい。

サウンドの中で目立っているのはシンセ。チップチューンを意識した高音域のシンセが音の隙間を埋め尽くすピーキーな音作りで、ボトムが薄く、フィジカルな感覚が希薄だ。そのため、赤や白などの原色を多く用いるどぎついアートワークやアーティスト写真と親和性がある。妄想をシンセの音色で表現する観念的な音楽であるため、アーバンギャルドを聴いても踊れず、自分の霊体をその場に立ち止まらせるだけだ。アーバンギャルドの前では肉体は消滅する。アーバンギャルドは、血が飛び交い、生きるか死ぬかの辛辣なリアルを、軽やかでファンタジックなリアルに昇華する。

一瞬のスキもない騒がしい音楽なのだが、浜崎容子のボーカルと楽器隊の演奏の織り出す高音域のサウンドの中に、松永天馬のどこか間の抜けたキャラクターの低い声がある。そのため落ち着く作りになっている。また、松永天馬のマシンガンのような言葉の連射とアジテーション、そして楽器隊の終始ハイテンションな演奏の中で、「我関せず」といった立ち位置の浜崎容子のナチュラルなテンションのボーカルも一息つける。

ツインボーカルの松永天馬と浜崎容子は、互いに互いを補完する。シニカルな熱血で突き進んでいく松永天馬と、それに冷静なツッコミを入れる浜崎容子。漫才のようなこのコンビを、瀬々信と鍵山喬一による楽器隊がサウンドの舞台を作って援護射撃する。血まみれのサウンドでできたステージの上で、自由奔放に演劇的なパフォーマンスを興じてみせる二人。

アーバンギャルドは、全速力で生を駆け抜ける。松永天馬が少女と病をテーマに歌詞を書き続けるのは、生きるということを浮き彫りにしたいからだ。少女で生きられる時間は少ない。病で生きられる時間も少ない。松永天馬の歌詞は喪失と死という劇薬をもって、生きるということの本質を突きつける。優れた詩人の歌詞は、僕らの生を揺さぶるのだ。少女でも病でもない人間でも、アーバンギャルドの生と死の密度に心を揺さぶられる人もいるだろう。アーバンギャルドの音楽を聴いていると、現世で肉体が消滅し、その言葉は天国と地獄を繋いでいる。点滅している生と死の信号に、僕らの魂は強く反応する。

今年、松永天馬は、「詩のボクシング」という詩を朗読する大会で優勝した。詩の実力は折り紙つきだ。アーバンギャルドがセンセーショナルな音楽をやるだけのバンドでない理由は、僕は松永天馬の歌詞の中にあると思っている。彼の歌詞とそれを具現化するサウンドがあってこそのアーバンギャルドだ。一つ一つの言葉にドキドキする。

楽器隊のサウンドの中で抜きを作れないため、どの曲も情報量過多の似たような曲調のポップスになると思っている人も多いだろう。だが、アーバンギャルドで曲の個性を形作るのは、曲に込められた思想だと僕は思っている。その色とりどりの思想とその思想を具現化したサウンドにより、どの曲もオリジナリティがある。一直線で突っ走るサウンドと、水玉よりもカラフルな思想を浴びて、リスナーは生き生きと呼吸する。

アーバンギャルドの音楽は、神聖かまってちゃんと並んで、カウンターカルチャーの主戦場だ。前衛をポップに落としこむその手腕は凄まじい。

神聖かまってちゃんと大きく違うところの一つは、歌詞を書くフロントマンが病気であるか否か。の子はいわゆるメンヘラで、病気をモチーフにした歌詞を書くのは、彼が実際に病気であるからだ。それに対して松永天馬は病気でもなんでもない。だけど、病人をモチーフにして歌詞を書いている。彼の歌詞が物事を俯瞰しているような印象を受けるのは、松永天馬が観察者だからだ。物事と人々を観察し、詩人の目で本質を見抜いて歌詞にする。松永は少女ではないのに、少女のことを歌詞にするのも、観察者であるからだろう。そして、パニック障害という病を抱えていたこともあり、女性である浜崎容子が触媒となって松永の歌詞世界を表現する。

松永天馬が観察者であることは、サブカルチャーがメタ的な視点を好むことと相性が良い。元ネタが分からなくなるくらい、メタ的な立場でネタを乱射する歌詞やアートワークやアーティスト写真。アーバンギャルドは息が絶えてきたサブカルチャーの最後の牙城の一つだった。

だが、アーバンギャルドは、前作『ガイガーカウンターカルチャー』でサブカルチャーに別れを告げた。松永によると、「ガイガーカウンターカウンターカルチャーを繋げたタイトルは、メインカルチャーとなって牙を抜かれたサブカルチャーに対し、新たな抵抗文化、基準値を作っていくというプロパガンダでもある」とのこと。僕の敬愛する音楽ライターである津田真氏に、「サブカルチャーというのはある意味、過去と戯れるものですが、ここで彼らははっきり未来を見据えたのだと思います。感動と戦慄の、そして別れと始まりのアルバム」と評させた現時点での最高傑作。

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そして、本作『鬱くしい国』は、谷地村啓(key)脱退、レーベル移籍を経て、6月18日に発売されたアルバム。日本をテーマにしたアルバムである。松永天馬の風刺のペンは本作でも冴え渡っている。アルバムタイトルの元ネタは、もちろん安倍首相のフレーズ「美しい国」だ。

彼らの「トラウマテクノポップ」な音楽性に、世界的な潮流であるEDMや、日本のガラパゴス的な音楽であるボーカロイド・アイドルソングの要素を取り入れた意欲作だ。

日本を「美しい国」と言った時に隠蔽されてしまう何かがこのアルバムには詰まっている。日本の年間自殺者は約3万人。僕らの心の中では、常に内戦が起きている。先ほど僕が書いたことに照らし合わせば、このアルバムで日本をテーマにしたのも生きることを浮き彫りにしたいからだ。死と鬱と隣り合わせにある日本と、その日本に住む少女と僕らの本質を詩人の目で見抜き、リスナーを生きる方へ扇動する。このアルバムは、美しい国というファンタ ジーの欺瞞を暴き、鬱くしい国という新たなファンタジーを立ち上げる。そして、僕らリスナーは美しい国よりも、鬱くしい国の方に共感するのだ。 ファンタジーでありながら、ここには、日本に生きる僕らのリアリティがある。

簡単に各曲を見ていこう。

 

1. ワンピース心中

バンドサウンド中心だった近作から打って変わってのEDM路線のサウンドで幕を開ける。本作のモードを高らかに宣言する。

2. さくらメメント

古語の歌詞、和風なメロディーやチップチューンの要素を取り入れて、日本を華やかに表現。愉快でアッパーな楽曲。

3. 生教育

本作で僕が最も好きでオススメしたい曲。スクールカーストの底辺にいる子でも救われてしまうような文学性が、歌詞と落ち着いたメロディーの中にある。アーバンギャルドはリスナーに生きることを教育する。

4. 君にハラキリ

大瀧詠一の「君は天然色」のような爽やかなAOR風サウンドに乗るのは、切腹を意味する「ハラキリ」という歌詞。死の過激さが恋の爽快さに包まれる独特な世界観だ。

5. ロリィタ服と機関銃

MGMTの「Kids」を思い出した。カラオケのオケのようなサウンドを違う文脈で鳴らしているという点において。

6. 自撮入門

「自撮」と書いて、ここでは「じさつ」と読む。自殺を連想させる過激な響きが、コミカルなサウンドに乗る。この曲は「自撮り」をテーマにしたものだが、この曲に限らずアーバンギャルドの曲は、シチュエーションが具体的。ポエマーのように自分の「頑張る」や「好き」という思いを表現するだけの抽象的で観念的な歌詞が多いJ-POPの世界において、特徴的な歌詞のアーティストだ。

7. アガペーソング

静謐なピアノの音色をバックに浜崎容子のしっとりとした歌声が響く。よこたんの歌声をじっくり楽しむには持ってこいの曲だ。

8. ガールズコレクション

J-POPの新たなスタンダード曲になれるようなポップで完璧なメロディーの楽曲。アーバンギャルドの他の曲を聴いて好きになれなかった人でも良い曲に認めてくれそう。

9. 戦争を知りたい子供たち

大槻ケンヂが参加。大槻ケンヂのサウンドに近接した作りだ。浜崎容子のボーカルがない珍しい曲。

10. R.I.P.スティック

スローなテンポが口紅の艶やかさを表現しているよう に思える。ラジカルにプログレッシブな展開をする曲。

11. 僕が世

日本をテーマにしたアルバムの最後を飾る曲は、「君が代」ではなく「僕が世」。息をしているのは共同体ではなく、一人一人の「僕」であるという裏テーマを感じる。「僕が世はあなたのために」という歌詞は「アーバンギャルドの音楽はリスナーのためにありますよ」という、アーバンギャルドがポップであることの理由のように聴こえる。一人称が「僕」で綴られる最後の三曲には、アーバンギャルドからリスナーへのメッセージが詰まっている。

本作をきっかけにアーバンギャルやアーバンギャルソン(彼らのファンをこう呼ぶ)が増えてほしい。アーバンギャルの音楽は聴く人を選ぶ。だが、今はアーバンギャルドを知らなくても、アーバンギャルドの音楽を必要としている人がたくさんいるはずだ。アーバンギャルドは病める僕らの救世主であり、アイドルなのだから。

 

 

よーよー(@yoyo0616

とかげ日記