LLLL『Paradice』

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東京を拠点に活動するエレクトロ/シューゲイズ・アクト、LLLLの1stアルバムです。想像以上にハマっている人が多く、メジャーでないにもかかわらず、合評することになりました。エレキングでもサインマグでもないのに、まさかこういう音楽の合評をすることになるとは思わなかったのですが、ひとりでも多くこのアルバムを手に取る人が増えるきっかけになれば幸いです。フリーダウンロードだし、ぜひ。(ぴっち)

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いろいろ調べたのだけど、LLLLのことはあまりわからなかった。それでもとりあえず判明したことが何かの役に立つかもしれないので羅列しておきます。

  • 東京を拠点に活動
  • バンドの読み方は自由
  • 2人組。そこにボーカリストが含まれるかは不明
  • ボーカリストは女性(と思われる)
  • 2人とも日本人だけど、片方(もしくは両方)は幼少時欧米で育った
  • 活動がはじまったのは2013年の春頃

以上の情報は「lights and music」のインタビュー等のネットの情報から抜粋、もしくは推測を加えた上で羅列したものなので、より詳細な情報を持っている方はぜひ教えてください。

 

さて、まずLLLLの音楽について紐解いていくのだが、このアルバムのBandcampのページのタグがもっとも端的にこの音楽を表している。「electronic ambient j-pop post-punk shoegaze synthwave California」という7つのタグ。まさにそのようなジャンルの音楽だ。エレクトロでアンビエント、そしてシューゲイズにシンセ。最初に2013年にリリースされたWashed Outの『Paracosm』という作品を思い出した。ただしWashed Outの作品の方がずっと明るくてカラフル。印象については真逆と言えるほどなんだけど、それ以外の要素はとてもよく似ている。聴く人を別に世界へ連れ去るのだ。そういう強烈な作用がある。

しかし連れ去られる場所が明確に違う。Washed Outは光が溢れた楽園的な世界観を構築しているのに対し、LLLLはどこか薄暗くて忙しなく、つらい。そこで先ほどの7つの中の「j-pop(=J-POP)」のタグがそれを解き明かす鍵になる。

そもそもJ-POPとは何かという話なのだが、あくまでここでは「苦痛が快楽に転ずる音楽」だと定義する。それがすべてのJ-POPに適応できるとは思ってはいないし、この法則に従わずに名作と呼ばれるに至ったアルバムもたくさんある。しかし基本的にJ-POPとは「不幸を受け入れる音楽」だと思う。例えば僕が好きな銀杏BOYZの『光のなかに立っていてね』もサカナクションの『sakanaction』も、宇多田ヒカルの『HEART STATION』も、Mr.Childrenの『深海』もPerfumeの『LEVEL3』基本的には同じ。アーティストにとっても聴く人にもしんどい時間があるけれど、いつのまにかそれが快楽に転化する。むしろその落差があるほどおもしろくなるし、アルバムを聴き終わる頃には鮮やかな気持ちになる。

多くのJ-POPにそのような効能が備わっているのは、僕たち日本人がそのような「苦しみの先の答え」を見出しながら生きているからだ。アメリカの2倍近くの自殺率を記録し、過度な残業から過労死の絶えないこの国では、真面目であることが最高の美徳とされる。一見戦争の起こらない社会で僕らは、僕らの中に棲む虚無主義と戦い続けている。挙句に少年や少女が戦争をさせられるようなアニメがヒットし、戦いの中で到達する答えこそが、その社会へのアンサーであるような風潮が蔓延している。

LLLLはWashed Outのように、聴く人をどこか別に場所へ連れ去る。しかしそこは決して楽園ではない。むしろ現実を過度に歪曲した不幸が渦巻く苦しみの世界に僕らを連れ去り、その先で僕らは何か新しい答えを見つけなければならない。楽園など存在しない。むしろこの苦しみの絶えない世界で答えを見つけ出すことこそが僕らに必要なのだ。

いつまでも終わりのない苦しみの終わり。悲しみの果てに待つあなた。永遠に続くかのような夜が明ける。この音楽は紛れも無くJ-POPだ。

 

 

ぴっち(@pitti2210

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LLLL『Paradice』

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LLLLという名前から、何を想像するのだろうか。せいぜい「ラージでファットな体型の暑苦しい人が4人集まったのだろうか」くらいしか意味合いをもたせられない記号的で無機質な表記である。曲もvaporwaveのような、主に一部の音楽好きに好まれるマニアックなものかも、という偏見くらいは抱くかもしれない。しかし蓋を開けてみれば、BGMとしてとても親しみやすいものばかりのポップアルバムになっている(少なくとも、私が持っているスーパーカーの『ANSWER』よりは断然キャッチーです)。近未来をパッケージしたら、今現在とシンクロしてしまったような、現実にほどよく寄り添ってくれるバランスのトリップ感がある。そしてこの神聖さ、夏の蒸した部屋におけるクーラーの冷風みたい。2012年に公開されたEPからの「Drowned Fish」のアンセムっぷりから気になってましたが、こんなに濃厚なアルバムを出してくるのは期待以上でした。

このノリの音楽って、ボーカルはオマケ扱いなイメージあった。でも今作を聴いたら思った以上にしっかり歌が主張しており、そこがJ-POPと衒いもなく表現できるところなのかな。「Quietly」の更なる開放感からの「Blurred」、歌モノ真骨頂キラーチューン「Assume」の流れが好き。

 

 

わど(@wadledy

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「Drowned Fish」

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ジャンル的にはチルウェーブになるのかな。けどジャンルなんて枠にとらわれず、2010年代後半〜2020年代の音楽が押し寄せる。2020年代と表記したのは誤記ではなく、未来らしい音が聴こえてくるからである。全て英歌詞で何を言っているのかわからないのも未来感を加速させていて良い。要するにSFアニメの挿入歌やEDにもってこいということ。アニメ「serial experiments lain」にすごいマッチする。

90年代の音楽がリバイバルされ、カバーや90年代+10年代の音楽、正統派J-POP的音楽が流行する中、LLLLの音楽はドープな10年代音楽。こう書くと誤解されそうだがドープと言ってもLLLLの場合、女性ボーカルかつ煌びやかな声なのでドープでポップと言っても間違いではないだろう。

最近あまり耳にすることが少なくなったコンセプトアルバムらしいアプローチで、リードトラックであろう3曲目「Drowned Fish」で退廃的なのにどこか希望のある音楽に出会い、8曲目「Quietly」では閉ざされた空間から広い明るい未来に飛ばされ、9〜14曲目ではゆっくりと無機質な音楽が支配される。

以前のEP『Mirror』に収録されていた曲も数曲今回のアルバムに登場している。特に「Lost Place」という曲は「FOI」と曲名に変更されていた。これがどういう意味を示しているかわからないが、Lost Placeという失われた場所は『Paradice』を経てFOIという場所に生まれ変わっただろうと、いろいろ想像が膨らむストーリー性のあるアルバム。

 

 

api@api_333

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「Because of my eyes」

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震えよ、これは福音だ。胸が陶酔と熱で満ちてゆく。耽美に潜む死と今この時代にいるという生が摩擦し、火花が鈍く煌めき散る美しい瞬間の、13の記録。一縷の光がファイバーを通して集められたその先には、間違いなく燃え立つ希望の炎があった。LLLL『Paradice』、この音が心の扉を叩く。

彼女たちは超然としている。語る言葉も少なに、あらゆるカテゴリーやシーンに囲い込みたがるディレッタントの思惑が込められた視線を全てリフレクトし、孤高の姿をその目に焼き付ける。至って自然体で音を鳴らすLLLLに、私はD-Dayに近しい雰囲気を感じた。そして、postpunkの隣に刻み込まれたj-popの文字は、この混沌とした回線に澄み切った一瞥を与えるべく下されしデルフォイの神託のようだ。

絞り出すようなウィスパーボイスが遊泳する恍惚のトラックの数々に、気がつけば沈みこんでいる。まどろみながらも遥かな海底で一人、喜びの表情をふわりと浮かべている。この多幸感がいつまでも続いてほしい、そう願ってしまう自分を、夢の中のように自身が見つけてしまう。「Drowned Fish」で彼岸の景色を垣間見、「I Wish You」の引き攣った反復に痺れ、「You」の包み込むシンセの雲海で咽ぶ。どの楽曲に身を置こうとも、降り注ぐ明朗の雨からは逃れられぬ。

4AD、Factory、TriAngle、Lucky Me、Italians Do It Better、Not Not Fun、Virgin Babylon……なんだって良い。その手に持つ巨大な世界の縮図をポップの夜空に翳せば、透けて輝く星々に沿って進むべき道が照らし出される。崇高の名の下に、スパンコールの羽衣に覆われた音の槍で、胸は貫かれる。私も貴方も、もはや後ろに道はない。繰り返そう、これは福音なんだ。

 

 

KV(@sunday_thinker