L'Arc-en-Ciel『EVERLASTING』

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2年8ヶ月ぶりにリリースされたラルクの新曲です。完全受注生産盤でCD+PHOTOSの1形態で3800円。その上完全にファン向けの曲なので、世間一般的にはドン引きであることは容易に想像がつくし、実際自分も若干引いているのですが、曲が素晴らしかったのでレビューしました。ラルク史的にも重要な曲だけど、果たしてこのブログ的に重要なのかは自信ありません……。でも気になる方だけでも読んでいただければ。いい曲だよ!(ぴっち)

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「EVERLASTING」を初めて聴いたのは、今年の3月に行われた国立競技場のライブ中だった。突然の新曲発表というMCに驚く間もなく、世界の深淵からすべての業を背負ってこちら側に歩いてくるようなイントロが鳴り始めてぐっと息をのんだ。

そのときの感想はブログに書き留めたのだけど、いま振り返れば、ソロ活動の多くなった彼らの姿を見ながら、同時に、会場が国立競技場であることやプロジェクションマッピングなど客席への新技術の導入などが行われたその「空間」の持つ意味に支配され、現実と非常に近い目線でしか物事を捉えられなくなっていた。しかし改めて普段の環境で聴いてみると、やはりラルクの音楽は非日常への誘いであり、「EVERLASTING」は悲しすぎる恋の歌だなと再認識することになった。

《止まない雨に 止まない君》と悲痛な声で歌い上げられるこの歌は、2012年hydeのあまりの艶かしさにラルクファンだけでなく世間にも衝撃を与えた (であろう)「XXX」の続きのストーリーなのではないだろうか。《Darling これが最後のキスなのね》のあとの、寂寞たる世界。じつはラルクにはわりと悲恋・失恋系の歌が多い。恋愛に限定せずとも叶わないこと・手に入れられないことへの痛みや切なさを繊細に綴るhydeの歌詞は、つねにラルクの音楽をより儚く味付ける。けれど「EVERLASTING」がこれまでに歌われる悲恋ソングと差別化されているのは、過去を遥かに凌駕する激しくも妖艶で圧倒的なhydeのヴォーカルと、一音一音に情景が込められた最低限の音色で構成された壮大なインダストリアル・バラードの世界観にあるのではないか。

yukihiro曲か大穴でtetsuya曲かな?と思っていたのだけど予想外のken曲で驚いた。(国立2日目MC・hydekenちゃんが映画音楽 のような曲を作ってきてくれました(大意)」)TLを見る限りわたし以外にもyukihiro曲だと予想した人が圧倒的に多かったのだけど、それはイントロからずっと流れている打ち込み音に理由がある。かつてラルクに打ち込みをもたらした人こそがドラムのyukihiroだからだ。途中加入のストーリーは 割愛するが、その大すぎる贈り物に改めて感謝したい。

ツインギター(!)のバンドサウンドに重厚なストリングス、そこにスパイスのようにずっと効いている打ち込み音。その必要最低限の組み合わせだからこそ、 押し殺された感情がフル爆発して乗ったヴォーカルが活き、20年以上続くバンドのゴス・耽美・退廃というキーワードを彷彿とさせる「原点回帰」を夢見られるような新たな世界を見せてくれた。常に新しいこと・誰もやっていないことの実現を目指すラルクから、離れる時はまだ当分やって来なさそうだ。

 

 

やや(@mewmew7

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なぜラルクは過小評価されているのか。実際に過小評価されているのかの議論はさておき、ラルクが過小評価されている主な理由として「00年代のロキノン系と距離をおいていたこと」「フェス戦線を無視していたこと」「ポップ路線に舵を切ったこと」が挙げられる。それは結局のところ、ラルクが00年代半ば以降に目を向けていたのが海外だったことの裏返しでもある。ラルクは日本国外における成功を勝ち取るために国内のファンに十分に目を向ける余裕がなかった。フェス戦線や音楽オタクの評価は得られなかったが、国内ではドームやスタジアムでのライブを次々と成功させ、海外でもアリーナクラス、そしてマジソン・スクエア・ガーデンでのライブを成功させた。これはサザン、SMAPミスチルといった国内アーティストは元より、X JAPANLUNA SEAといった海外で人気のあるバンドでも成し得なかった偉業だ。

そのためにラルクが採った戦略、それこそが大ポップ路線だった。ラルクは2005年のロック色の強い『AWAKE』以降、「Link」「SEVENTHE HEAVEN」「MY HEART DRAWS A DREAM」といったポップなシングル曲を乱発し、初期の最高傑作と名高い『TRUE』以上にポップなアルバム『KISS』を作り上げた。2004年のアメリカでの「OTAKON 2004」でのライブ以降、海外を主戦場にするためにラルクが採った戦略は「サウンド(特にリズム方面)におけるアメリカナイズ」でも「英語の採用」でもなく、「メロディの強化」だったことは見過ごされている事実だと思う。そして2012年の『BUTTERFLY』までその路線は続き、最終的にはマジソン・スクエア・ガーデンでの成功に繋がった。

しかしその代償として、ラルクは「失敗が許されないバンド」になり、同時にアーティストとして実験することができないバンドになった。年々作曲のモチベーションが低下し、特にhydeyukihiroがソロの場でクリエイティビティを発揮するようになった。しかもhydeVAMPSの初期がhyde史の中でソングライターとして最も脂が乗った時期だったと思う。しかしその時期にラルクという母体でそれを発揮することは不可能だった(「XXX」で部分的に発揮したとはいえ)。そのくらい00年代後半のラルクはシビアに運行していた。

そんなラルクが約3年ぶりにシングルをリリースした。収録曲数は1曲で価格は3800円。はっきり言って馬鹿げてる。

しかし同時に「ようやくラルクは自由になれたのだ」と思った。「Link」以降11枚のシングルと2枚のアルバムをリリースし、おまけにベストアルバムを5枚(!)リリースし、パリやNYでのライブを成功させ、ようやく売れることを一切気にせず好き勝手できるシングルをリリースすることができた。それが今回の「EVERLASTING」である。確かに値段は高いし、楽曲は通好みで一般受けはしない。しかし長年ファンをやってきた人間にはわかる。「ようやくラルクが帰ってきたのだ」と。

作詞はhyde、作曲はken。インダストリアル色が強くyukihiro曲だと見紛うような重厚な印象だ。個人的には「真実と幻想と」や「a swell in the sun」を思い出した。時期やリリースの形態が中途半端なことを考えると最初のベスト盤に収録された「Anemone」に近い位置づけの曲だと思う。

「瞬間と永遠」これこそがラルクのテーマであり、彼らの原動力でもある。90年代後半にラルクの青春が終わり、2度目の活動においてアメリカ圏での成功も手中に収めた。そんな彼らが次に向かうのは「活動の自由度を高めながら永遠に成功し続けること」だと思う。90年代以降ラルクが国内においてドームでのライブを常態化させたように、世界規模での成功を常態化させるのがラルクの究極の目標だと思う。《止まない 雨に 止まない 君 Everlasting, everlasting rain》と歌うのは、この茨の道を引き受けたことの証だ。

1998年7月8日、ラルクは「HONEY」「花葬」「浸食 -lose control-」の3枚のシングルを同時リリースした。3枚の作品は明確に目的が分かれており、「世間向け」「ファン向け」そして「重度の音楽ファン向け」のシングルとしてそれぞれ機能した。ラルクは10年かけてようやくファン向けの楽曲を発表する自由を取り戻した。ポップな季節が終わり、気高いラルクが帰ってくる。僕はそれを切実に求めている。

 

 

ぴっち(@pitti2210