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高橋徹也『REST OF THE WORLD -LOST SESSIONS 1999-』

レビュー

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高橋徹也の幻の4thアルバムである。本来は1999年にリリースされる予定だったが、メジャー契約の打ち切りに伴いお蔵入りになっていた。それがこの度15年ぶりに日の目を見ることになったのだが、「一筋縄ではいかない」というのが正直な感想だった。

つまり「最高!」とは言い切れないのだが、だからといって無視することもできない。このアルバムにはその後リリースされた作品に収録される曲が7曲あり、僕はその全てを聴いているわけではないが(今では入手が困難なので)、それでもその後リリースされた作品と比較すると圧倒的にクォリティが高い。それは単純に制作に潤沢な予算があり、すばらしいスタジオやミュージシャンが起用できたこともあるが、高橋徹也が年齢的に絶好調だったことも影響していると思う。つまりインディーズ時代にリリースされた楽曲がメジャー時代のクォリティでここの収録されている。

しかし「OUT OF THE WORLD=その他の世界」と題されたアルバムからうかがえるように、このアルバムは未発表作品集という側面がある。だから『夜に生きるもの』『ベッドタウン』のようなアルバムの統一感はない。だけどまるでタランティーノの「パルプ・フィクション」のように、次々と別の章へと切り替わりながら、最終的にはアルバムを通して一つのテーマが浮かび上がってくる。つまりこの作品は27歳の高橋徹也を封じ込めている。

27歳の高橋徹也はこう歌っていた。

恋人に会う暇がない 友だちに会う暇もない
かと言って別に忙しい訳じゃないけど
映画を見てる暇がない ビデオじゃ何か物足りない
かと言って観たい映画なんてある訳じゃない
音楽を聴く隙がない テレビを点けても音楽などない
僕を一瞬で参らせる音楽はない
(中略)
特別な日も 誕生日も 雪の降る夏の驚きよりも
今僕にはありふれた一日が足りないから
そばにいて欲しい 君が必要なんだ
(Les Vacances)

 

湧き上がるこの新しい感覚を
どう扱っていいのかわからないけど
とにかくついてこいよ早く
足がもつれて絡まってる
(夜明け前のブルース)

 

朝早く ふと目が覚めて
まだ誰も居ない表通り
歩き出す さあ顔を上げて
君はまだ何も成し遂げてない

旅立ちの時が近付いている
今僕はゆっくりと階段を昇るように
(ユニバース〜風を追い越して)

多分、当時の彼はこの後の出来事を予想していた。そして14年後、メジャー時代とは全く違う手触りの『大統領夫人と棺』という大傑作に辿り着いた。このようなことは一ファンでさえ軽々しく書いていいことではないが、このアルバムがリリースされなかったからこそ、今の高橋徹也があるのだと思う。

人生万事うまくいくわけじゃない。でもこのアルバムが今聴けてよかった。

 

 

ぴっち(@pitti2210