暗黒大陸じゃがたら『南蛮渡来』

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これは、以前に本ブログで書いた「SNOOZER」の日本の歴代アルバムランキングで知った名盤の一枚であり、11位にランクインしていた。1980年に発売された当時も、ミュージック・マガジンを筆頭に多数の音楽誌にて絶賛され、これまではエログロなパフォーマンスのみが注目されていたフロントマン・江戸アケミの音楽性が初めて明らかになった一枚である。今尚絶賛する声が上がり続けている本作に、私も魅了された一人だ。これは凄い。ファンク、パンク、アフロビート……。古今東西の様々な音楽が一つの壺に混ぜられ、ひっくり返す事によって流れ出るドス黒いごちゃ混ぜ音楽。そこに吐き捨てる江戸アケミの叫び。完璧だ。これこそ日本のファンク・パンクの完成系だ。

何よりもまず、T-1の「でも・デモ・DEMO」が素晴らしい。

暗黒大陸じゃがたら「でも・デモ・DEMO」

いきなり江戸の「あんた気に食わない!」の叫び。そこから始まる音楽の黒い海。カッティング・ギターが絶え間なくビートを刻み続け、そこにサックスが唸りを上げる。リズム隊も淡々と、かつ貪欲に鳴り続け、音の洪水が完成する。まるでこれまでの全ての音楽の歴史が一気に押し寄せてくるような感覚に、聴き手は我を失い、溺れ、そして踊り始める。そして江戸は「暗いね暗いね 性格が暗いね」と歌い始める。

みんないい人 あんたいい人 いつもいい人 どうでもいい人 今宵限りでお別れしましょう
せこく生きてちょうだい
見飽きた奴らにゃおさらばするのさ

江戸が歌うのは、日本人に対する怒りと嘆きだ。誰にでもいい顔をして、誰もが同じように振る舞う。そんなみっともない姿に警鐘を鳴らす叫びだ。今作を発表する以前は、全裸になる、鶏を食う、脱糞等のあまりにも過激なパフォーマンスをしてきた江戸だが、彼の心の根底にあったのは「自分は他とは違う」という気持ちだっだのではないか。これまでのくだらない奴らとは違う。俺は生優しくない。そんな態度の表明としてのパフォーマンスは、確かに注目を集めた。

しかしそこばかりが注目され、彼らの音楽に耳を傾ける者はいなかった。その状況を打破すべく発表された本作の一曲目で、江戸はその怒りを見事に素晴らしい音楽に乗せて表現した。そして「思いつくままに踊り続けろ」と叫び続け 、そこに「日本人って暗いね 性格が暗いね」のコーラスが重なるラストの展開は鳥肌ものだ。

もちろん他の曲も素晴らしい。同じくカッティング・ギターによりなんともムーディーな音楽が展開されるT-2「季節の終わり」、「街に埋もれた 食いかけのハンバーグ」という歌詞がなんとも美しいバラードのT-4「タンゴ」とすべてが素晴らしい。全編通して語られるのは、当時の浮かれた日本への警鐘。都会の喧騒の裏の空虚。華やかな毎日の裏のクソまみれの生活。とにかく闇の方へと目を向け、叫び続けた。その叫びに最もふさわしい、ドス黒いファンク・ミュージックに乗せて。

江戸の叫びには、怒り以外に多くの悲しみが含まれ、若干諦めのような境地に立っているように思える。「BABY ただそれだけの事さ」「もうこれ以上お前に 話す事など何一つない」と歌う彼に、当時の日本人はどう見えたのだろうか。彼がこの世にいない今、確認する手だてはない。ただ彼の音楽を伝え、常に時代に警鐘を鳴らし続ける事。我々がすべき事はそれだけだ。どれだけ光で溢れていても、闇から目をそらしてはならない。「日本人って暗いね 性格が暗いね」と歌う江戸がそれを教えてくれた。続くべきは我々だ。

 

 

HEROSHI(@HEROSHI1111