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くるり『THE PIER』をめぐる対談 ~すごすぎるぞ、くるり!~ 後編

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「98年の世代」は産声を上げたのは97年、中村一義が「どう?」と語りかけた瞬間だ。彼らは新しいバンド観、新しい音楽を次々と世に産み出した。なぜそのような事を成し遂げたのか。それは「どう?」という問いかけに象徴されるように、常に既存の価値観を見て、疑問を抱き続けていたからだ。既存のものを古いといって否定するのではない。それらを組み合わせ、新しい価値観を見出した。ナンバーガールピクシーズのようなサウンドに文学的な歌詞を載せたり、椎名林檎岡村靖幸浅井健一の影響を強く受け、融合させた独自の世界観を表現したことからも明らかだ。そして今や「98年の世代」の数少ない生き残りとなったくるりは、常にこの姿勢を崩さなかった。彼らが古今東西の音楽を独自に解釈し、再構築し、まぎれもない「くるりの音楽」として表した。それがこの『THE PIER』ではないか。ではそんな歴史に残る作品をめぐる対談、後編をお楽しみ下さい。(HEROSHI)

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(前編はこちら

くるりの「幸せに対する距離感」

くらーく 今作の中で最も好きな曲は何ですか?

HEROSHI 実は「しゃぼんがぼんぼん」なんですよ(笑)

くらーく なるほど(笑)そこかあ。『NUM-HEAVYMETALLIC』の頃のナンバーガールっぽいですよね。メタルと阿波踊りの融合みたいな。

NUMBER GIRL「NUM-AMI-DABUTZ」

HEROSHI 今回のアルバムで最も岸田繁節が炸裂してますね。《珈琲一杯と煙草三本の間に思い出せればいい》とか。

くらーく いい意味でアルバムの中で浮いてますよね。ロックバンドとしてのアイデンティティを感じされられるというか。

HEROSHI 「あ、俺、今くるり聴いてるんだ」って気にさせられますから。安心感というか。それ以後静かで壮大な曲が続き、感動させる雰囲気になっていきますから。

くらーく 僕は「最後のメリークリスマス」ですね。イントロの街のざわめきの感じとから、マフラー、土の匂い、師走のヤケクソ感、そこに溶け込めない自分。サウンドの創造性にまず脱帽でした。そして最後に第九のメロディーが入るじゃないですか。そこの浮遊感、年が終わる切なさも好きだし。僕の個人的な意見なんですけど、くるりが歌う祝祭感というのは、お祭り騒ぎの場を設けておきながら、自分達は離れて膝を抱えて見守るというイメージなんですよ。

最後のメリークリスマス

最後のメリークリスマス

 

HEROSHI すごくわかります(笑)

くらーく 幸せな風景を否定する事はないけど、自分はコミットできない。でもかろうじで繋がっていて、そのつながりを祝福する姿勢がかなりツボでしたね。くるりの幸せに対する距離感は全てこの曲に象徴されている気がしますね。

HEROSHI 「くるりがクリスマスソング? 」って初めは驚きましたけど、でもいざ聴いてみるとちゃんとくるりの音楽になってるんですよね。くるりの歌によく悲しい光景が出てくるんですけど、絶望を感じさせるものではなく、胸にじんわり沁みてくるようなものなんですよね。「ばらの花」の頃からそういった光景は常に見えますし。

くるり「ばらの花」

くらーく ジンジャーエール買って飲んだ こんな味だったっけな》の歌詞が本当に好きで、泣いたり叫んだりする事ではなく、ジンジャーエールの味の違いで別れを表現する。本物の喪失感ってこういうものかと感じさせられましたね。

HEROSHI その後に《安心な僕らは旅に出ようぜ》ですから。この頃から既に、別れを肯定的にとっているというか、そこで終わりではないという姿勢は伺えますね。その奥にあるものを聴かせようっていう。

くらーく 別れは避けられないということを前提としてますよね。

HEROSHI でもあのアルバムの中で最も印象に残り、今後も好きな曲であり続けるんだろうと思わせた曲は、やっぱり「Liberty&Gravity」ですかね。

くるり「Liberty&Gravity」

くらーく 「Liberty&Gravity」は凄いですよね!

HEROSHI 新アルバムからのPVが先行公開されると聞いて見たら、何じゃこれって面喰いました。

くらーく 本当に楽しい曲ですよね。最初のハンドクラッピングは僕も絶対やっちゃいますし(笑)

HEROSHI でもこの曲がリードトラックかと言われると、少し違う気もしますね。「日本海」や「浜辺にて」の方が雰囲気を象徴している気がするんですけどね。

くらーく 最後の方なんか、楽器どうやって演奏してるのかまるで分からないし、でもそのまま終わっていく。良く分からないんだけど、凄い曲を聴いてるんだなぁと思わせる曲ですね。こんな経験はあまりないですよね。

 

銀杏BOYZくるり、それぞれの音楽への「自己投影」 

HEROSHI じゃあくらーくさんの中では、今のところ今年出たアルバムの中では1番ですか?

くらーく 邦楽どころか、洋楽を含めても一番ですね。正直ダントツですね。HEROSHIさんはどうですか?

HEROSHI 実は2番目なんですよね。1番は銀杏BOYZの『光のなかに立っていてね』ですから。くるりとは完全に違う畑のような気はしますが。

光のなかに立っていてね *通常仕様

光のなかに立っていてね *通常仕様

 

くらーく 確かに相対関係な気はしますね。銀杏の峯田さんは自分の聴いた様々な音楽を圧縮して音楽にするような作り方ですね。一方でくるりは圧縮する事なくそのまま自分達の音楽にするという容量の大きさを感じさせますね。

HEROSHI 銀杏BOYZの新作は七尾旅人の『雨に撃たえば...! disc 2』に近い感覚でしたね。ノイズで情報量が溢れ出ちゃってるというか、処理しきれてないというか。今作で私が最も感動したのは、あれだけ引き籠っていた峯田があれだけ生きようという主張をしているという点です。生命力に満ち溢れているんですよね。「光」が“僕を置いてくなよ”に変更された所からも見て取れる。

雨に撃たえば...!disc 2

雨に撃たえば...!disc 2

 

くらーく 峯田さんは音楽に自分を投影していて、人生の清算のような面も持っていると思うんですけど、一方で岸田さんは別に自分の心の闇を音楽に映してはいないと思うんですよね。それじゃ清算し切れなさそうというか。作家と音楽に距離がある気がしますね。

HEROSHI ちなみに3位は坂本慎太郎の『ナマで踊ろう』なんですけど、この3枚で言えるのは、やはりこの時代に表れるべき音楽だと思いますね。震災後と言うキーワードを持っているような。坂本慎太郎さんは絶望で表現し、一方くるり銀杏BOYZはその先に光を見せる。 

ナマで踊ろう(初回盤)

ナマで踊ろう(初回盤)

 

くらーく 銀杏BOYZの今作の震災に対するスタンスはどういうものだと考えていますか?

HEROSHI 基本的には主張はあまりなくて、「ぽあだむ」は計画停電の景色に美を見出した曲で、一方「光」や「I DON'T WANNA DIE FOREVER」で生のメッセージを強く見せているのが最も印象的だったんですよ。これまでは「あの娘」との関係が崩壊したら死ぬとまで言ってましたが、今作はまず第一に「生きる」というメッセージがある。でも決して反社会というイメージは彼らにはなくて、どちらかというと「セカイ系」なんですよね。でも今回はそのセカイを解放しましたね。

銀杏BOYZ「ぽあだむ」

くらーく 君と僕だけの閉鎖したセカイを開きましたね。

HEROSHI そこが銀杏BOYZの成長だと思いましたね。これまで永遠の少年だった彼らが青年へと成長した作品だと思いました。

くらーく くるりも常にその視点は持ってましたね。『さよならストレンジャー』の頃から今まで、常に進化してきましたから。 

さよならストレンジャー

さよならストレンジャー

 

HEROSHI これまでずっとアーティストとして第一線で活躍してきた岸田さんと比べ、峯田は本作で初めて「音楽家」としての一面をはっきりと見せつけてくれた気がしますね。

くらーく この『THE PIER』はエヴァーグリーンなアルバムというか、10年20年経っても決して色褪せない作品だと思いますね。『ナマで踊ろう』は非常に同時代色の強い作品のような気がしますけど。あと『光のなかに立っていてね』は銀杏の成長物語という側面が強い一方で、この『THE PIER』は作品だけを切り取ってもクオリティの高さが際立っていますよね。

HEROSHI 確かに各曲のクオリティーは非常に高いですよね。

くらーく アルバム全体でまとまってもいる。『坩堝』はラストに向かってペースを上げていくという側面を感じたんですが、今作は色々寄り道しながらもなだらかに進む。いい意味でピークタイムがない作品でしたよね。これまでの作品が長編作品だとしたら、本作は短編集な気がしますね。個々なんだけど何故か繋がりが見えるという。

HEROSHI 小さな物語の集合という形でいうと、スーパーカーの『スリーアウトチェンジ』みたいな感じですかね。

スリーアウトチェンジ

スリーアウトチェンジ

 

くらーく それは少しわかるな~。でも『スリーアウトチェンジ』は凄く初期衝動を感じる作品なんですけど、一方でこの『THE PIER』は凄く大人な作品だと思いますね。

 

世界から注目されるべき作品

くらーく そろそろまとめに入りましょうか。

HEROSHI アルバム全体の質の高さも、各曲のクオリティの高さも際立ってるというのが同意見でしょうか。2年ぶりのアルバムという事で期待度も高かったと思うんですが、期待しただけの甲斐はありましたね。

くらーく 期待を軽く超えちゃいましたね。傑作傑作と言われ続け、そのハードルをも軽やかに超えた。 

HEROSHI やっぱり私が感じたのは「次世代へのメッセージ」ですね。くるりも98年世代最後の生き残りみたいな存在ですから、とうとう大物の片鱗を見せつけられたという感じはありましたね。

くらーく 実力の違いを見せつけられましたね。次元の違うアルバムという感じがして、溜め息しか出なかったです。今後どうなっていくのかも気になりますけど、不思議とこれだけの傑作でも行き詰まり感はないですよね。まだ旅の途中というか、次も楽しみで仕方がないです。

HEROSHI 常に進化を続ける。ロックバンドの理想形ですね。「すごいぞ、くるり」から14年経っても、未だにすごいのが彼らの本当に素晴らしい所じゃないでしょうか。

くらーく 是非Pitchforkにも聴いて欲しいですね。日本どころか、世界中の音楽好きに聴いて欲しいですね。日本にはくるりという凄いバンドがいるって知って欲しいし。

HEROSHI この作品で、くるりにも日の丸を背負う覚悟が見えたような気がしました。

くらーく もはや日の丸も投げ出して、もっと大きな目標を掲げているようにも思いますね。とにかく世界規模で聴かれて欲しい作品です。

 

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実は2時間以上も話してました。話し始めると楽しくて、うれしくて、ついつい時間を忘れてしまったのです。でも終わった後にすぐ寝て、起きてすぐに録音した会話を聴くと、思わずニンマリしてしまう。実はこの他にも「くるりの各アルバムで1曲挙げるとしたら」なんて話もしてたのですが、文字量の都合上カットしました。でも「如何にド直球を避けるか」と競い合いをしていた2人は最もボルテージが上がっていたかもしれません。

とにかく何を言いたいかというと、この『THE PIER』が2014年を代表する大傑作であるという事です。この対談を見て、ひとりでも「聴いてみようかな」と腰を上げる人がいたら、私にとってこれほどうれしいことはありません。そして自分なりに『THE PIER』のメッセージを感じ取って下さい。そして誰かと語り合ってみて下さい。貴方の世界はきっとさらに広がりますから。

最後に対談相手、くらーくさんに最大級の感謝を表明します。本当にありがとうございました。(HEROSHI)

 

 

HEROSHI(@HEROSHI1111)×くらーく(@since_i_left_U