椎名林檎『日出処』

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ありきたりの表現で申し訳ないけど、東京事変のアルバムはもちろん、『無罪モラトリアム』や『勝訴ストリップ』、もしくは『加爾基 精液 栗ノ花』の初期三部作を軽く超える椎名林檎の最高傑作だと思う。ただ、次くらいにそれを上回りそうなので、そう呼ぶのを躊躇ってしまう。

そもそも東京事変と並行して行われていた2009年の「ありあまる富」も含まれているためここ5年のシングル曲が網羅されており、そういう意味でコンセプト感に欠けるアルバムになると予想していた。しかし主に新曲を前半に配置し、後半にシングル曲を固めてきた展開が功を奏したのだと思う。特に「カーネーション」は、このアルバムを通して聴くと響きが全く違って聴こえてしまう構成は本当に見事だった。

椎名林檎カーネーション

また、テンションが高すぎて張り裂けてしまうそうな「NIPPON」が、アルバムを通すと東京事変の「閃光少女」と同じくらいサクッと聴けてしまうのが凄い。ジャンルが異なるバラバラの曲が揃っているにもかかわらず、すべての楽曲の密度があまりに濃いせいか、「NIPPON」が全然浮かない。それがあまりに異常で、なおかつ『勝訴ストリップ』における「罪と罰」を思わせるのだが、あの頃は明らかにそこまでアルバム全体で詰めていなかった。だからやっぱり最高傑作なのだと思う。

椎名林檎「NIPPON」

東京事変「閃光少女」

それができたのは東京事変が彼女の中で相対化されたからだ。つまりこの『日出国』はソロ3作に連なる椎名林檎ソロの系譜でありながら、同時に東京事変をひとまとめにしてしまった作品なのだと思う。つまり彼女が東京事変というバンドを終了させたのは、ソロで東京事変を超えることが可能という確信があったからだ。「静かなる逆襲」や「走れゎナンバー」は東京事変でも生まれ得る曲だと思うし、いくら「NIPPON」におけるELLEGARDEN/Nothing's Carved In Stoneの生形真一が壮絶なテンションでギターを弾き、100s/レキシの山口寛雄玉田豊夢(MVのみ。レコーディングでは河村カースケ智康と渡辺等)が俄然テンションの上がる演奏を見せているとはいえ、東京事変のメンバーがそれに劣るとは思えない。

つまり彼女は、東京事変の流れでこのアルバムを作ることを避けたかったのだと思う。『スポーツ』というロックのグルーヴが極まったアルバムを作り上げ、なおかつソロと見紛うような普遍性の高い「女の子は誰でも」を奏でてしまった時点で、東京事変の他のメンバーはバンドメンバーでありながらいちサポートミュージシャンになるリスクを抱えてしまった。

ゆえに今作では「カーネーション」同様、解散時の東京事変のメンバーがクレジットされている。でもこれこそが椎名林檎なりの他のメンバーの送り出し方なのではないのだろうか(だって普通「カーネーション」という曲をレコーディングする上で、おまけにソロ名義なら事変のメンバーは普通頭に浮かばないはず。逆に言うとそこまで信頼しているからこそこの曲を託したのだと思う)。

結果、完膚なきまでに東京事変は葬り去られ、椎名林檎が再生した。楽曲ごとに錚々たるメンツ(多分日本一豪華だと思う)が参加しているにもかかわらず、アルバムトータルのコンセプトは1mmも揺らがないのは椎名林檎ソロそのもの(『三文ゴシップ』はそこが不満だった)。

高カロリーの楽曲が恐ろしいほどの滑らかさで次々とテーブルに並び、舌を休める暇もない。今年は超えることはないと思われていた銀杏BOYZの『光のなかで立っていてね』を軽々と超えるかのような、ここ11年の彼女が詰まった最高のアルバムだと思う。4万2000枚しか売れなかったのは、あまりに密度が濃すぎて一般の人が敬遠してしまったからに違いない。音楽ファンは一度聴いた方がいいと思う。ここから椎名林檎の逆襲が始まる。

 

 

ぴっち(@pitti2210