10/12 Base Ball Bear @ 福岡DRUM LOGOS

個人的に、現時点での2014年年間ベストアルバムとなっているBase Ball Bear「二十九歳」。レコ発ツアーのファイナルが11/29に行われたので、福岡公演のレポートを遅ればせながら書こうと思う。

まず、会場に到着した時からその会場SEに驚いた。これまでは比較的年代も国も雑多な音楽を選んでいた傾向があったが、今回はGRAPEVINE椎名林檎くるりスーパーカー、ミッシェルガンエレファントといった、メンバーの青春時代を彩っていた邦楽ばかりだった。「二十九歳」という年齢を冠したツアーであることを意識させるためであろうか。いずれにせよ、自分も知っている曲ばかりでワクワクさせられた。スーパーカーの「STROBORIGHTS」の途中で客電が落ち、ライブは始まった。

瑞々しさ溢れる「何才」、タイトなグルーヴが炸裂する「アンビバレントダンサー」と全くタイプの違う2曲をアルバム曲順通りに披露し、そして既にライブ定番のシングル曲「PERFECT BLUE」で一気に弾けさせる冒頭3曲で掴みは完璧だった。

Base Ball BearPERFECT BLUE

「天神の街で女の子をナンパした」という前口上から湯浅将平のギターが唸るロックンロール「そんなに好きじゃなかった」へと見事に繋げそのテンションのまま、初のアルバム外からの選曲「STAND BY ME」へ。この曲、ライブで聴くのは2010年春のホールツアーぶり。歌い出しで込み上げるものがあり、周りもかなり湧いていた。まさかこのツアーのためにシングル曲でありながらベスト盤ツアーでも演奏されない憂き目に合っていたのか。

続くシリアスなハードロック「Ghost Town」で観客を揺らせた後、まるで涼風が吹いてくるような「抱きしめたい」へ。前曲の緊張感を甘く溶かしていくような曲順が素晴らしい。

そしてここでMCという名の長めのフリートーク。ここでは彼らの芸達者っぷりが発揮されていた。TwitterにはライブレポートでMCだけを羅列する人が多く、正直それはあまり好みではないのだが、ベボベのライブはそれをしたくなるくらいの面白さがある。

ライブも後半に入り、アルバムの世界観へ深く踏み込んでいく。即興で、「凄い人になりたい」と小出祐介が歌い上げてから、ベボベ流シティポップ「スクランブル」へ。クールだが確かなグルーヴ、そして見事なコーラスを交えた最後のボーカルパートは最高に心地よかった。続く「方舟」では一転、ギターロックバンドとは思えない神秘的な空気が流れた。曲終わりのノイズから間髪入れずに「The End」へ。この繋ぎはこのライブで一番の美しさだった。そしてここから一気に最後まで突っ走るだろうと、「The End」の演奏終了まで思い込んでいた。

しかし、ここでMCが挟まれた。ここ数年、ベボベのワンマンライブは中盤のフリートークを挟んだ後はセッションなどを組み込みつつ、アッパーな曲を一気に畳み掛けるのが持ち味になっていたのでここでのMCには驚いた。しかも語られたのは、小出祐介のバンド活動を始めた当初の葛藤、そして彼らの代表曲「changes」に対しての苦悩だった。

Base Ball Bear「changes」

この曲はヒット曲だが、タイアップへの書き下ろし曲であり作った当初は全く小出自身に馴染まず、嫌いな曲になっていたということ、そして『新呼吸』のアルバム制作中に徐々に「changes」で書いたことが自分の心境と重なっていたという心の内が明かされた。小出祐介自身の強い思いを知った上で聴いた「changes」はいつものライブアンセムとは全く違うものだった。緊張感、サビのポップな抜けすらも小出祐介の苦悩が滲み、切ない響きを持っていた。こんな「changes」の姿は後にも先にもこのツアー限りだろう。

そんな「changes」の次に演奏されたのは、活動初期からの定番曲「CRAZY FOR YOUの季節」だ。ここ数年はイントロや間奏を長く保つなど、ライブ後半を熱く盛り上げるアレンジが加えられていたが今回は音源通りの披露であった。そして、アルバム屈指のライブ向けナンバー「UNDER THE STARLIGHT」。ライブ披露回数は少ないはずが、既に盛り上がりは仕上がっていた。向こう一年はフェスでも定番化しそうだ。

狂騒の2曲を経て、ライブはクライマックス。10分近くかけて小出祐介の心の深淵を描く「光蘚」はこのライブで最も切迫した演奏だった。ゆったりと音に飲まれていく感覚があった。その轟音が徐々に開け、本編を締める「魔王」へ。小出祐介のソングライターとしての意思表明が伸びやかに歌われ、暗闇に光が射していくような圧巻のラストだった。

いつもならば、肉体的にへとへとになっているライブ本編の終了時だが、今回は「魔王」の鳥肌を抱えたまま、アンコールが始まった。会場ごとに変えているというアンコール一曲目には「愛してる」が選ばれた。そしてアルバムでもエンディングを飾った「カナリア」で軽やかに、大団円を迎えた。温かい終わり方だった。

今回のベボベは、ガンガン観客を盛り上げていくといういつものスタイルではなく、一曲一曲を丁寧に演奏して届けることをかなり意識しているように見えた。大人の落ち着きを見せ始めているような気がした。個人的にはこういう温かく優しいライブが好みなので、ベボベにはぜひともそれを極めてほしいと思っている。

1.何才
2.アンビバレントダンサー
3.PERFECT BLUE
4.そんなに好きじゃなかった
5.STAND BY ME
6.Ghost Town
7.抱きしめたい
8.凄い人になりたい~スクランブル
9.方舟
10.The End
11.changes
12.CRAZY FOR YOUの季節
13.UNDER THE STAR LIGHT
14.光蘚
15.魔王
encore
16.愛してる
17.カナリア

 

 

月の人(@ShapeMoon