私とTHE BACK HORN

2012年に入ってすぐのこと、社会人1年目の生活も終わりを迎えたその頃、THE BACK HORNのアルバムを借りにレンタルショップへひょこひょこ歩いていったのを覚えている。

中学生の頃、人並みにアイドル少年を追いかけてCDを買い漁るというよりは、むしろ彼らの姿の写ったカラフルな雑誌をずらりにんまりと眺めていたあの頃以来、ほとんど自ら音楽など聴かなくなっていた自分がどうしてそのような奇行に走ったのか。

その辺を思い出してみたいと思う。


大学時代の4年間を「お笑いライブに年100本のペースで通い詰める」というオタク活動に捧げきった私は、社会人になってようやく人並みに「人間」に恋をした。よくある話で、「仕事のできる職場の先輩」がとてもかっこよく見えたのだ。

その出来事の良し悪しとか顛末なんかは置いておいて、その人は私にいろんな「ちょっとだけ広がった世界」を教えてくれた。北島三郎と鬼塚ちひろとビートルズとRADWINPSを同じ鞄に入れて愛せるところがたぶん彼の素敵なところで、そういうわけで私はくるりやらELLEGARDENやらハナレグミやらを生まれて初めて真面目に「聴いてみよう」と思うに至ったのだった。 

つらりつらりと漂う中で気に入ったのが9mm parabellum bullet。歌謡的なメロディ、鼓動を刻むドラム、歌い上げるギターの旋律にとりこになって聴きほれた。ところが、「We are innocent」をバックミュージックに趣味に凝り固まったMADをニコニコ動画に投稿しながら、ふと訪れた音楽レビューのまとめサイトで、そのコメントが目に留まってしまった。

9mmはワンパターンすぎ。『夏草の揺れる丘』みたいな曲でも作れるなら、ちょっとは見直すけど

何様目線にむっとしつつも、気になった私は即座にグーグル先生の検索ボタンを押した。便利な時代になったものだ。

演奏しているのはTHE BACK HORN。聞いたことのない名前ではないけれど、何となく、ちょっと古いような少し昔に流行ったかのような、知りもしないのにそんなことを思った。

再生ボタンを押した。流れ出すゆるやかな旋律は、どこか懐かしくて穏やかで、それでいてどこか遠くとおくへ思いを巡らすような響きを持っていた。

同じ頃だと思う。ツイッターのよくあるコピペツイートにTHE BACK HORNの名前を見つけた。

 女「あたしTHE BACK HORNとか好きなんだよね」
 男「へー、どの曲が好きなの?(けっ、どうせコバルトブルーとかだろ)」
 女「母さんの唄」
 男「えっ」
 女「母さんの唄」
 男「えっえっ」

しかし、限りなく膨大なインターネットの海をいくら放浪しても、こちらの音源は見つからなかった。

なぜかボーカルではなくドラムが歌っているという「母さんの唄」を聴きたかったから、というわけでもないのだが、私はレンタルショップへひょこひょこと歩いていった。

THE BACK HORNのスペースはずらりとそこそこの幅があり、どれがいいのかわからなかった私は、安易にベストアルバムを借りた。「夏草の揺れる丘」も入っていたし。

そしてしばらくはまったく聴かなかった。

ある日、通勤途中に最初から流してみた。

東海道線沿いの、段々畑みたいにずらり並んだマンションの景色に、彼らのデビュー曲「サニー」がパズルのピースのようにぴたりとはまった。

 

そもそも私は、そんなに音楽に対して熱心ではない。というか、耐久性がないというか、せっかくアルバムを借りてきても最初から数曲聴いては飽きてやめて、また最初から聴いては飽きてという繰り返しばかりで、「アルバム借りたらはまっちゃって!」なんて体験が驚くほどない。

それが、あまりに自然すぎて気づかないほどに、THE BACK HORNはまったく違った。ずっとIPodを握りしめて、「サニー」から始めて、目的地に着いたら一時停止して、また電車に乗ってピッと再生ボタンを押して。

何周目のことだっただろうか。実家近くのクリーニング屋の前の風景を覚えている。駅からの帰り道。朝方降っていた雨の止んだ、湿ったその道を一人で歩いていた。

なぜだかとてもうきうきしながら、IPodをいじって、くるくる回して、十何度目かの一曲目の「サニー」。

……なんか、その時、気づいた。「あれ、いつの間に、こんなに好きだったんだっけ?」

 

そんなふうにして、私はTHE BACK HORNと出会った。

この物語はノンフィクションを元にしたフィクションだけれど、あの頃年間100本のお笑いライブに注がれた情熱の何十パーセントかが今THE BACK HORNにつぎ込まれていることだけはまぎれもない真実であり、あれから三年がたった今でも、彼らの音楽は私の存在にとって欠かせないものとなっている。

 

 

かがり(@14banchi