SEBASTIAN Xが選んだカバーソングを聴く

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SEBASTIAN Xは女性2人男性2人で構成され、東京を中心に活動してきた。インディシーン全体でも一際アイコニックなボーカル・永原真夏のよく映える歌声と、ギターレスながら大胆でパワフルな演奏が魅力的だ。主な全国流通盤としてミニアルバム5枚、フルアルバム2枚をリリースしており、しかし残念ながら2015年4月末で活動休止することが発表されてる。ちなみに筆者にとって数年来のフェイバリット・アーティストである。

本稿はSEBASTIAN Xというバンドについて、彼らの発表したカバーソングという切り口でこれからすこし書く。と、いうのも彼らの選ぶ曲がいつも、周りと少し毛色の違うように思っていたからだ。

SEBATIAN Xがこれまで収録したカバー曲は、「春咲小紅」「スーダラ節」「怪獣のバラード」の3曲。それに加えて2011年のライブで披露された「カントリーロード」を、本稿では取り上げる。

「春咲小紅」は矢野顕子が1981年にリリース。作詞に糸井重里、演奏にYMOという情報だけでも、当時の文化のもっとも芳しいところで制作されたことが汲み取れる。カネボウのCMに起用されていることも重要だ。SEBASTIAN Xは、原曲に近いテクノポップ調のアレンジでこれをカバーしている。

ヒバリオペラ【初回盤】

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春咲小紅 [EPレコード 7inch]

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《スイスイスーダララッタ~》というナンセンスなフレーズを誰しも1度は聞いたことのあるであろう「スーダラ節」は、伝説的コメディアン・植木等が1961年に大ヒットさせた。”流行歌”という表現がしっくりくるような時代の曲だ。カバーでは、植木氏の演じた無責任一代男ならぬ”平成無責任女”を称した真夏さんが、ブラス隊を呼んだ華やかなアレンジで楽曲を蘇らせている。

イェーイ (CD+DVD)

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このようにSEBASTIAN Xは、他のバンドの超名曲であったり、頻繁にカバーされるようなJ-POPのヒット曲であったり、雑に言うなら”ベタ”な曲には手を出さず、かといってマイナーな曲へ走ることもしていない。むしろ、CMソングや流行歌といった、ある世代以上なら誰もが耳にしてきた”超ベタ”な曲を好んで選んでいる、気がする。

カントリーロード」は、日本人ならジブリ映画の『耳をすませば』が放映されるたびに聴いていることだろう。「怪獣のバラード」はついに、合唱曲のレパートリーからの選曲だ。中1の合唱コンクールで自由曲を決める時に、「怪獣のバラード」がクラス中から却下されたことを筆者はしぶとく覚えている。

そうした超ベタな曲をレパートリーに加えながら、SEBASTIAN Xは、とりわけ永原真夏さんは、普遍的な”うた”を届けようとしてきたのではないだろうか。「カントリーロード」を披露したライブで、その日はじめて披露された曲が「FORTUNE RIVER」だった。肩を取り合って歌えるようなゴスペル調のサビをもつこの曲は、明らかに「カントリーロード」の延長線上に位置づけられる”うた”である。

ハードコアパンク等に触発された出自を持ちながら、ロックバンドという括りに囚われることのない楽曲をばしばし発表してきたSEBASTIAN X。活動を通じてソフィスケートされてゆく楽曲群に、ポップスの王道を行くような芯が徐々に形成されていることは、凡庸な一リスナーからしても明らかであった。

そんな彼らが、4月末を以ていちど歩みを止める直前に発表したオリジナルの”うた”は、「こころ」と題されている。またまたベタな、と揶揄することを今回はできない。4人がその超ベタな普遍性を得るまでに辿ってきた活動を、筆者は知っている。「こころ」は、きっと聴く人を選ばない。いつも聴いてるのがJ-POPでも、ロックでも、アイドルソングでも、「こころ」なら気に入ってもらえるんじゃないかな、となかなかの自信を持ってお薦め。 



「カフェインとレコーズ」という屋号のもと、スタッフとして音楽や演劇について拙文を執筆。世界でいちばん好きなアーティストを問われれば、髭かVelvet Undergroundを選びます。 

 

 

huskie(@C8H10N4O2andRec

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