今ではPerfumeの楽曲を楽しめるようになった私ではあるが、デビュー当時の彼女たちはあまり好きではなかった。いや、正確に言えば「楽曲、そして、それに合わせて完璧に踊る彼女たちがあまり好きではなった」と言った方がいいかもしれない。
私が初めて彼女たちたち見たのは2007年頃に公共広告機構(現:ACジャパン)のCMであった。その時、歌われていたのが彼女たちを代表する名曲「ポリリズム」である。それを見て、嫌悪感というか違和感みたいなものがあり、以降、しばらく彼女たちの曲をテレビやラジオで耳にすることはあっても、どこか馴染めず積極的にアルバムを聴くということはなかった。
しかし、楽曲には距離は置いてはいながらもバラエティー番組でMCをする彼女たちは大好きで録画をしては何度も見返していた。同じPerfumeなのにPerfumeでない。このアンビバレントな関係性を当初は理解できなかったのだが、今にして思えば、それは「“アイコン”と“生身の少女”の違い」がそうさせたのではと感じる。
以前、この音楽だいすきクラブにて「ピチカート・ファイヴから現在まで受け継がれてるアイコンの話」の中でも話をしたが、そもそもPerfumeはアクターズスクール広島出身のアイドルであった。しかし、メジャーデビューの際に近未来的な衣装に身を包み、アイドルの中で一番大事な声にロボットのごとくフィルターをかけ、まるで三次元のボーカロイドのようにしたのだ。このような音楽に彼女たちも最初は戸惑いもあったようで。
あ~ちゃん「アクターズスクールでは、体から表現して、どこまでその歌を表現できるか、 入り込めるか、みたいな。でも、中田さんの指導してくださる言葉は、『もっと突き放すように』とか、 『もっとしゃべるように歌って』とか『鼻歌のように』とか」
のっち「今までやってたことと違ったことをやれって言われて、すごく戸惑いましたね」
しかし、プロデューサーの中田ヤスタカは
『この子たちはアイドルだからアイドルソングを作ろう』みたいなおざなりな感じで、アイドル風にやっても『誰が聴くの?』ってやっぱり思ったんですよ。/そうじゃなくて『Perfumeだけの持つ価値観を作ろうよ』って思ったんです。
『Perfumeだけの持つ価値観』それを私なりの言葉で言いかえるのならば、アイドルの持つ“可愛らしさ”というのを廃して、ポップアイコン化させたということではないだろうか。
さて、アイドルからポップアイコンとして進化した彼女たちではあるが、自身が持っていたアイドルとしての輝きが失われたと言われれば、そうではない。バラエティー番組等でMCを行う彼女たちはキラキラと光り輝くアイドルそのものであった。
「完成度の高いものの中に、生身の女の子のほつれって言うかさ、そういうのがあるからそれがすごくいいわけでしょ。僕はそこに一番美しいものをみいだすんですよ。」
これは以前、ライムスターの宇多丸と小西康晴が対談した際、アイドルソングについて語った小西氏の発言である。これをPerfumeに置き換えれば、“完成度の高さ”というのはダンスと楽曲、MCで見せる非常に人間らしい姿は“ほつれ”で、このギャップこそが彼女たちが人気を獲得した最大の要因であるように感じる。私がバラエティー番組でMCをする彼女たちを好きだったのはこの“ほつれ”の部分に魅力を感じたのだと思う。
さて、3次元ボーカロイドとしてデビューした彼女たちだが、年が経つにつれて徐々にではあるが身体性を得ていた感があった。具体的にいえば、ロボットのごとく声にかけられていたフィルターが年々抑えてきているのだ。2013年の『LEVEL3』の作品は特に顕著で、それ以前の作品を比べると違いがはっきりとわかるのではないだろうか。
そして、2015年。つい先日、彼女たちの新曲「Pick Me Up」のPVが公開された。
これを見た瞬間、過去のPerfume のPVにない明らかな違和感を覚えた。これまでのPerfumeのPVというのは作りこまれた世界とお揃いの衣装。そして、PVの世界を崩さないよう彼女たちは喋るという事を一切しなかった。
しかし、本作では冒頭から彼女たちは私服で東京の街中で喋りながら3人で歩いているのだ。その後、OK Goが扮しているマネキンが出た後に異世界にスリップし、統一した衣装のPerfumeが登場したと思いきや彼女たちの歌声を聴いて驚いた。声にかけるフィルターを抑えているだけではなく、声の強弱やブレスのなど今まで以上に歌が感情的に聴こえるのである。これに、PV冒頭で受けた違和感とリンクして考えると、この「Pick Me Up」はPerfumeという価値観の脱構築となる作品ではないだろうか。
以前、私がブログ『LEVEL3』をレビューした際
最初アイドルとして広島から出てきて中田ヤスタカ氏とコンビを組んだのが『LEVEL1』
中田ヤスタカ氏と組んで日本でドーム完売するくらい圧倒的な人気を持つまで成長した『LEVEL2』
そして『LEVEL3』は世界での人気獲得ではないだろうか。
と書いたのだが、本当の意味での『LEVEL3』は“他者が完璧に操るアイコンを脱して自我を持つ表現者としての音楽活動”なのかもしれない。それは成長であると同時に、過去の決別といってもいいかもしれない。「Pick Me Up」でみせた脱構築が次のアルバムで、また次のライヴでどの様な形で昇華されるのか。今は期待と不安が入り混じるそんな気持ちである。
ゴリ(@toyoki123)