豊田道倫 & mtvBAND『I Like You』

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ロックンロール≒初期衝動という認識は、間違っているのではないか。本稿で取り上げる1枚のシングルを聴いた時、私はその考えに至った。その1枚こそ、豊田道倫氏が異形のSSW活動を続けて20年の節目にリリースした『I Like You』である。今年のRECORD STORE DAYに、私は唯一この作品を購入した。

表題曲はベーシックなパンク・ロック、に擬態し獲物(リスナー)を捕食せんとする音楽極道達のセッションである。たとえ同じ曲を20代そこそこの私のようなネットの音楽オタクが演奏しても、きっとただの学園祭バンドになってしまう。逆に言えば、アラフォー/アラフィフにしてこれほど青々しいロックンロールを書き下ろせる豊田氏は、ほんとうに面白い方だ。

そしてその青々しい曲も、mtvBANDのメンバー(演奏面でみるとベーシックなプレイヤーは一人も見当たらず、人相面でみると裏路地で出くわしたら思わず踵を返してしまいそうだ)にかかれば、譜面に書けない経験値の深みが何よりの香辛料となって危険な香りを放つ。スメルズ・ライク・デンジャラス・スピリット。《上から下まで I Like You》なんて普通そうな歌詞さえ、なぜか一抹の不穏さが見え隠れするような。

一方で「I Like You」を更に喰えない存在へ押しやるのは、MVをご覧になれば明らかだと思われるが、ある若手芸人への大胆なオマージュ。豊田氏と冷牟田敬くん(ex.昆虫キッズ)がばっちりキメている。初めて目にした時は、私の方が「ちょっと待ってちょっと待ってお兄さん!」と言いたくなるほどだった。あのカバーを音源に残したのは彼らが最初じゃなかろうか。

“危険だ”と書き連ねてきたが、実際のところ極めてシンプルでクールなロックンロールである。まるで70年代後半のパンクが登場した時代にレコードを買ったように、どきどきした。一人息子との生活を愛おしそうにTwitterで綴るSSWの新曲が、今の日本で一番ロックンロールだ。

今作『I Like You』がHEADZの通販サイトで取扱開始となったようなので、思わず長文でご紹介してしまいました。LP+CDのフォーマットなので、パソコンしかお持ちでない方もばっちり聴けます。シングルB面はネタバレ禁止らしいので割愛。

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