WHITE ASH『THE DARK BLACK GROOVE』

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WHITE ASHが3月にリリースした3rdアルバム『THE DARK BLACK GROOVE』についてみんなでレビューしました。『THE DARK BLACK GROOVE』とは何なのかについてそれぞれ考えました。(ぴっち)

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初めて「Orpheus」を聴いた時、Queenの「We Will Rock You」を思いだした。きっかけはイントロのリズムだ。自身の手足を使って、キャッチーでインパクトの強いあのリズムを鳴らしたことのある人はおそらくたくさんいるだろう。「We Will Rock You」の意訳として《おまえたちをあっと言わせてやる》というものがある。そして、「Orpheus」のサビは《Nobody given even knows the world is you.》というもの。英語に決して明るくないから拙い訳になるが、「世界があなただということすら知らない」といったものになるであろう。前者が命運をこの手に握っていると自覚しているのであれば、後者はそれを自覚していない。

ところで、洋楽はこの国で片翼をもがれた状態でリスナーに受け取られる。英語が公用語レベルで普及していないからだ。よって、歌詞の意味を即時に解釈できる人は限られる。
それでも、洋楽はこの国で聴かれる。異国への憧れもあれど、1番の理由はサウンドが格好良いからということに尽きるだろう。そこで鳴るものが魅力的ならば、言葉なんて関係ない。

WHITE ASHは日本のバンドだ。でも、明らかに洋を意識した音を鳴らしているし、歌詞は語感を重視したフレーズを使い、日本語と英語をごちゃまぜにし、更に文法はめちゃくちゃな物が目立つ。歌詞がわかりにくければ、邦楽でも洋楽と同様の捉え方となる。

もともと彼らの音楽は、情報量がさほど多くない。シンプルかつ構成要素を削いだ音に、今作ではリズムを強化して、更にサウンド面の感覚的な魅力を高めた。料理に例えるなら、具の豪華さで勝負するのではなく、出汁の取り方を極めた一品みたいなもの。一口、口に含んだだけで美味しいと思わせ、一瞬でその人の感覚を持っていってしまう。

だからこそ、日本語詞の「Hopes Bright」が今作のハイライトのひとつとなる。それには「目をこらせ 手を伸ばせ 夢で終わらせぬように 目の色を変え 運命を変える君が 僕らの明るい希望」という一節がある。普段はさほどメッセージ性の高くない歌を歌う彼らが提示した明確な希望の歌は、直球で胸の中に入ってくる。

彼らの鳴らしている音楽は、彼らだけのものではない。音の精度も、歌詞の力も強化された今、彼らの音楽は誰かの世界を変えていくことができる魅力と説得力を持っている。

 

 

rinko(@rinkoenjoji

rearviewmirror

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『THE DARK BLACK GROOVE』と名付けられたタイトルがすべてを象徴しているように、暗く、黒いグルーヴがまとわりついているアルバムだと思う。

とはいえ、音楽において「BLACK」が意味する黒人的なグルーヴを突き詰めたわけではないと思う。黒人のリズムをロックに昇華させたイギリス・アメリカのグルーヴを真似したわけでもなく、日本人としてのダークでブラックなグルーヴを追求したのではないか。

日本人としてのグルーヴとは何なのか。それは良くも悪くも邦楽であり、J-POPであり、J-ROCKなのだと思う。とはいえ一聴した限りではJ-POPにはとても聴こえない。歌詞は英語だし、メロディの構造も歌謡的ではない。90年代のJ-POPを盛り上げた日本語ロック、00年代の洋楽の影響を顕著に受けたロキノン系とも違う。10年代のロックのフォルムを身に纏っている。英詞という点ではELLEGARDENをはじめとした細美武士の音楽やTHE BAWDIESに通じるのかもしれないが、楽曲の印象としてはむしろ先日アルバムを出したONE OK ROCKに近い。とはいえONE OK ROCKのフォロワーに位置するわけでもなく、聴いているとメロディーの構造は別物なのにB'zやイエモンのような90年代やそれ以前のJ-POPを支えた人たちの匂いがしてくるのである。英詞なのに、ジャンルも違うのに、観ている風景も違うのに。歌詞、メロディの構造を残したまま、日本人が鳴らすロックの次のものを作ろうとしている。

約33分で11曲を駆け巡る。前半の盛り上がる曲もいいけれど、「Gifted」のようなダークかつ重厚なバラードが最後に位置しているのがすごくいい。黒いグルーヴがどんどん彼らの身体に馴染んでいくようなアルバムだと思う。進化して欲しい。

 

 

ぴっち(@pitti2210

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「DARK」で「BLACK」な「GROOVE」。なるほど、それは間違いじゃない。ただ、本当にその要素だけなのか?ただ「黒いグルーヴが存在する」だけのアルバムか?と問われれば、それはNOだ。かつて黒人が奏でたブルーズは、白人がアレンジを加えることによってロックミュージックのスタンダードになった。このアルバムはそういったかつての流れと同じように、同時代に海の向こうで鳴っているグルーヴを日本特有のハイファイな音像でアウトプットしている。つまりこのアルバムはただ「黒い」だけのアルバムではなく、「カラフル」とか「浮世絵」とか称されるドメスティックな要素も多分に混ぜ合わせた、言ってしまえばとてもマーブルなアルバムなのだ。

赤・青・黄・緑・紫の絵の具がひしめき合ってパレットに並んでいる中に黒を落とし、混ぜる。そうしてできた色がおぞましいものである事は容易に想像がつくだろう。このアルバムもそうしたバランスで成り立っているので、一聴しただけではなかなか耳慣れず、戸惑う。Like a 「We Will Rock You」な「Orpheus」に始まり、サビで一気に感情を爆発させる「Teenage Riot」、優しさの深い部分まで掬うようなメロディを湛えた「Night Song」、そしてあまりに重たく荘厳なエンディングナンバー「Gifted」に至るまで、その言語化できないグルーヴと、ハイファイな音像・高音ボーカル・ヴァースとコーラスのメリハリが強調された構成、というドメスティックな要素が綯い交ぜに綴られ続け、『気持ちが良すぎて気持ちが悪い』状態のままアルバムは終わる。

しかし、その気持ちの悪さも愛せないものではない故に何度も聴いてしまう。この絶妙かつクセになるバランスは、少なくとも今の国内のロックシーンにはないものだ。 しかし、前アルバムタイトル『Ciao, Fake Kings』やアミューズへの移籍に顕著なように、次に彼らがアプローチする対象はあくまで『ロックシーン』ではなく『大衆』。すなわち『THE DARK BLACK GROOVE』は大衆という舞台に立つ前の地固めとして、自分達が思う格好良さを今一度追求した作品なのではないか。

さて、僕は『J-POP』に定義があるのかどうか、J-POPの何たるかを全くと言っていいほど知らない。だが少なくとも『THE DARK BLACK GROOVE』が持つこのグルーヴ、そしてこのBPMはより大衆に好まれるものになっていると思う。偽りの王様にさよならを告げた彼らには、追い風が吹くと信じている。だからあなたも、「目を覚まして」。

 

 

まっつ(@HugAllMyF0128

まっつのブログって名前、氾濫しすぎだろ!

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