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きのこ帝国『猫とアレルギー』

レビュー

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きのこ帝国のメジャー1stアルバム。良い歌詞、良いメロディ、良いサウンド、三拍子そろった傑作。風通しの良い楽曲群からは、相手と正面からコミュニケーションしようとする意思を感じる。

アルバム『eureka』以前は心にまとった鎧の隙間からコミュニケーションの可能性を探っていた。それが名曲「ユーリカ」のように魂の叫びを思わせる純度の高い表現になって現れていた。

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今作では鎧は脱ぎ捨てられ、ありのままをありのままに見つめる自然体の音楽になっている。「桜が咲く前に」の上モノの少ないAメロのように、自分の過去や弱みをさらけ出せるような開放感がある。シングルとは異なるイントロのピアノの切なく華麗な音色とメロディに松任谷由実の「春よ来い」を思い出した。今のきのこ帝国には風が吹いている。

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UK PROJECTからメジャーに移籍したきのこ帝国だが、そのためもあってか別れの歌が多い。愛着を持っていたからこそ、別れの歌は古巣のことも歌っていると読み解くこともできる。今作では別れた後でも"あなた"のことを想ってしまう気持ちが共通している。未練がましくなく、心は清々しいまでに晴れ渡っている。別れた"あなた"を本当に愛していることが伝わってくる。

別れても進もうとする気持ちを歌う「ありふれた言葉」のように、聴いている側も前向きな気持ちになれる曲も揃っている。かと思えば、歌謡っぽいメロディがどことなく椎名林檎の「歌舞伎町の女王」を連想させる「スカルプチャー」 、曲名に似つかわしくなくボーカルとギターに深いリバーブをかけたスローテンポの「ドライブ」、繊細で細やかな曲調から一転してラウドな「YOUTHFUL ANGER」など、バラエティに富んだアルバムに仕上がっている。

メジャーレーベルに進出しても、魂を明け渡してはいない。「クロノスタシス」と近い世界観で歌われる「夏の夜の街」で、"君"に借りたのはCANのアルバムだし、"君"が買ったらしいのはザ・スミスのTシャツだったりする。今作のきのこ帝国はよそゆきの格好ではなく普段着のままだ。今のきのこ帝国の音楽は、自分たちの音楽的なエゴを追求することがそのまま大衆性にも繋がる、とても幸福な形になっているのではないか。状況が良い方に転がっていく中で浮き足立っていない。

 

さて、今作ではやさしさを強く感じる。「猫とアレルギー」ではピアノもボーカルも優しさに溢れている。途中から差し込まれるストリングスが、聴いている側の悩みを吹っ切らせるように響く。 アウトロのギターの高鳴りは、フロントの佐藤千亜妃さんが後悔とやり切れなさを吹き飛ばしてでも先に進んでいくと高らかに宣言しているかのようだ。

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「怪獣の腕のなか」も繊細ながら包容力に溢れている。このアルバムで僕が一番おすすめしたい曲だ。《誰かを拒むための鎧など 重たいだけだから捨てましょう》の歌詞は、もちろん"あなた"へ向けた歌詞なのだが、佐藤さんが過去の自分に贈っているようにも聴こえる。

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最後にライブで盛り上がりそうな高揚感のあるアップテンポの曲を持ってくることに表徴されるように、今のきのこ帝国には勢いがある。このまま突き進んでほしい。

 

 

よーよー(@yoyo0616

とかげ日記