かっこいいバンド、美しい思考/Base Ball Bear『C2』

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Base Ball Bearの6thアルバム『C2』がかっこいい。音も言葉も込められた思いもすべてがかっこいい。

まず音。『C2』リリース前に開催されたTour「三十一歳」の福岡で語られていたのは、今回のアルバムは、メンバー4人が演奏していることがはっきりわかるような録音をした、ということ。デジタルでいくらでも音を調整できる時代に、あくまで「録った音そのまま」に臨場感を与えるという手段でレコーディングすることで温かな音の質感、人力ならではの揺らぎが、素人の耳にもわかるほどはっきりと刻まれている。実際に鳴らした音がパッケージされている。

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ギターロックに早いBPMの4つ打ちを取り入れたベボベだが、このアルバムでは別の方向に進もうとしている。アルバム前半はゆるやかなテンポの楽曲が続く。滑らかなリズムに自然と体が揺らされて気持ちが良い。

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言葉の面では、僕らが今まで持っていなかったような角度から、日々を描写するようなものが多い。逡巡するだけで特別何も行動を起こさない、誰しもが通過する感情をラブソングとして切り取る「どうしよう」、ソングライター小出祐介表現者としての苦悩を包み隠さずに溢れんばかりの切ないメロディに乗せる「レインメーカー」、疾走するギターサウンドに乗せ、歌詞カードを読まなければ真意がわからない言葉遊びを織り交ぜながら現代を批評した「カシカ」など、個性的な価値観に貫かれた言葉たちが並ぶ。

終盤、10曲目の「HUMAN」ではこれまでの視点を俯瞰で見つめるように、様々な人間を描写する。

天啓や僥倖を待ち続ける人や
バイト先休憩室で無気力に煙草吸う人や
「共感」してるつもりで「同調」してるだけの人や
神経質こじらせてわけわかんなくなった人や
(中略)
誰も彼も
満たされず

僕らただただただただ味わってる 僕らただただ味わってる
息をするように 人間味を
僕らだらだらだらだら味わって 僕らだらだら味わって
飽きてしまう 人間味に

あたゆる人を書き連ねたAメロBメロに、このサビがくっつくことで、生きていくこと自体の疲弊を突きつけられているようだ。この世界の本性を暴くようなパンチラインだと思う。2番の歌詞には

「ちょっと本当だったらいいな」
なんてことがあるだけで救われる僕ら普通の人は
ずっと 満たされず

というフレーズがある。僕はここで涙する。どこか満たされない日々をなんとかやり過ごそうとしている心情を指摘されたかのようだ。小出祐介の言葉の圧倒的な射程距離を思い知った。

そんな「HUMAN」の現実味にやられてしまったあとに、先行シングル「不思議な夜」が続く。

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俯瞰視点だった前曲から一気にフォーカスが絞られ、初夏の夜道を歩く2人の男女の、何でもないようのに何か起こりそうなシーンがキラキラとしたギターフレーズとコーラスワークに彩られる曲が続く。この曲だけだとさりげないポップソングのように聴こえる。

しかし「HUMAN」の後に聴くと先の《ちょっと本当だったらいいな》が具象化されているようにも聴こえ、心が救われる。きっとまた現実に引き戻されてしまうだろう。それでも心がきらめく瞬間を探して生活をする。僕らの日々の普遍を優しく掬い上げた、アルバムの終盤を飾るに相応しい美しい流れだ。

最後は、軽快なドラミングにシリアスな捲したてる歌が合わさった「「それって、for 誰?」part.2」で締めくくられる。なぜこのような作品を作るに至ったかを明かすとともに、これからの意思表明となる曲でもある。革新的なこと、というよりも時を経るにつれて埋もれ磨耗してきた思考や気持ち良さを取り戻す 、という今のBase Ball Bearのアクションを、自ら「砂漠に水を撒く」行為だと呼ぶ。

それでも、それでも、それでも、砂漠に水たまりは出来るはず
それでも、それでも、それでも、それでも、って、歌い続けていく

と歌う。この曲も、リリース前のライブで聴くことができたのだが、自分を追い込むように歌う小出祐介の姿が印象的だった。冷静沈着の現状を見つめるアーティストだが、とても熱い思いが込められている。

そんな決意を胸にしながら、この曲は音がこもりながらフェードアウトして終わる。彼らにとってのかっこよさがこれでもかと注がれたアルバムだが、このかっこよさが現行のシーンにフィットするか、それとももっと先の時点で評価されるようになるのか、結論を叩きつけるのでなく、ぼんやりと曖昧にさせることでこの作品の立ち位置をはっきりさせているように思った。

 

 

月の人(@ShapeMoon