星野源『YELLOW DANCER』

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結論から先に言うと、星野源の『YELLOW DANCER』というアルバムは日本の『Random Access Memoris』である。本作を聴くとそれまでの彼のアルバム作品とは桁違いにソウルやディスコミュージックの成分が多く配合されている事がわかる。

Michael Jacksonのソウルなダンスクラシックのような曲にしたかったという「桜の森」やEarth Wind & Fireの「Boogie Wonderland」にも似た疾走感とファルセットを多用したサビが印象的な「Week End」。シングルカットもされた「SUN」ではギターカッティングのイントロ後にJackson Sistersの「I Believe In Miracles」バリのかっちょいいキメや、R Kellyばりに妄想力を掻き立てられるエロさが魅力的な「Snow Man」など、彼が好きなブラックミュージックの要素がふんだんに感じられる作品となっている。

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そして、重要なのは、このブラックミュージックの要素に、歌詞は日本語、Aメロ→Bメロ→サビまたはサビからのAメロ→Bメロといった流れ、時には転調。と、ちゃんとJ-POPに作法に則っているということである。これは「黒人にはできない日本人が出来る音楽とはなにか?」と星野源が考えた結論であり、個人的にはその目論はきちんと成功していると感じる。

そもそもの話、J-POPというのは元々は歌謡曲である。そして歌謡曲と言えばロックが流行ればロック歌謡、フォークが流行ればフォーク歌謡といった具合に流行に敏感である。もちろん、これはJ-POPにも当てはまり、Soul II Soulが出てくればグラウンド・ビート、Guyが出てくればニュージャックスウィングを取り入れたり、EDMが出てきらた浜崎あゆみ三代目J Soul Brothers安室奈美恵といったアーティストが楽曲の中に取り込んだりしてきた。そんなEDMが流行っている中で出てきた作品こそDaft Punkの『Random Access Memories』だった。

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『Random Access Memories』といえば「Get Lucky」等からわかるようにソウルやディスコミュージックをモチーフとしたアルバムであり、EDMへのカウンター的役割を果たした作品であった。

そして、これは星野源の本作も同じことが言える。そう、ソウルやディスコミュージックをモチーフにし、EDM化したJ-POPへのカウンターとなりえる作品こそ、この『YELLOW DANCER』なのだ。そして、CDが売れないこの時代に10万枚以上を売り上げ、オリコン1位を取ったことはこのカウンター的な役割が見事に成功したことの何よりも証ではないだろうか。

今年はブラックミュージックをキーワードとしてKendrick LamarやMark Ronson、ceroと言った良作が世界各国から黒人、白人、黄色人種関係なくリリースされた。そこに日本の文化であるJ-POPとブラックミュージックの融和点を見つけ出し、きちんと回答を出した星野源の『YELLOW DANCER』も同じように語られるべき作品ではないだろうか。まさに今年を象徴する一枚として申し分のない作品である。

 

 

ゴリ(@toyoki123

ダラダラ人間の生活ki-ft

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音楽を、純粋に音だけで判断してしまうのはもったいないと思う。もちろん世の中には音楽しか生み出せない人もいる。音だけで評価して欲しいという気持ちがわからなくもない。しかしそのような作品にもジャケットがあり、歌詞カードがある。僕らの手元に届く経路も様々だ。CD、アナログ、カセット、ダウンロード、ストリーミング、YouTubeSoundCloud、Bandcamp、ありとあらゆる選択肢が存在する。音楽を音だけで評価するという祈りにも似た願いを、無邪気にあざ笑うかのように、ありとあらゆるものを音楽と結びつけようとする男がここにいる。

その男の名は星野源。お腹のゆるい男だ。

彼のことはSAKEROCKのメンバーとしてでなく、ソロのシンガーソングライターとしてでもなく、2005年に宮藤官九郎のドラマ「タイガー&ドラゴン」に出ていた時に知った。当時24歳。特に印象には残らなかった。その後、なぜかほぼ日の「お腹の弱い男」たちの座談会で見かけた。それから5年、彼はどういうわけかポップスターになりFNS歌謡祭に出ていた。

ラジオ、テレビでは変態トークで盛り上がり、今年はフジロックの出演。能町さん主催の「好きな男ランキング」では例年上位に君臨し、ついにはSMAPと共演。お茶の間からロック好き、さらにはサブカル界隈まで万遍なく好かれている。そんな乗りに乗っている男=星野源の新作を音だけで判断できる人は本当にできるのか?否、音だけで判断することは逆に損をしているのではないか?そんなふうに考えてしまう。

肝心の内容だが、個人的にはJ-POPに寄りすぎていると思う。とはいえFNS歌謡祭やベストアーティストといった年末の音楽特番で、のびのびと「Sun」を歌い上げる星野源を見ていると、これが現段階における最適解のようのも思えてくる。だって毎回確実に楽しいのだから。多くの人が喜ぶ曲を作り出せる。華がある。それ以上大事なことってある?

 

 

ぴっち(@pitti2210