アニソン好きと元アイドルオタがアニソンについて話したようですpart5 <水樹奈々というキメラ/あるいはその後の流れ>

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アニソンが好きすぎてアニソンシンガーにインタビューまでしてしまった草野、バンドとアイドルを長年追いかけ続けてきたかめ。とある事情でアニソン関係の記事を書いていた草野が、休憩がてらにかめ君へ後先考えずに絡み、何気ない会話から発展した。そしてかめくんは「どうしてアニソンはこういう音になったのか?」と草野に尋ねる。そして草野はゆっくりとアニソンの変容について話し始めた。

水樹奈々Elements Gardenは素晴らしい、そしてその後の世界線をどう生きるかなんだ!」

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今まではこちら

  1. 最近のアニソンと変化のきっかけ
  2. アニソンと小室哲哉
  3. 小室哲哉から音ゲーへ、そしてfripSide
  4. アニソンと音楽情報量と女性ボーカル/京アニを添えて

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水樹奈々という巨星

草野 2010年代に入り、もっともテレビに出演しているであろう女性声優といえばもちろん、水樹奈々ですよ!

かめ 従順なる王国民ですね!

従順なる王国民:多くの場合、声優・歌手の田村ゆかりのオフィシャルファンクラブ「ゆかり王国」の会員のことを指す。

草野 違うし!それ、田村ゆかりだし!!にわか乙だし!!!

かめ 違った(笑)この人のライブ映像をはじめて見たけどうまくてびっくりしてる。

草野 はい、ということで。

 

前回までおさらい

草野 前回までアニソンをテクノやハウスとかの文脈、そこから女性ボーカルがどんどんとアニソンの主役になり、サウンド的にも小室哲哉サウンドの流れを汲んだものと音楽的な情報量がたくさん詰め込まれた曲に代わっていった!みたいな流れで話してきました。

  1. ユーロビート、テクノ、ハウスの文脈 
  2. 小室サウンドの流れを汲む
  3. 情報量がたくさん詰め込まれる

草野 重要な要素を抜けたまま話が進んでますよね?

かめ 歌ってる人ですか?

草野 それもそうだけど、かめくん、テクノとかハウスって、1曲に使われているコードっていくつありましたっけ?

かめ ほとんどないよね。基本的にループだよね。

草野 そう。一般的にクラブミュージックと呼ばれる音楽は、J-POPで使われるような「王道コード進行」や「カノンコード進行」、小室哲哉さんが多用した通称「小室哲哉コード進行」のような、非常に多くのコードを必要とする音楽ではないんです。ただ、ここに大きな壁があるんだよね。

かめ どんな?

草野 DTM初音ミクを軸に曲を作りはじめた人たちがたくさん出てきて、そういう方がクラブミュージックを通して打ち込みサウンドを習得していく、また、小室哲哉さんに影響を受けたクリエイターが徐々に大成していき、ポップソングをも手掛けるようになっていった。そうすると、コード進行の定石ではありえないようなコード進行とメロディが生まれている、ということです。

かめ 鍵盤上指運べないだろ?とか、ギター上指無理だろ?みたいな?

草野 そうではなくて、それまでのポップミュージックの常識では組まれることのなかったコード進行が多くなって、そもそも、歌いたいメロディがキレイに響かないはずのコード進行で曲が成り立ってる、といったほうがいいのかな。

 

違和感を残す

かめ うーん。例がほしい。

草野 それじゃ大雑把だけど、不協和音になるのにそのコードとメロディを鳴らしてる。といえばいいのかな。的確ではないけど。

かめ あー、なるほど。フレーズが「違和感として耳に残る」ものも少なからずあるってこと?

草野 それも、作曲がヘタだからそんな曲があるんじゃなく、意図的に作ってる。

かめ わざとそうするってこと?

草野 そう。小室哲哉が物凄く売れたときによく使っていた手法として、Aメロ→Bメロ→サビの中で2度も3度も転調して曲調をどんどん変えてリスナーを驚かす、というものがあったの。今ではほぼセオリーのように使われている手法だけど、そういったリスナーを驚かせる手法の中に「違和感を残すようなコードとメロディをわざと残す」手法があるんだよね。

かめ なんかもう、そこまでいくとわかる/わからないの差で相当なことに(笑)

草野 まあ、上手くインパクトを残せないとボツだから、そこは安心してもいいんじゃないのかな(笑)

 

「違和感+下手」から「違和感+ディーヴァ」へ

草野 でも、そういう違和感があるような楽曲を、歌がうまいかがわからない女性に歌わせる。違和感のある楽曲を、安定したボーカルが望めない女性に歌わせる。これ、現場で考えたら非常に危ないわけだよね。

かめ そりゃそうだ。

草野 とはいえ歌い手のかわいさやカッコよさに依存して、下手なボーカルにとんでもない曲を歌わせて、崩壊寸前のスリルを楽しむ……みたいなことは、すでにアイドルの中でいくらでも生まれてるわけじゃない?

かめ そうだね(笑)

草野 ともあれ、メロディをきっちりと歌い上げることが大前提で、コード進行とメロディにちょっととしたトゲを残しつつ、アレンジメントで思いっきり音数を増やして突飛さを出した曲の方が、まだ広くウケそうな雰囲気あるよね?

かめ なるほど。

草野 人によってはそれを「気持ち悪い」とか「不協和音でうるさいだけ」と思うかもしれないけど、そういう楽曲をポップソングとして秀でたものにまで仕上げてしまうボーカル、そういった楽曲に負けることなくむしろ映えるようなディーヴァが現れた、それが水樹奈々さんなんですよ!

 

コード進行の話

草野 それで、例えばだけど。

ETERNAL BLAZE / 水樹奈々 ギターコード譜 - U-フレット

草野 「こういうサイトで作られたものを判断材料にするんじゃねーよ!」って叩かれそうだけど、このギターコード数!

かめ 多いな!

草野 印象的な語りから、グッといろんな音が入っていくボーカルレスの部分の流れが「スリーコードしか使われてないんだ、そのコード進行からあのいろんな音を発想したの?」って思えそうなね。

かめ でも曲として歌声聴くと普通に耳に入るよね!

草野 まさにその通りなんだよ!

かめ おお、草野さんが熱くなってきた(笑)

草野 

時を超え刻まれた悲しみの記憶

のフレーズだけで7つもコードを使ってる、ギターストロークでいえば2回弾いてコードを変えるだけだからすごく普通なんだけども、ここからがすごくて。

イントロの3コードだったGm→E♭→Fに加えて、Dm→B♭→C→Dという進行でマイナーキーからメジャーキーに戻して

まっすぐに受け止める 君は光の女神(てんし)

E♭→F→Dm→Gm→A♭→D→E 

最初の3コードだったE♭→Fをコードの始まりに持ってくるから、「一歩前に進んだ」感を出して、最後は無理やりに明るい方向にもっていく。それでこの辺りの歌詞の多さと、伴って動くメロディラインを、奈々さんはきっちり歌うわけ。

かめ そういう歌詞を持ってきているし、奈々さんも熱量を込めて歌うからすごく映えて聴こえると。音源としてだけじゃなく、ライブでできるのすごいね。

草野 バラードになるとこんな感じ

かめ なんか演歌っぽいビブラートだ。これは何かの主題歌?

草野 「深愛」は『WHITE ALBUM』だね。決して定番のコード進行じゃないんだよこれも。

 

謡曲っぽさ

草野 でもここで、というかアニソンの根底にあるものがすごく表れてると思うんだよね。

かめ どういうこと?

草野 これだけ難しいコード進行でも歌謡曲っぽさを残している。それはアニソンにとってすごく重要。

かめ ああ、確かに。なるほど。

草野 これは小室さんのglobeでもそうなんだけど、いくらサウンドがゴチャゴチャでうるさくなっても、歌謡曲っぽさ、ひいては親しみやすいメロディラインはアニソンにとって重要なんだよね。

かめ その歌謡っぽさって聴いた人が「口ずさめる」につながるとこある?

草野 イエス水樹奈々さんの曲って、奈々さんが歌うボーカルのメロディでなくても口ずさめるのが多いんだよね、 それは前回まであげてたfripSideもそうだし、ハルヒのイントロもね。

かめ うんうん。

 

アニメに合わせてチームで作詞作曲する

草野 奈々さんに曲提供をしているのはElements Garden。彼らも大元は美少女ゲーム関連に楽曲提供しているところからはじまったチームで、今では多くのアニソン歌手に提供してるのね。リーダーの上松範康さんをはじめ作曲陣は音楽大学や専門学校を卒業したその道のプロだから、先に言ったような「わざと不安定なサウンドにする」というのも狙って生み出せるわけ。

かめ チームで曲作って、アニメに合わせていれて曲を作る感じなのか。

草野 サークルみたいな感じで個々人で曲を作り、歌手に提供してるね。

かめ 小室哲哉もそんな感じだよね。作曲家と作詞家が別なのが当たり前なのか。

草野 ただタイアップの場合、基本的に制作側から「こういう曲が(・∀・)イイネ!!」という発注があがって、それぞれに指名した人らが曲を作って制作さんに投げて選ばれる感じだと思う。

かめ アニソンって深い。

草野 バンドとか作曲家が作った曲がアニメに合うのではなく、最初からアニメに合わせて作る。だからこそプロの作曲家、プロの作詞家が出てきて、歌う人は関係する声優orプロシンガーなのね。どちらにしても、今回かめくんが言った「楽曲の中にいろいろな音がグチャーっと混じってるアニソン」の最高峰は、おおよそ奈々さんだと思う。

かめ 奈々さんは今日初めてちゃんと聴いたけど、いい感じだったからTSUTAYA行きますね。

草野 この曲、ハードロック×オーケストラ管楽器×ブロステップ、しかしながらもメロディをキッチリ歌う水樹奈々。この辺の「様々な音楽が混ざり合ったキメラとそれを飼いならす水樹奈々」を追いかけたいなら、『GREAT ACTIVITY』からが良いと思う。それ以前の彼女は、歌謡曲要素の強めのポップソングを歌い上げる水樹奈々だから、好みがわかれるし。

GREAT ACTIVITY

GREAT ACTIVITY

 

かめ じゃあそれにしてみます!

草野 いろいろな音がグチャーっと混じってるアニソン!の最強はおおよそ奈々さん。これはおおよそわかってもらえた?

かめ とても!

 

過大な情報量を整理する

草野 でもね、もうこれ限界なんですよ。

かめ 限界?

草野 マキシマムザホルモン凛として時雨がいなくなったあと、邦楽ロックってどうなりました?

かめ 曲の単調化?

草野 なんでそういうマイナルな言葉ばっかりでてくるの!もっと違うでしょ!もっと!違うでしょ!!

かめ 音源市場からライブ市場に移行中とか?

草野 違うよ!邦楽ロックバンドは何が流行ったの!?

かめ KANA-BOONとか。

草野 ほかには?

かめ ダンスロックみたいな。

草野 つまり?

かめ いわゆる四つ打ち。

草野 つまり 踊ることが求められたんだよ!!

かめ なんかこの曲モー娘。みたいだなー。

草野 アニソンも日本のロックも情報量が2009年くらいでピークを迎えて、2010年代以降は過大化した情報量を整理して、好ましい方向性に特化することで音楽的なおもしろさを追いかけてるように思えるのね。というか「四つ打ちしてりゃ単調」ってバッカじゃないの!ハウスDJに謝れ!!

かめ 四つ打ちしてれば全部似たようなもんだろって聴こえちゃう私は、か弱い耳と知識の少なさだから、ごめんな。

かめ ユニゾンって相変わらずキモイ曲だな!(褒め言葉)

草野 今の東京インディミュージックのブラックミュージックへのリファレンスを見せている中で、彼らもしっかりブラックミュージックへの返答をしてるんだよ!めっちゃディスコで踊れるだろうが!!

 

水樹奈々以降のアニソン

草野 水樹さんの「音楽としていろんな要素を詰め込みました!」的な万能性には盲点が2つあって、ああいう曲を「楽曲」として成り立たせるボーカルって本当に稀有な存在で、今のところ奈々さん以外いないということが一つ。それにベクトルが何がしかに振り切れてないと聴く人が「ただ聴く」だけに終始してしまう、それがライブ会場で散見されることになったんだ。

かめ うんうん。

草野 だから、もっと情報量を減らして、何かしらの方向性を提示して、それに見合ったボーカルや声優さんを呼んでくることなんだよね。ポップソングやR&BならMay'n、RockならLiSAのような感じ。

かめ LiSAと水樹奈々くらいしかわからん。個人的にはそれくらいほかの知名度とかけ離れてる。

かめ 後任というか、後ろに続く世代から良いボーカルが出てこないなら、アニソン楽曲の路線を増やす方向に行くべきなんじゃないかなーと思うけど。

草野 元々の本流だったエレクトロ/シンセポップなところの座は川田まみさんがバリバリにこなしているし、きっと今後も他の方々がそうなるんだろうね。でも驚くべきは奈々さんは声優なんだってことなんだよね(笑)

かめ 奈々さんは声優やめて、西川貴教ちゃんと歌ってて今後も生きていける!

草野 無理です!声優やめたら奈々さん死にます!!

かめ 死ぬのは奈々さんじゃなくて草野さん、な世界線が来るよ。

世界線:本来の意味から派生して、アニメ化もされたゲーム「シュタインズゲート」においては、世界の一つの可能性を表す用語として使われている。

 

歌われないアニソン

草野 アニソンがどんどん踊っていける、聴く人を躍らせていく!っていうのも実は奈々さんが不得手にしていたところではあって、奈々さんの声に聴き浸る曲は数あれど、「一緒に踊りましょう!」っていう曲は多くないんだよね。一つのアニメ作品の中だけで声優グループを結成するグループがたくさん生まれているけども、実はそのデッドスペース、影響力の薄いところにみんなが入ってきてるようにも見えるよね。

かめ そう言われてみればそうかも。

草野 そうしてOPないしEDは、当該アニメのイベントで歌わない限り、ほとんど日の目をみない!アニサマやリスアニライブに出れば聴けるけども!!それも多くの内の1つか2つ。

かめ イベントをやっても持ち曲少ないからね。

草野 2015年に自分が足を運んだアニメイベントでSHIROBAKOがあったけど、その時にEDを声優で組んだグループが歌ってたのね。その時にMCで「いやー、これ、○○の時に歌ったけど、あの時はみんないなかったもんねー!」「次、歌える場所が……あれば……いいね!』みたいなMCで、ぎょっとしたわな。その曲がEDとして使われている以上、そのアニメ以外で歌うわけにはいかないから、一度イベントがなくなったら二度と聞けない!っていうのがよくあるんだ。

かめ そうなってくると、DJで流して遊んで踊るって方向に流れるのはあながち間違いではないのね。

草野 アニメを見てればOPもEDも何度も流れるけど、声優さんらが生で歌うなんて一回もないこともあるわけだし、そういう歌を自分以外の人も聴いていて同時に感動しあえる場所なんて間違いなく少ないから。

かめ 生声を聴きたい、生歌で踊りたい、踊れれば何でもいいって人によってあるしね。その機会って増やせないの?

草野 僕が懇意にしているアニソンクラブイベントのオーガナイザー曰く「声優さんとしても大きなトピックとして準備するわけだし、5人組グループなら5人で練習する時間を確保したいし、その5人が集まれる日時もちゃんと合わせられるようじゃないと、とてもじゃないけど」って。

かめ 高く険しい壁がそこにあるのね。

 

まとめ

草野 まぁこうして話してきて、おおよその流れをまとめると。

  1. 小室哲哉シンセサイザーサウンドが80年代後半から90年代後半にかけて流行る(エイベックスユーロビート
  2. 多くのフォロワーがどんどんと増えて市場が大きくなるにつれてアニソン方面にも電波もとい伝播する(頭文字D音ゲー、I'veやElements Gardenの台頭
  3. ハルヒらきすたけいおん!京アニにによる音楽要素凝縮期&ほぼ同時期に水樹奈々がミュージックキメラとして降臨
  4. 現在は奈々さん以後の世界(アニソンの音楽的要素を精微に見つめなおしてマニュファクチュアー化)っていう流れ。

草野 あくまで、草野個人の短観/俯瞰で見た流れはこういうのだよね。

かめ アリーナの光景すげえな。

草野 ぼくはこのアリーナの光景が、アニソンによってもたらされてる現代が、本当に本当に頭おかしいな!って思えて楽しくて仕方ないっす

かめ 最高に楽しいことだと思います!っていうことで、 そろそろまとめてください!

草野 アニソンの流行をまとめろとかバカみたいなこと言ってないで、さっさとアニメ見てこい!!

 

 

草野(@kkkkssssnnnn)×かめ(@kame16g