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穏やかに歪み、ポップにねじれる "三回転とひとひねり”の景色

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ミュージシャンたちが音楽で描く世界は様々である。壮大なスケールや発想を持った圧倒的な音楽もあれば、僕らの日々に寄り添ってくれるような音楽もある。しかし時折出会ってしまう。これは何の世界を描いているのか、距離が近いのか遠いのか、さっぱりわからないような未知の音楽。

三回転とひとひねりというバンドが長崎にいる。みさき(ボーカル)、じゅりあ(ベース)、よしだ(ギター)、しげる(ドラム)からなる男女混成4人組バンド。初めて「きりかえガールズ」という曲を聴いたとき、何とも言えないドキドキに襲われた。

 

淡々としながらどこか切なげな空気を纏ったこの楽曲、ドキドキした理由はきっとここに描かれている事象の掴めなさだ。どこか遠い世界に連れて行かれるような雰囲気もあれば、子供の頃の古い記憶をくすぐられているような気分にもなる。独特な語感で綴られる歌詞もその「掴めなさ」を助長している。

 

このバンドの曲を探ってみると、こんな弾けるようにアッパーで元気な曲もあった。しかし聴いていると何だか腹の底がひんやりしてくるようなソワソワに包まれてしまう。それが妙にクセになって、どんどん聴いてしまう。すっかりこのバンドの音楽が放つ謎のムードの虜になってしまった。

CDを購入して、その掴めなさをさらに解きほぐしていくと、その理由の一つに歌詞は外せないと思い当たった。下界で人の血を吸いたいドラキュラの歌があれば、廃校になった学校を訪れる卒業生たちの物語もある。雪山で遭難して幼少時代に食べ残したラーメンの幻想が見えるお話があれば、エヴァンゲリオンの二次創作もある。歌詞をメンバーのうち3人が分担して書くことから生まれるばらつき、それらがとっ散らかったまま作品になっている。これほどまで異質なモチーフを集積し、テーマに統一感がなくても、雑然さは感じずに不思議な心地よさを帯びてしまっているのだ。その要因は、恐らく歌声だろう。

 

声質からすればカフェミュージックのシンガーでもおかしくない柔らかさと落ち着きを持っているが、このバンドの楽曲でかなりのっぺりとした歌い方をする。ポエトリーリーディングを行う楽曲もある。先述のように向きがばらばらな歌詞たちもこの声で歌われることで色味が整えられる。シュールな歌詞はよりシュールに、少し不気味な物語はより不気味に、そしてストーリー性の強い歌詞はまるでナレーションが語っているようになる。独特な歌詞という掴めなさ、それを増幅する平坦な歌声、しかしその声質が持つ穏やかさ。これが三回転とひとひねりの楽曲が持つ中毒性の理由かもしれない。

 

そして結局このバンドに惹かれる最大の理由は、曲が総じてポップであるということ。乾いてはいるが尖った部分のないバンドサウンドで、朗読もあるが歌モノでのメロディはすこぶるキャッチ―だ。いくらでも難解で寄り付けない音楽に仕上げるのに十分な世界観を持っているはずなのに、そこでちゃんと日常で聴ける音楽になっているのが最高なのだ。三回転とひとひねりを耳に携えお散歩でもしてみれば、いつもの景色も少しねじれて見えてきそう。そんなささやかだが、抜群の未知体験をこのバンドは与えてくれる。

 

 

月の人(@ShapeMoon