過去と今を繋ぐ魔法/チャットモンチー『変身』

f:id:ongakudaisukiclub:20170523123328j:plain

2012年にリリースされたチャットモンチーの5thアルバム『変身』は魔法がかけらた作品だ。そしてその魔法により、これ以前/以降でチャットモンチーの存在定義が変わった作品でもある。

そもそもチャットモンチーはどんなバンドか。シンプルなギターロックをフォーマットに、90年代におけるWhiteberryやZONEのようなアイドル的なガールズバンドではなく、ロックバンドとしてのガールズバンドというスタンスを2000年代に確立したバンドである。そして彼女たちのフォロワーで2010年代以降ガールズバンドを飛躍させたのがSHISHAMOであり、SHISHAMOの今の活躍もチャットモンチーがいなければ無かった……

……みたいに思われがちだが、チャットモンチーの楽曲はまったくシンプルでではない。より正確に言えば、巧みに変拍子や自在にテンポを変えながら楽曲そのものはシンプルに見せる秀逸なバンドだった。そしてその要がドラム高橋久美子であり、彼女のビートがあったからこそチャットモンチーは他のガールズバンドから一歩抜け出た存在になれたのだ。個人的には彼女たちのフォロワーで2010年代このビートを先鋭化したバンドこそtricotであると思うし、そのように考えるとdetroit7の山口美代子が福岡晃子にドラムを指導していること、そしてtoricotのサポートをしていることにも合点がいく。

さて高橋久美子というバンドの要を失って初めて作られたアルバムがこの『変身』である。普通に考えれば今までの魅力は失われるし、実際にギターとベースをやっていたチャットモンチーの二人がドラムを叩くこともあり、過去作に比べてビートは単調だし、繊細なグルーヴも感じられない。しかしそんな欠点を補って余りあるほど今までにない魅力で溢れている。

はてな」や「きらきらひかれ」といったような衝動やエモーショナルをそのまま音にぶつけてるナンバーやシンプルなドラム・ビートとオルタナなギターサウンドが印象的な「満月にほえろ」など本作は構造で魅せるチャットモンチーとしては珍しく、骨太で力強いロックなサウンドであふれている。

また「きらきらひかれ」でASIAN KUNG-FU GENERATIONの後藤正文、「コンビニエンスハネムーン」で奥田民生といった外部のアーティストをプロデューサーに迎え入れ、さらには「初日の出」「ウタタネ」ではエンジニアとしてジム・オルークを招集するなど積極的に外部と交流した事で過去作にない手触りを持つ作品に仕上がった。この「チャットモンチーとしては珍しく」や「過去作にはない」というのが本作の魅力であり、これこそチャットモンチーにかけられた魔法でもあった。

彼女たちは高橋久美子を失ったあと、解散することも休止する事なくバンドをやり続けた。しかもサポートを入れずに二人編制で。それはこのままでチャットモンチーを終わらせないという意地ももちろんあったと思うのだが、それ以上に2人になった事で3人ではできなかった無限の可能性への挑戦でもあった。

福岡「私たちもスリーピース時代のチャットも絶対的にカッコいいと思っているけど、ツーピースになって全く新しいバンドに生まれ変わろうと思ったし、そうしなきゃ意味がないと思っていたので。*1 

まったく新しいバンドになろうとした意気込み、それこそが今までにない力を生み出し1年で5枚のシングルと本作を作り出した。それはチャットモンチーが危機を乗り越える為に発生した魔法によって突き動かした結果だと言ってもいいのかもしれないし、新しいチャットモンチーへと生まれ変わる賭けに勝てた事を証明したとも言える。もはや3人であった頃の呪縛はない。魔法がかかった彼女たちは無敵である。それを証明するアルバムこそ『変身』なのだ。

と、ここで終わればこの拙い文章を綺麗に締めることができるのだが、そう上手くいかないのが世の常。どんな魔法もいつかは解けてしまう。チャットモンチーも同様で二人にかかっていた魔法は『変身』後に訪れた1年近くの活動休止期間ですっかり解けてしまった。そして2014年以降はどのような編成/楽曲が自分たちに合うか、思考を柔軟に働かして試行錯誤していった。その試行錯誤の過程こそ『共鳴』であったし、ライヴだと武道館における10周年記念だったと思う。私自身この時期のチャットモンチーもおもしろいと思うのだが、どうしても『変身』の頃に期待したあのマジックが再び宿ってきてほしい。そんなことを思っていた矢先である。シングル『Magical Fiction』を聴いたのは。

チャットモンチーはまたも二人で活動し始めたのだ。表題曲「Magical Fiction」はモータウン・ビートを取り込みながらも嫋やかでポップな仕上がりとなっているし、アンビエントサウンドスケープを持ちながらもチョコレートの事しか歌わない「ほとんどチョコレート」などあの頃と変わらず二人でありながら自由に新しいことを突き詰めてようとしている。それはまるで『変身』の頃に感じていたあの魔法をもう一度取り戻そうとしているかのように。デビュー10周年を過ぎてもなお、スタイルに拘らず新しい挑戦を続けるチャットモンチー。また再び魔法がかかる日はすぐそこかもしれない。

 

 

ゴリさん (@toyoki123

ki-ft ダラダラ人間の生活