隠れた財宝~アニメのサウンドトラック~

インターネットの普及、2005年のドラマ「電車男」のヒットによるオタクという存在へのメディアの接近、あるいは過剰なラベリング、(特に)ハルヒ以降のラノベとアニメの今に至る蜜月、深夜アニメに放送局が与えるストラテジックなアニメ枠、動画サイトの隆盛etc…。あらゆる要素が高速に絡み合い、もつれ、今ほどアニメの土壌に数多の人々が足を伸ばした時代はありませんでした。それゆえ、アニメ音楽に触れる機会も当然エクスポーネンシャルに増えたわけですが、それでもあまり話題に上がらないし売れていないであろうタイプの音楽があります。それは、アニメのOST(original soundtrack)

「アニメ音楽」という単語からみなさまはどのようなものを思い浮かべるでしょうか?

人それぞれではありますが、やはりアニソンなのではないでしょうか。たびたびTVで不定期に組まれるアニソンランキング(往年の、ですが)、カラオケで流れない日はない「残酷な天使のテーゼ」、かつての「けいおん!」のキャラソンによるトップチャートの占有、さらに周知の通り紅白では「進撃の巨人」のOPが歌われ、声優の水樹奈々はもう常連入り、といったトピックからもわかるように、アニメファンはもちろんのこと、より広い層も注目し得るのがアニソンです。

アイドル化・アーティスト化してゆく声優という側面では、花澤香菜渋谷系アキシブ系?)の文脈で捉えられたり、上坂すみれがEDM風のエレクトロチューンで歌うなど音楽好きにもアピールしてきている現状があり、その熱はじわじわと上がってきています。と同時に、日本のロックバンドがOP・EDに起用されるパターンも多く、アニメからバンドを知る(逆もまた然り)という流れもあります。UNISON SQUARE GARDENとタイバニ(タイガー&バニー)が象徴的かも知れません。

では一方、OSTはどうなのでしょう。

アニソンが基本シングルという体裁である実情もありますが、アルバムであるOSTが派手に売れたという話を、残念ながら筆者は聞いたことがありません(去年の"進撃の巨人"はなかなか売れたみたいですが)。アニメに心酔して円盤(DVDのこと)では飽き足らずグッズコンプリを誓うファンが買うにしても絶対数としては少ないし、よりライトなファンがアニメの思い出に買うのなら、手を出しやすく耳馴染みのあるOP・EDのシングルの方を選ぶでしょう。

そしてなによりアニメのOSTはBGMであり、かつシーンとのシナジーで感情を揺さぶるような、ある種劇的な部分が必要であるため、アンビエントとしては強すぎ、確固とした楽曲として聴くにはやや散漫・冗長であることも多く、使いどころが難しいものがほとんどだと言えます。すごく気に入った曲があっても1、2曲くらいだけというパターンも多く、正直それだけのために2000円以上もするCDを購入する勇気を持てるのは、アニメに破滅的なほどの愛を抱いたファンか富める者のみのはず。ならばiTunes Storeで単品買すれば、と考える方もいらっしゃるでしょう。ところがそのiTunesで配信しているサントラは一部のアニメであり、必ずしもお気に入りのアニメの曲が手に入るわけでもないのです。TSUTAYAのようなレンタル店で借りる場合も同じで、まだマイノリティであるアニメコーナーに揃ってるかどうかは確率です。もっと言うと、円盤に特典CDとしてのみ封入される場合もあるのです。

こういった現実がレイヤー状に重なり膜となって意識に張られ、OSTには手を伸ばしにくいような、やや不透明なイメージが付きまとっているように思われるのです。

しかしそれ故に、このテリトリーはなかなかの未開の領域であり、それは裏返せば掘る余地の十分ある、レアグルーヴとは一線を画す財宝の在り処とも言えます。vaporwaveが見逃がされてきた(あるいは見逃がすべきだった)音楽を素材に奇妙なホムンクルスを錬金・合成し、その祖たるOPNはやはり見過ごされてきたニューエイジをモダンなスタイルで再生する今日この頃。だからこそアニメOSTは再評価されるべきなのではと、個人的に考えているのです。アニメのアーカイブは莫大であり、それだけ伴音楽もあるわけですが、その中から音楽が好きな人々に強いアピールを持つだろうOSTをいくつか紹介したいと思います。

1. 遊戯王デュエルモンスターズ(OST1〜4)

動画のドラムンベース調の曲はOST1収録の「決闘のテーマ」です。作曲家は光宗信吉氏で、他にはローゼンメイデン少女革命ウテナも手掛けています。OST1の曲はよくニュースでも使用されてるので聴き覚えのある方も多いのでは。カルト的人気のOST3(ドーマ編)では、久石譲も想起させる壮大なオーケストレーションの曲が堪能出来ます。

おまけ。同じく「遊戯王」シリーズの「5D's」より。

ムンベに熱いギター。作曲者は別の方です。 

2. 攻殻機動隊 Ghost In The Shell/イノセンス

川井憲次氏による攻殻の劇伴。芸能山城組を想起。These New Puritansの2ndを思い出す人もいるかも。OPNもお気に入りです。彼が他に手掛けたのは、東のエデンらんま1/2Fate/Stay Night他多数。

GHOST IN THE SHELL-攻殻機動隊 2.0 ORIGINAL SOUNDTRACK

GHOST IN THE SHELL-攻殻機動隊 2.0 ORIGINAL SOUNDTRACK

 
 3. エウレカセブンAO(OST1~2)

先日文字通りの傑作アルバムを出したナカコーこと中村弘二氏による。テクノ。交響詩篇の枕詞に相応しい、アニメにおける音楽の力点の比重。

EUREKA SEVEN AO ORIGINAL SOUNDTRACK 1

EUREKA SEVEN AO ORIGINAL SOUNDTRACK 1

 
 4. ラーゼフォン(OST1~3)

言わずもがなの才媛、橋本一子氏による。フリーな感触のジャズ。ちなみに声優としても参加しています。他にはコードギアスの音楽も。

ラーゼフォン ― オリジナル・サウンドトラック 1
 
5. サムライチャンプルーOSTは数種類出ています)

Nujabes氏によるトラック。アニメのテーマは時代劇とヒップホップの融合。監督は音楽好きの渡辺信一郎氏(最近のお気に入りはVakulaなどだそう)。Ahmad Jamalをサンプリングしたトラックなど、チルアウト対応の曲が多いです。 

サムライチャンプルー オリジナルサウンドトラック

サムライチャンプルー オリジナルサウンドトラック

 

 「管野よう子が入っていないよ!」という声が聞こえてきそうですね。でも、OSTは潤沢すぎる程存在するので切りがないですし、何より掘る楽しみを皆さまから奪いかねないのでここまでで終わりにします。ちなみに最近"スペースダンディ"という、やはり渡辺信一郎監督のアニメがやっていました(第2クールは夏再開)、参加アーティストが凄いので気になった方はチェック!

結構ニッチなフィールドではあると思いますが、興味を持たれたら是非その近くて遠い秘境を探訪してみてはいかがでしょうか?

 

 

KV