「東京」の話

日本には「東京」というタイトルの楽曲やアルバムがいくつも存在します。福山雅治桑田佳祐矢沢永吉、名だたるミュージシャンが「東京」を歌ってきました。さて、今回はこの「東京」についての話したいと思います。

 

1980年代の「東京」

まず「東京」といえば誰もがこの曲を思い浮かべると思います。

そう沢田研二TOKIO」ですね。ちなみに歌詞はコピーライターの糸井重里さんが書いているのですが、この曲は歌詞の中に《火を吹いて 闇を裂き スーパーシティーが舞い上がる》と書いてあるくらい、東京が異世界であることが強調して描かれています。この曲を聴くと、きらびやかなサウンドと合いまって東京は誰もが想像を絶するような明るい都市であるように感じます。

そして、これに対抗してできたのがこの曲。

東京 ‐ ニコニコ動画:GINZA

浜田省吾の「東京」です。この曲はハマショウ自身が「ジュリーがライトサイドなら俺は“ダークサイドの東京”を描く」と言ったように歌詞の内容的には排他的な都会を描いています。*1

路地の裏で少女が身を売る 少年達は徒党を組んで獲物を探す/

ディスコで恋して ホテルで愛して ドライブ・インでさよなら 

今から見るとジュリーほどではありませんが「やりすぎかな……」って。こんな街は怖くて歩けないですね。この双方から言えることは東京は“普通の街”ではなく“特別な場所”という描き方をしている事がわかります。さて、きらびやかで、時に排他的な都市として描かれ方をしてきた東京ですが90年代に入ると東京の描き方に変化が表れてきます。その代表となるのがサニーデイ・サービスのアルバム『東京』であります。

 

“東京”を無くしたサニーデイ・サービスの『東京』

サニーデイ・サービスのアルバム『東京』は今までの東京と違った点は2つあります。まず1つ目のポイントは、「歌詞に東京がない」という事。『東京』というタイトルではありますが、この曲を含めアルバム全曲の歌詞に“東京”というワードは一つもありません。そして、もうひとつは「都市としての東京は描いていない」という事です。1曲目にあてられた「東京」の歌詞でも

おんぼろ列車に乗って田舎道 銀の帆張った船は海の上

ぼくも駆け出そうか 今日は街の中へ


この歌詞を見てわかる通り「え?これが東京??」って言う内容ですよね。それまでの都市としての描き方ではなく、普通の町である側面とそれを取り囲む人達を描くことで、東京をとらえています。

では、どうしてこういったアルバムができあがったのか?それは、このアルバムは最初から東京を意識して作ったものではなく、タイトルも最後に付けられた経緯があるからです。都市感を反映していない、“東京”というワードを入れない。これで『東京』は成立するのか?

しかし、これが東京を描いていると語るリスナーは多く、その証拠にアマゾンのレビューを見ると「僕の学生時代を思い出す」という意見が多数見かけます。これは作曲者の曽我部恵一が自分の周りの世界というのを肌でとらえ歌にしていた事が大きいように感じます。東京を特別な物と捉えず、今住んでる生活をそのまま歌にするというのは、サニーデイのこのアルバムが走りだったと個人的には思うわけで。

さて、この2年後「東京」というタイトルの名曲ができます。それが、くるりの「東京」です。

 

くるりから見た東京

1998年に出たこの曲はそれまでのバンドとは決定的に違う部分がありました。というよりも、くるりというバンドが「東京」を歌うこと自体、今までの流れか考えれば異例でした。

くるりは京都の立命館大学で結成され、この「東京」でメジャーデビューした1998年、彼らはまだ大学生でした。つまり、この時点でまだ東京に住んだ事がないのです。普通に考えれば京都に住んでいる彼らが「東京」を歌う事なんて異例なのですが、これを彼らにしかできない、地方出身者にしかできない体験を通すことでこの「東京」を描きました。それが“上京”であります。

歌詞を見れば、この「東京」には“東京”という街が描かれてなく“上京し、遠距離恋愛もしくは片思いの友達に話をしたい”という話のように受け取られることができます。“街”ではなく“体験”を通して描く。これはこの当時、京都出身の彼らだからこそ描けた“東京”であり、またこの曲をメジャーデビューシングルとして持ってくると事で、これから“東京”で勝負をしていくという決意表明にすら感じられる曲であります。

 

元祖「東京」と共通点

さて、くるりの「東京」を紹介した上でもう一つ紹介したい音源があります。実はくるり以前にも東京在住でないバンドが「東京」を歌ったケースがあります。そして、個人的には「東京」とタイトルがつく曲の元祖だと思います。それがマイペースの「東京」であります。

このマイペースは秋田出身で名古屋に拠点を置いており、曲発表時は東京には住んでいませんでした。でも彼らは“遠距離恋愛”というテーマを使い「可憐な彼女=花の都であった東京」を対比させて東京を表現しました。

さて、ここまで東京の名曲を紹介してきましたが、今までのアーティストには一つの共通点があります。それは“東京出身者ではない”という事です。ハマショウも曽我部さんもジュリー、そして歌詞を担当した糸井重里さんも、みんな東京出身者ではありません。ちなみに数年前発売されたアルバム「東京こんぴ」その続編「東京こんぴ 藍盤」で取り上げられていたバンド・アーティストの9割は東京以外の出身でした。「灯台下暗し」なんて言葉があるように、もしかしたら東京出身者では気づかない東京の魅力をこれらのアーティストは感じていたのかもしれません。では、東京出身のバンドに「東京」の曲がないのか、と言うとそうではなくて。最後に“東京出身バンドの東京の曲”でこの文章を締めたいと思います。

 

東京出身バンドが歌う「Tokyo」

最後に紹介するのは口ロロの「Tokyo」です。Tokyo FMの「シンクロノシティ」のテーマにもなっていますので聴いたことある方もおられるかもしれませんが、まずこの曲を説明する前にこの曲が入っているアルバム『everyday is a symphony』の話を少しします。このアルバムは「フィールドレコーディング」つまり野外で取ってきた音を元にして作られたアルバムです。

もともと、ブレイクビーツのサンプリングで再構成した音楽を作ってきた□□□ですが“音源は音楽に限らない”という考えから、“私達が何気なく聴く日常の音”でアルバムが作られたという経緯があります。この曲でも冒頭から《快速東京行きが到着します》と電車の車掌のアナウンスから始まり、その後、列車の車内の効果音等を効果的に使っています。

しかし、よくよく聴くと、この電車自体がフィクションであることに気づきます。現実世界おいて北新宿という駅はないし、越谷を経由する中央線なんて存在しません。これは権利上の問題とかいろいろあるんですが、でも、この曲を電車で聴くとこの音楽と外界の音がセッションしていき、この音楽内での仮想空間と現実世界が東京でリンクするそんな感覚になります。また、電車が走り出す音が徐々にドラムビートに変わっていく所や駅名ラップとかも面白く、東京の電車に乗りながら聴いてほしい1曲であります。

 

さて、以上で「東京」の曲解説を終わりますが、いかがだったでしょうか。ここに、俺の、私の好きな「東京」が無いって人はぜひ、あなたが好きな東京の曲を教えてください。

みなさんのおすすめの「東京」はなんですか?

 

 

ゴリさん(@toyoki123

ダラダラ人間の生活