1996年生まれ、大阪のパフォーマンスアカデミー出身。
ミュージカルやイベントダンサーに多数出演してきた彼女は、2011年、応募総数10,223組で争われたアニマックス主催の第5回全日本アニソングランプリにおいてグランプリを獲得、翌年2012年の4月に『黄昏乙女×アムネジア』のオープニング「CHOIR JAIL」でデビュー、その後、計6枚のシングルを発表している。
そんな彼女のデビューアルバム『17』が今年2月に発売された。
アルバムタイトルに自らの年齢を重ねるのは、イギリスのアデルと同じだ。と言ってもアデルの太めで陰のある声ではなく、鈴木このみの声はソプラノの明るく軽やかな声色で、言葉一つ一つをはっきりと発音して聴きとりやすい。その声の張り方とロングトーンは年齢離れした巧さを感じ、その経歴に偽りなしといったところだ。
キバ・オブ・アキバとのコラボレーションとなった「私がモテないのはどう考えてもお前らが悪い」、シングルとなった「CHOIR JAIL」「AVENGE WORLD」「追憶の黒き魔剣士」でのスラッシュメタル~メロディックススピードメタルサウンドを筆頭に、頭から足先までロックサウンドを詰め込み、時折バラードナンバーとギターポップな3曲を差し込んだ15曲。5曲のシングルを収録した『17』は、、2月時点までのベストオブ鈴木このみだった。
しかし今現在の彼女のベストは、間違いなくアニメ『ノーゲーム・ノーライフ』の「This game」だ。というかこの「This game」というシングルに入った5曲が全部すばらしい。
なにがスゴイか、とりあえずこの曲のインストバージョンを先に聴いてほしい。
鈴木このみ「This Game(Instrumental)」(ノーゲーム・ノーライフ)
知っている人もいると思うが、アニメのオープニングは約90秒間。その短い間の中では、代わる代わると変化していくアニメーションに合わせ、曲展開やサウンドを変化させて構築していかなければならない。時には、もともとあった展開に対し、違うタイミングで流れる展開を継ぎ足し、俗にいう"オープニングヴァージョン"なるテイクも存在するほどだ。この曲、アニメオープニングでは序盤のピアノの部分を切り、終盤の展開を原曲の最後から引っ張ってきただけで、ほぼ同じアレンジでシングル化されている。
アニメーションが先か、楽曲が先か、という制作進行上の深い話は分からないが、この曲の恐ろしいところは約90秒のなかで、一体どれだけのリズムパターンとサウンドを変化させたんだ?というアレンジの妙にある。
インストバージョンをもう一度聴いてみよう。ピアノのイントロから一拍おいてギターがなりだす43秒付近までの流れ、ピアノがメロディを先導しつつバンドが一気にもり立てるところなどは、ピアノを中心にしたエモバンドのようだ。
しかしそこからAメロ~Bメロの流れでは、一気にフュージョンバンドの如きアンサンブルが畳み掛けられ、特にベースの歪んだ音色によるスラップの応酬とドラムの乱打、これポップスですよ?そこまで騒がなく、叩かなくとも……と言いたくなる。
そこから一旦にBPMを落とし、ドラムパターンも拍も長くとることで間を作り、ピアノの音色とともにリスナーに一瞬の休みを与え、サビでは4つ打ち気味のドラムとストリングスの音色で裏メロを彩り、ボーカルとそのメロディをサポートする。
実はこの曲、イントロ~Aメロ~Bメロ~Cメロ~サビという構成になっており、起承転結というストーリー構成の基本中の基本に成り立ったかのような作りになっている。コロコロと変わっていくサウンドは、ボーカルレスでも十分に成り立つほどに高い構築度を誇っているのだ。
アニメのオープニングのために成長を遂げたアニソンは、こうやって「プログレポップ」としての顔を持ち合わせ始めているのは本当におもしろい。この楽曲が突出しているのは、これまでテーゼとしてあげられていたメタルやハードロックとしての顔ではなく、それすらも一つの顔としてサウンドに組み込んだフュージョン系としてあるからだ。ここに鈴木このみの歌声が入ると、こうなる。
鈴木このみ 「This Game」(ノーゲーム・ノーライフ)
声が入ることでプログレサウンド感は減退し、全てがボーカルを盛り立て、時に対決するように成り立ってるのがよくわかる。
ちなみに、このシングルのテイクとアニメオープニングのテイクでは、ボーカルを撮り直している。本人によれば「もっと勢いを出せるなと思って録り直しました」*1とのことだ。で、このシングルの2曲目に入ってるのが「Delighting」、「This game」の別歌詞・別アレンジなのだが。
鈴木このみ「Delighting(Instrumental)」
エレクトロ・ハウスにエレキが入る、アニソンではよくあるアレンジ。でもそのギターが「This game」よりもエッジさが効いたサウンドになってメリハリを生んでいる、EDMとして聴いてもおもしろいリミックスを期待できるトラック。これもインストだけでも聴ける一曲ではないだろうか。ここに鈴木この(ry
鈴木このみ「Delighting」
そして3曲目、実は通常版と特装版で別々の曲が入ってるのだが、遊びごころのあるカバーになっている。
鈴木このみ「太陽曰く燃えよカオス」
鈴木このみ「サイバーサンダーサイダー」
しかしこれほどに濃い歌をを選んでもなお、自分の曲として歌い上げる鈴木このみの才覚には本当に惚れ惚れとしてしまう。May'nに憧れた少女は、もしやその人と同格の才能とマジックを持ったシンガーなのかもしれない。
草野(@grassrainbow)