V.A.『MIKUHOP LP』
いつぞやか僕は、今作の総合プロデューサーしまさんと会ったことがある。ブラックミュージックと初音ミクを好む彼とは、ダブステップ黎明期の頃の音源について話をしたことがきっかけになり、秋葉原のとある喫茶店で、2人でいろいろと話をした。最近聴いた新譜、ブラックミュージックのこと、そしてちょうどその頃刊行されていた柴那典さんの「初音ミクはなぜ世界を変えたのか?」と初音ミクの話をした覚えがある。
「今度、初音ミクのコンピ出すことにしたんですよ」としまさんは話していた。その後にでた5曲入りEP、そして今作『MIKUHOP LP』は、初音ミクを筆頭にしたボーカロイドへの愛情なしには生まれ得なかった作品だと言ってイイ。 そして、電子のアイドルの初音ミクは今作には封じ込められてはいない、ここにいるのは、アイドルとしてより高みを臨もうと悪戦苦闘する初音ミクの姿だ。
今作、ボーカロイド×ヒップホップという出会いをあえて切りだすのなら、ボーカロイドの発音や滑舌の悪さなどを、改めて炙り出してしまった作品として、初聴の耳には残るのではなかろうか。
日本語ラップと英語圏のラップの違い、なんて大仰に言わなくても、メロディ1音に対し1つの単語でも意味をもたせられる英語に比べ、日本語は3つ以上の単語でないと意味のある言葉を紡げないのは、日本語で音楽をするときの大きな関門だ。でんの子Pの「放課後はライムスター」で中途にあがる「ディス・イズ・ア・ペン」よろしく、《これはペンです》を日本語と英語で伝えるときに消費する文字数を鑑みればわかってもらえるかもしれない。
また子音と母音の違い、日本語は母音で終わる言葉が多く、英語は子音で終わる言葉が多いこと、母音は声帯が震える有声音のため音がはっきりし、子音は終わる声帯の震えない空気を吐くような無声音のため音がはっきりしない、これらが大きな差異として出てくる。またしても「ディス・イズ・ア・ペン」の話だが、英語圏では「dhi su izu a pen」とは<はっきりと>発音はしない、「dhi s iz a pen」と空気を入れた発音をしていることでわかってもらえるかもしれない。
初音ミク、いやボーカロイドは唄を歌うとき、楽譜上の一音に対して言葉を載せるクセがある。そんな制作エディット上で避けられない事実と、上述した発音上の問題が絡んだ日本語ラップの避けられない問題が絡むことで、奇怪なキメラの姿が見えてくる。機械的な発音で流麗なメロディを唄うことも難しい彼女らのたどたどしさが、より鮮明になって立ち現れてくるのだ。
無論、そんな結果を予測できているのが本作に集まったトラックメイカー達であり、本作を何よりもおもしろくしているのは、こうした弱点を踏まえつつ、生み出したトラック、その多彩さに他ならない。ボーカロイドにラップやメロディを唄わせ、本来の目的である「仮歌としてのボーカル」「メロディを奏でる楽器」という役割を全うさせ、自らのトラックを印象づけることに成功している。時には、その声を楽器として混ぜあわせてトラックの一部として接着させたりするなど、彼らの非常に深い音楽的洞察眼が伺えもするし、それをコンパイルした総合プロデューサーのしまさんの狙いも見えてくる。もしもヒップホップ=ラップとして聴いてしまうと、この彩りの豊富さを見過ごしてしまうほどに、ディープかつドープな楽曲が今作にはコンパイルされている。
個人的には、緊急ゆるポートサウンドシステムの「ハッピー・ハンモック」、nayrockの「Reflection Eternal(Miku Reflects)」、でんの子Pの「放課後はライムマスター」が好みだ。詳しいディスクレビューは、フォルダ内に入っているしまさんのレビューが非常に的確だと思う。
まぁ、読むより聴くが早し、リンク先はこちらだ。(前作のEPも張っておきますね)
【OMOIDE-38】MIKUHOP EP | omoidelabel
[STL001] MIKUHOP LP | Stripeless
最後に、この『MIKU HOP』のdisとそれに対するアンサーがあったりもします。
草野(@grassrainbow)