YUKI『FLY』

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YUKIが今年9月にリリースしたアルバム『FLY』を合評しました。本当は先月半ばくらいに掲載する予定だったのですが、遅れに遅れました。まあ僕が疲れてたからなのですが、そもそもこのアルバムは説明しようとすればするほど、そこから逃げていくような作品でもあると思います。と、言い訳しつつ、僕がうだうだ言いながらサボっていただけのような気もします。でもいい音楽ほど文章にするのが難しいのも事実で……。というわけで、このレビューがこの至高のアルバムを手に取るきっかけになれば、と願いつつこの無謀な戦いに挑みました。笑っていただければ幸いです。うめもとさんのテキストも素敵なのでぜひ。(ぴっち)

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いきなりだけど、まず「YUKIは天使」という昨今の風潮があり、基本的には僕はそれに同意しているのですが、「でもそれだけじゃない!」という思いもあるので、今回はそれについて説明しようと思います。というのも、この「YUKIは天使」論については諸説あると思うのですが、少なくともJUDY AND MARY時代に「YUKI=天使」という認識はなかったと思われるからです。だとすればソロ以降、そのイメージが確立したと推測されるのだけど、あくまで僕にとってはソロ活動初期におけるYUKIは、天使というよりもセックスシンボルであったことをここでご報告する次第です。

YUKI「the end of shite」

曲は作詞、作曲、編曲すべてを日暮愛葉が手がけたもので、それはもう叫びたくなるほどかっこいいのですが、ジャケットがアレで、歌詞が《2人裸みたい そう 太陽の下で/思い切り 愛し合う》ですから、それはもうエロいわけです。当時学生だった自分は「shite」という英単語の意味がわからず、図書館中の英和辞典を探し回りましたが「shite」という単語は見つかりませんでした。ですがあれはただ単にローマ字表記で「shite(=して)」だということを、おそらく10年は経ってからようやく気付き、意味がわからずとも「エロ用語に違いない!」と推測していた当時の自分を褒めてやりたいと思いました。

それから2010年の、タイトルの上では喜びに満ちている「うれしくって抱きあうよ」も第一級のエロソングであることは、僕が指摘するまでもなく周知の事実だと思います。

YUKIうれしくって抱きあうよ

どこを切り取るかでセンスが問われると思うのですが、《動き出す2つの鼓動 辿り着く涙の岸辺/降り出した雨止まずに びしょ濡れならそのままもいいさ》あたりがとても素敵です。曲全体があまりに露骨で、文学と言えるものなのかは正直わからないのですが(そもそも文学自体知らん)、大衆の娯楽であることを意識した言葉選びという点では桑田佳祐の影響を感じました。素敵にエロいです。

ですがここで僕が言いたいことは「YUKIはエロい。故にYUKIは天使ではない(=堕天使だ)」という安易な証明ではありません。例えば彼女は「2人のストーリー」でどこに行き着かない、どうしようもない男女の歌を歌っています。

YUKI「2人のストーリー」

《浮気をしては仲直り そしてそれは酷い間違いだった》《物語りは続く 2人の思い通り/最後のページ 開かれないストーリー》これを聴けば分かるように、彼女は安易にハッピーエンドを与えるようなストーリーテラーではないということです。

つまりこの辺りを勘違いする人が多いのですが、「YUKIちゃんはかわいい」→「だからYUKIちゃんは天使!」という流れは一見わかりやすく、便利で使い勝手のいい立ち位置に彼女を導いてくれます。しかし彼女が歌うのは、例えば「JOY」や「ドラマチック」「ビスケット」のような「YUKIちゃん=天使」論を補強するような楽曲だけではないということです。別に彼女をエロ堕天使と貶めたいわけではなく(エロいけど)、また面倒くさい人間だと結論付けたいわけでもありません。

僕たちは天国でも理想郷でもない、この地上でごく普通に当たり前の日常を生きています。楽しいこともあるけど、時にはうんざりするようなことがあって全てが嫌になり、自分を投影できるような対象(=アイドル)を見つけ、手っ取り早く気持ちよくなりたがったりします。そして「YUKIは天使」という風潮が、そういう自己の一時的な逃避先として作られた面が少なからずあると思うのです。もちろんそれが悪いというつもりはありません。

ただ個人的には少し「もったいない」と思うのです。例えば今作『FLY』でのYUKIちゃんはキレッキレなわけです。初っ端の「誰でもロンリー」なんてタイトルの時点で同しようもない真理を突きまくっているのに、それだけではなく《あの娘にも この娘にも足りない 僕にも足りない 良妻賢母》と歌っているわけです。つまり「僕(=私)には良妻賢母が足りないし、そんなわけだから私が良妻賢母(≒天使)なんてありえない」と解釈できるわけです。

YUKI「誰でもロンリー」

というわけで、ここまで読み進めてくれた人の頭のなかには1つの疑念が思い浮かぶはずです。つまり「天使じゃないならYUKIちゃんって何者?」ということです。しかしYUKIYUKIであり、それ以上それ以下でもありません。と書くと「答えをはぐらかしている!」とか怒られそうだけど、僕にもわからないのでそうとしか書きようがないのです。あはは。でもごめんなさい。

ただ真面目な話、YUKIという人は定義づけようとすればそれからはみ出していく人だし、かと思えば王道であることを堂々と引き受け、紅白歌合戦にも出演し、東京ドームでしっかりライブをやれてしまう人でもあります。ど真ん中と変化、その両方ができる人だし、今回のアルバムにはそのどちらの側面も色濃く出ています。

『FLY』は前半のAOR、ヒップホップ、R&Bを織り交ぜたダンスミュージックに加えて、後半のJ-POPナンバー3連発が違和感なく溶け込んでいるのが大きな特徴です。give me walletやKAKATOといった多彩な作曲陣が参加しているにもかかわらず、YUKI玉井健二百田留衣でアレンジが固められたことで、アルバム全体が違和感なく溶け込んでいます。そして唯一、作曲だけでなく編曲まで依頼することになった菅野よう子の「坂道のメロディ」の素晴らしさ。エッジの聴いたダンスミュージックとJ-POPの自然な同居。JUDY AND MARYから13年、YUKIの堂々たる最高傑作と言って間違いないと思います。YUKIちゃんは天使ではない。だからこそ天使よりも眩しい。J-POPはここまで自由になれた。

 

 

ぴっち(@pitti2210

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YUKI「波乗り500マイル(feat.KAKATO)」

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僕たちの日常で当たり前のようにテレビの中で流れる音楽がある。たとえばCM、ドラマ、バラエティ番組のタイアップ、そして音楽番組。僕の中でYUKIはテレビで「当たり前に存在している」一人だ。YUKIはかわいい。曲も良い。でもそれ以上の存在ではなかった。だからYUKIをほとんど知らないまま今日を過ごしてきた。

ではなぜ今更になってYUKIの音楽に興味が沸いてきたのか、それはこのランキングで『うれしくって抱き合うよ』が上位に入っていたからだ。「えっ!!そんなにYUKIって音楽好きからも支持されていたの?」同様の理由で僕はPerfumeも今年に入るまでほとんど聴くことが無かった。(ちなみにきゃりーちゃんも聴いたことが無いのでそろそろ聴こうと思っている)

前置きが長くなってしまった。今回の感想はその程度の知識しか持っていない人間の戯言だと思っていただきたい。その、怒らないで読んでもらえたらいいな。

YUKI、7枚目のオリジナルアルバムは、Hip Hop、Soul、R&B、テクノからユーロビートまで、様々なジャンルのダンスナンバーを集めたとにかく踊れるダンスアルバム。

amazonの紹介文ではこのように書かれている。実際に僕が『FLY』を聴いて思ったのは「このアルバムって本当にダンスミュージック的なアルバムなの?」ということだ。アレンジ・曲調は確かにダンスミュージック的だと思う。1〜3曲目は特にそのムードをわかりやすく捕らえている。

しかし『FLY』のYUKIの歌唱や、歌詞が「踊る=体が揺れる」ように作られているとは思えない。トラックだけを聴けば、確かに体は勝手に反応して踊ってしまう。しかしこのアルバムで紡がれている曲と向き合った時、それは一つの側面でしか無い事に気付く。

『FLY』はそれぞれの楽曲に「自然とその曲と向き合ってしまう」器の広さがある。そしてYUKIの歌唱は否が応にもその曲と向き合う事を強調している。どれだけ「このトラックのこのフレーズがカッコイイ」と思っていても、いつの間にかその曲の中で立っている自分がいる。(ちなみに、このアルバムに限った話では無いのだろうか?少なくともベストアルバムを聴いた限りではこんな感情を抱く事は無かった)

この「曲に向き合う」のと、単純に「曲を気持ち良く聴く」体験はイコールではないと思う。正直な所、このアルバムを本当に楽しく聴けるようになったのは最近だ。音楽を聴くスタンスとして、歌詞に意味をそこまで求めていなかったというのもある。「意味なんて無くても楽しく踊れていればそれで良いんじゃないの?」と思ったりもする。そんな自分にとってYUKIのアルバムは少し難しく感じた。難しく考えすぎというよりも、どう受け取れば良いのか分からなかったのだと思う。

勝手な感想だけど、『FLY』はダンスミュージック的な顔を持ち合わせてはいるものの、その中身はオペラやミュージカルのようなアルバムだと思っている。アルバム全体が一つのストーリーとして繋がっている訳では無いとしても一つ一つの曲の歌詞がYUKIが僕らのために考えたストーリーだ。

そのストーリーを自分の中で咀嚼した時、改めて『FLY』というアルバムの魅力に気付く。そしてストーリーを彩る曲のアレンジを楽しめるようになった。そう、このアルバムと向き合っている内に僕はYUKIが大好きになってしまった。いまさらだけど。

ここまで書いておいてなんだけど、深く考える必要なんて全く無いかもしれない。YUKIから語られる物語に自然と身を委ねれば楽しいポップミュージカルが体験出来るはずだと思う。でももし万が一僕のようにいまいちピンと来なくても、できれば何回かは聴いてみて欲しい。聴いていくうちに少しずつ頭に情景が浮かび上がってくる。そして気付けば「すっごくお気に入りのアルバムになってしまった」ということもありえる。そんな素敵なアルバムだから。

ちなみに個人的にアルバムの中で一番気に入っているのは「君はスーパーラジカル」。とてもグルーヴィなベース音がたまらなく心地良い。YUKIはこの曲で《君はスーパーラジカル/君はスーパーマジカル》と歌っている。でも僕からすればあなたがスーパーラジカルで、スーパーマジカルだよ。

 

 

うめもと(@takkaaaan