赤い公園『猛烈リトミック』

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赤い公園の2ndアルバム『猛烈リトミック』の合評です。 本来一人で書き上げるはずがこのアルバムを聴いた感情を言葉にする事が出来ず、四苦八苦していた時に合評の募集をかけたところ3人の方がレビューを書いてくれました。ありがとうございます。遅くなってしまってごめんなさい。結果的にいろんな視点からのレビューが載っているのではないかと、手前味噌ながら思っています。読んだ方の参考になればうれしいです。(うめもと)

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リトミックとはどういう意味か。調べると「様々な音楽を聴いて思ったままに遊びや、踊りをする事で能力を高めていく音楽教育」のことだそうだ。この意味を頭に入れ、本作を聴くと実に計画的な作品なのがわかる。

重厚なギターサウンドのイントロから一瞬のストップモーションを経て、眩く光り輝くキラキラなサウンドが展開する「NOW ON AIR」で幕開けると、「絶対的な関係」ではまるでパンクロックを思い起こさせるドラムビートとざらついたサウンドが展開。そうかと思えば、まるで地獄の底から叫ぶような歌声が印象的な「ドライフラワー」や、KREVAと共演した「TOKYO HARBOR」ではアーバンソウル的なサウンドが心地よく耳を癒す。と、1曲として同じような曲がないくらい、本作は大変バラエティに富んでいる。これは曲ごとに亀田誠治蔦谷好位置、蓮沼執太、嶋津央そしてメンバーの津野米咲の5人がプロデュースをしている事が大きい。そのため、アルバムとして統一性がない事も事実なのだが、それすらも彼女達の狙いだと感じる。

津野米咲は以前に

「みんな四つ打ちばかりやりやがって!」と思ってた

赤い公園 佐藤千明&津野米咲インタビュー (3/4) - 音楽ナタリー Power Push

とインタビューで発言しており、1曲目の「NOW ON AIR」でも《冴えないヒットチャート》や《異論のないグットチョイスな いなたいビート》という歌詞を書いていることから、昨今の売れ線な流行りの音楽にウンザリしているのではと感じる。だからこそ、本作を聴いたリスナーがこれをきっかけに自分が好きなジャンルの音楽を見つけて欲しいという願いを込め、流行りの音楽と一味違うポップソングたちを制作したのではないだろうか。

おもちゃ箱のように詰め込まれた本作を聴けば、もっと沢山の音楽に出会え、さらに好きな音楽に出会える。まさに『猛烈リトミック』はリスナーの耳をリトミックするような作品である。僕からの願いを彼女たちの言葉を借りて言うならば《冴えないヒットチャート》を蹴散らす、そんな存在になってほしい。

 

 

ゴリさん(@toyoki123

ダラダラ人間の生活

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赤い公園「NOW ON AIR

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まずは「NOW ON AIR」という、赤い公園史上最高にキラキラした音楽賛歌(正確にはラジオ賛歌ですが)から始まるのが素敵じゃないかと思うんです。翻って「絶対的な関係」ではロックバンド然とした尖った音を叩き付けてきたり、「私」や「ドライフラワー」では癒える予兆のない傷や病と向き合った結果の深い音が鳴らされたり。爽快な青春応援歌もあれば、少々歪なラブソングもある。「ジャンルがない」と言えばそれまでですが、その楽曲群には『猛烈リトミック』と名前がつけられたわけで。なるほど、これはもう型にはまらない最強の音楽教材だなと納得です。

そんな曲の全てが、ポップミュージックの垢抜けた馴染みやすさとロックバンドの反骨精神との真ん中を行く、新たな道を開拓しているような音楽だと思います。現在の、というよりは、少しだけ未来のスタンダードになり得るような音。

くわえて、これまでの作品以上に世間への浸透力もあるであろうアルバムなのに、まとまり切っていないというか、その勢いはもう誰にも止められないし、収拾がつかないといった感じも。バンドのポテンシャルやエネルギー自体がそう感じさせてくれるのならそれは凄いことで、蔦屋好位置さんや亀田誠治さんなどの名プロデューサー陣を迎え入れながら、外から手を加えられても良い意味で染まり切らなかったということなのだと思います。つまりそれが何なのか断言することが私にはできませんが、何だかとても溢れ出しているように感じさせ、綺麗に整えようにも型からはみ出してしまうような歪な音楽性。そうか、この感じが赤い公園らしさなんだと、見ていたようで全く見えていなかった彼女たちの魅力に改めて気づかされたような気がします。気付かされた、なんてものでもないです。見せつけられました。そのくらい、初めて聴いた時にはガツンとやられた気分でした。

私的白眉はラストナンバー「木」。最後を予感させる「風が知ってる」からの流れも良いし、イントロの拍子遊びからもう惹き込まれるし、何よりメロディーとサビのハーモニーは本当に美しいと思います。聴いてびっくり、クレジットを見て2度目のびっくりがあり、それはこの曲がセルフプロデュースであったこと。赤い公園、まだまだ隠し持っている武器のような曲がありそうな予感がしてなりません。だから今後も期待。だけどその前に、メジャーデビュー直後の休止期間で彼女らが見たであろう闇も、それを経てもポップな存在であろうとする意志も詰め込まれたようなこの1枚を、幾度となく聴いていきたいと思います。

 

おとべ(@tobe_msc

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赤い公園「絶対的な関係」

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赤い公園についてはあまり知らなくて、ギターの津野米咲が手がけたSMAPの「Joy!」やタルトタタンの「某ちゃん」を聴いていた程度だった。これらの楽曲の出来と比較すると、ポップでありながら歪な音を鳴らすバンドだと思う。奇を衒いすぎた結果、不必要に複雑なことをしている。それが僕の中での赤い公園の印象で、このアルバムを最初に聴いた時にその印象が覆ることはなかった。

だけど時間が経つに連れて、困ったことにその歪さが僕の中で整合性を持ち始めた。要は慣れたという話なのだが、なんていうか、赤い公園って普通に考えるとかなり変なバンドだと思う。プロデューサーとして亀田誠治蔦谷好位置を招くあたりはJ-POPを主戦場とするガールズバンドとしては正しいし、そこからKREVAを迎えるところにも度胸の良さを見て取れる。しかし蓮沼執太というキャスティングは明らかにおかしい。確かに「日本国内で行われているポップミュージックの一つの形」としてJ-POPと括ることができないこともないけど、でもやっぱり変。どちらかと言うと実験音楽側の人なわけだし。ただもしかすると津野米咲もそちら側の人なのかもしれない。

このアルバムを聴いていると、椎名林檎チャットモンチーRADWIMPSthe band apartアジカンといったJ-POP、ROCKのアーティストの影響を見出すことができる。しかし不協和音、変拍子をふんだんに盛り込みまくりながら、しっかり筋の通ったグルーヴを生み出すに至る曲をまとめ上げる津野米咲はやっぱり変だと思う。

正直、彼女たちの音楽から洋楽やレコードコレクター的な気質は感じない。だからそちらの方面での評価は期待できないのだけど、ただこれを聴かないで「J-POPがつまらない」と結論付けるのは少しもったいない。彼女たちが成長することでどのような選択をするかはまだわからない。でもきっと変な音楽を作り続けるはず。Dirty Projectorsチャットモンチーを強制的に混ぜあわせたような「ひつじ屋さん」がすごく楽しかった。でも多分Dirty Projectorsを知らないと思う。どんどん狂ってね。

 

 

ぴっち(@pitti2210

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赤い公園「風が知ってる」

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赤い公園の曲を聴いていると、津野米咲は音楽でしか救われない人というのがわかる。「NOW ON AIR」という曲を聴いた時、そんな彼女がどうしようもなく愛しくなった。そしてそんな人だからこそこんなにもJ-POPとしておもしろいアルバムができあがったのだと思う。

このアルバムで彼女たちはロックバンドのままJ-POPを鳴らすことに成功している。そもそも赤い公園は最初からJ-POPで売れることを意識しているバンドだ。津野米咲が作る音楽は芸術的である。それと同時に商業的な音楽としても機能している。デビュー時の2枚のミニアルバムの頃からその片鱗は見えていた。彼女のポップスへの愛、と同時に隠しきれなくてただ漏れてしまっている負の感情。この2つの一見相容れない要素を初めからどちらも必然として赤い公園は音楽に詰め込んでいた。

そして1stフルアルバムの『公園デビュー』ではミニアルバムの頃にはまだ散漫な曲の集合体だったものを(ちなみに全体的に荒さはあるけれど原石のようにピカピカ光った曲がいくつもある)できる限りアルバムとしてのトータルバランスを揃え、高めていたと思う。

ただ、僕個人の本音を言わせてもらえば、「そんな綺麗にする必要なんて無いのに」とずっと思っていた。誤解して欲しくは無いのだけど、『公園デビュー』はすばらしいアルバムだ。「交信」という赤い公園の中でも屈指の名曲も収められている。ただ僕のワガママを言わせてもらうとライブ寄りのアレンジが多くやや均一な印象を抱いてしまった。

そして今回の『猛烈リトミック』だが、一見かなりバラバラである。以前よりさらに散漫になっている。でもこれが赤い公園というバンドなのだ。彼女たちは、腸が煮えくり返っているかのような歪なロックと老若男女関係なく小さな子どもにまで伝わるであろう優しくて楽しいポップミュージックを作ることができるのである。そういう意味で今回のアルバムは非常に理想的で赤い公園の魅力が詰まりまくったアルバムだと言える。

もちろんアルバムとしてのバランスは崩れているし、コンセプトもしっかりしていないのかもしれない。だけど今はこれで良い。これでようやく赤い公園の音楽の振り幅に限界が無いことを知ってもらえた。あとはソングライティングに磨きをかけ、バンドのグルーヴを高めるという至極当たり前の事をやっていけば、そう遠くない未来、赤い公園は過去優れたミュージシャンたちが命を燃やして作り上げた名盤というものを更新しているはずである。この『猛烈リトミック』はその最初の一歩だ。

 

 

うめもと(@takkaaaan