2ヶ月連続で大森靖子のライブを見た 前編 三月のピンクトカレフ

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福岡で開催3年目の「FX」というイベントで初めて大森靖子のライブを観た。ロックフェスということで、形態は2011年から活動していたバンドスタイル・大森靖子&THEピンクトカレフ

日中から何組もバンドが出るイベントの構成上、ライブ前のサウンドチェックは本人たちが行う。バンドメンバーたちによって丁寧に音が作られていく中、大森靖子本人も登場しマイクチェックを始めた。

最終チェックではアコギを持ち、バンド演奏で「背中のジッパー」を歌った。リハとは思えないほどの迫力。その時点で様子見がてら彼女たちを観に来ていた観客をその場に留めたに違いない。その後は、ひとりカラオケ状態で浜崎あゆみの「evolution」、中島みゆきの「地上の星」、SPEEDの「STEADY」をモノマネしつつ無邪気に歌った。先ほどまでと違い、一気に笑いのノリが会場を温める。不思議な空間がリハの段階で作り出された。既に、彼女のペースになりつつあると直感的に思った。

ひとしきり歌ったあと、ライブ開始の定刻になった。「もう始めて良いの?こんなにまったり始まっていいんだね」と笑いながら、ステージ袖に捌けることなくライブは突如始まった。一曲目は「苺フラッペは溶けていた」。全編アカペラである。集まった観客の息を飲む音も聞こえるほど張り詰めた空気を彼女の絶唱が貫いていく。一見だろうと、ファンだろうと無関係に冒頭から目撃した者全員をガチっと掴んで離さない強烈なオープニングだった。

間髪入れず、「hayatochiri」「きゅるきゅる」「Over the party」を、持ち時間が足りないとばかりに畳み掛けていく。太いバンドサウンドという強靭な発射台から、大森靖子の楽曲がより強固なものなり放たれていく。聴いてると心が勝手に暴れて、自分がどう動いて盛り上がってるかに意識が向かなくなるほどに熱いものが込み上げてきた。

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この日唯一のMCで大森靖子は「ロックする人間はピンクトカレフメンバーもそうだけど、みんな未完成で不完成で。それでもそういう人間が大きな仕事を成し遂げようとしている姿を見て生きる活力を貰ってくれるそういう場がロックフェスで。まあそれを見せてれるかというと、足りないんじゃないのかな?君たちは」という旨を、ピンクトカレフのメンバーを見ながら告げた。

このライブの約ひと月前、バンドは解散を発表した。この日は彼女たちにとってのセミファイナルライブだったのだ。解散理由としては「COUNTDOWN JAPANでこのバンドで盛り上がる限界がはっきり分かって、自分が大きくなっていく中でバンドの成長を待っていられない」*1とのことだったが、僕個人としては、このMCまでの4曲にすっかり魅了されていたので、もっと見たいとしか思わなかった。とても惜しい。

「さあ、ロックフェスをやりましょう!」という大森靖子の合図で始まったのは「ミッドナイト清純異性交遊」。僕はピンクトカレフバージョンのこの曲が大好きだ。疾走するシンプルなギターロックに、アイドルソング直系の泣きメロを乗せ3分ちょっとを駆け抜けていく。歌詞は、大森靖子道重さゆみへの愛を込めたものだが、この日はまるで表現者としてどんどん巨大化していく大森靖子の姿をひたすら見つめるしかないピンクトカレフのメンバー目線の歌のように聴こえて、切なくなってしまった。

続く「新宿」ではマイクスタンドを客席に差し出し、「絶対絶望絶好調」ではステージ上をバタバタと転げ回りながら、ハンドマイクで歌い上げていく。ピンクトカレフはあと2回しか出番がないという緊張感を保ったまま、そのはみ出続ける歌を支えていた。

皮肉なもので、終わりゆくバンドには強烈な感傷と美しさが宿ってしまう。この日の「最終公演」はそういった部分も含め、最高の演奏だったと思う。実直に音を重ねるバンドと、ぶつかり合うように強くなる歌声。ギリギリのバランスでお互いを輝かせ合うような、潰し合うような奇跡的な重なり。バンドの在り方を刻み付ける儚くて美しい一曲だった。

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刹那を燃やし尽くすような30分間が終わったかに見えたが、轟音の果てにブツッというノイズが聴こえた。アンプから大森靖子がアコギを外した音だった。そしてマイクも通さない声と弾き語りで披露された「君と映画」が正真正銘、最後の曲だった。

2000人が入るZepp Fukuokaの大きなフロアに向け、身を乗り出し、生声で歌いかける彼女の姿を誰もが注視していた。静まり返る会場に、彼女の声がしっとり響く。このイベント中、最も音が小さい時間だったはずなのに、大きなインパクトを胸に残した。最後の最後に、4月の弾き語りライブへの期待感へと見事に繋げてくれたのだ。

初めて観た大森靖子が、解散寸前の&THEピンクトカレフという貴重な機会で良かった。もっと観たかったという感情も捨てきれないが、それでもロックバンドの姿で、ロックフェスには吹いてなかった風を巻き起こしたこの日のライブはきっと忘れることはできない。そして現在、幾つかのライブで行われているバンドスタイルでのライブも観る必要があると強く思った。大森靖子&THEピンクトカレフという、理想的に見えるスタイルを止めて、表現を巨大化させようとする大森靖子をこれからきっちり見張らなくてはいけない。

3/21 大森靖子&THEピンクトカレフ @ FX2015

1. 苺フラッペは溶けていた
2. hayatochiri
3. きゅるきゅる
4. Over the party
5. ミッドナイト清純異性交遊
6. 新宿
7. 絶対絶望絶好調
8. 最終公演
9. 君と映画

 

月の人(@ShapeMoon

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