髭『ねむらない』
髭の2年7ヶ月ぶりのアルバム。その間にアイゴンが勇退し、オリジナルメンバーのフィリポも脱退した。事務所も独立し、自主レーベルも設立した。
率直に言って大傑作だと思う。
ただ、髭という名前を聞いて大半の人が思うような曲はほぼない。つまり「ロックンロールと五人の囚人」や「それではみなさん良い旅を!」のようなアッパーな曲はない。敢えて言うなら宮川が作詞作曲にも関わっている「檸檬」くらいだ。つまり彼らは自分たちの名刺代わりになるようなキャッチーなロックンロールを封印している。
このアルバムで彼らは丁寧に音を紡いでいる。ラフな演奏で押し切っていない。例えば『サンシャイン』の時のように外部ミュージシャンが入り乱れたり、前作『QUEENS, DANKE SCHÖN PAPA!』のトリプルドラム編成のような混沌はない。今のメンバー、そしてサポートの佐藤謙介(drum/踊ってばかりの国)とgomes(keyboard、Guitar/FAB)の6人で丁寧に演奏している。
それが結果的に髭のサイケな側面を強固なものにしている。『ねむらない』というタイトルというタイトルとは裏腹に、寝る直前に聴いていたいやさしさに満ちている。
ただ、サイケデリックロックという観点から見ると、その正確な位置づけはともかく、現在の日本には坂本慎太郎とOGRE YOU ASSHOLEがいる。髭の音楽的要素の中にサイケデリックな要素が存在するのは確かだ。ただ、少なくてもこのアルバムにおける髭はそれを売りにしていない。つまりサイケで聴く人をノックアウトさせようとする意志は希薄だと思う。例えばドラッグやアルコールで意識を飛ばそうとか、そういう意志はあまり感じない。
ライブ感が薄い反面、アルバムとしてはひたすら聴くのが楽しい。結成から12年、様々なものを失った彼らが鳴らす最高のベッドタイムミュージックだ。
ぴっち(@pitti2210)