カネコアヤノ『タオルケットは穏やかな』

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カネコアヤノの6枚目のアルバム『タオルケットは穏やかな』を聴いた。

とにかく聴きやすい。以前より洗練されている。ロックとフォークが主体のサウンドであることに変わりはないが、シューゲイザーのような轟音、それからジャズ的なアレンジが導入され、全体的に多様になった。バンドに任せる部分が増え、相対的に彼女の歌が担っていた負担が軽減されたのだと思う。以前のような鋭さが影を潜め、穏やかな雰囲気が漂っている。

また制作時点において武道館公演やZepp、ホールツアーを控えていたことから、より多くの人に聴かれることを意識していたのかもしれない。以前のような聴く人と一対一で対峙するような圧迫感が和らぎ、より多くの人に届く音楽になった。

というわけで、最高到達点と言える作品だが、最高傑作かは正直わからない。僕自身は一番好きな作品なのだが、人によっては『燦々』の方が好きな人もいると思う。ビートルズの『Beatles For Sale』と『Revolver』を比較するようなもので、どちらも良い作品であることに疑いはないが、そこから先は好みとしか言いようがない。まあ間違いなくいい作品だとは思います。

歌詞についてだが、誤解を恐れずに言えばアルバム全体に統一したテーマがあるとは思わない。愛、不安、気分、後悔など、率直な思いを書き記している。情景が目に浮かぶものもあるし、よくわからないものもある。

個人的には「季節の果物」の歌詞がとても好きだった。

優しくいたい
海にはなりたくない
全てへ捧ぐ愛はない
あなたと季節の果物をわけあう愛から

(季節の果物)

一瞬、加山雄三の「海 その愛」へのアンサーなのか?と思いつつ、愛が無尽蔵ではないことをわかりやすく記している歌詞だ。人類愛のようなものがかつて社会に実在したであろう頃の記憶はすでに忘却の彼方だが、よりミクロというか、手の届く範囲を大事にする感覚はとても今に根ざしていると思う。とても素敵だ。 

他方、表題曲の「タオルケットは穏やかな」の歌詞はよくわからない。

いいんだよ 分からないまま
曖昧な愛
家々の窓にはそれぞれが迷い
シャツの襟はたったまま

(タオルケットは穏やかな)

自身が「曖昧な愛」と歌っているように何が言いたいのかわからないし、多分この歌詞の主人公もわかっていない。加えて、なぜ「穏やかなタオルケット」というタイトルでないのかもわからない(※多分ダサいから)し、「タオルケットが穏やかってどういうこと?」とも思う。

だが同時にカネコアヤノは「いいんだよ 分からないまま」と歌う。彼女の半音ずれたような特徴的でデカい声で力強く歌われると、そうかな?と思ってしまう。よくわからないけど納得させられる。言葉全体が厳密につながっていなくても、単語の一つ一つでイメージが想起させられてゆく。

このやたら説得力のある歌声こそがカネコアヤノの本質だと思う。それは僕が彼女のライブをはじめて観た2019年のOTO TO TABIというイベントの時から変わっていない。あれから4年経ち、彼女もバンドも成長し、メンバーも変わり、そして彼女の歌う内容も変化した。良い方向にも悪い方向にも解釈できるし、それは聴く人の自由だ。だけど僕には、あの時よりもタフで楽しそうな彼女が目に浮かぶ。アルバム単位でこれほどまでに聴きやすく、同時に充実したものはこれまでなかった。

音楽的に多彩になり、多くの人に届くまでに洗練された。彼女のやたら豪快な歌声は、まるで魔法のように聴く人に満足感をもたらす。そして今を生きる彼女の世界が丁寧に描かれた今作は、2023年のまごうことのない傑作だと思う。

カネコアヤノの歌を聴いていると、真っ当に生きたい、彼女の側に立っていたい、と思う。そうじゃない生き方を思いつくわけではないが。でもなんとなく。


ぴっち(@pitti2210)はこのブログの管理人。今年はこのブログに音楽の感想を放り込んでいきたいと思ってる。ベストアルバム公開後はだいたいいつもそう思っているけど実際に投稿するのはかなり久しぶり。