飛躍 ~モーニング娘。の過去・現在・未来~

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2014年11月26日、日本武道館にてモーニング娘。’14のリーダーである道重さゆみが卒業した。彼女の卒業によりモーニング娘。は、いま大きな岐路に立たされている。それについては最後で話すとして、彼女たちは今までも何度も岐路に立たされては最大の力を発揮し、ピンチをチャンスに変え飛躍してきた。そこで今日はモーニング娘。の歴史を振り返りながら、彼女たちがいかにして今のシーンに上り詰めたのか。『飛躍』というキーワードをもとに話をしていきたい。

 

ASAYAN(負け組から勝ち組への飛躍)

シャ乱Q女性ロックボーカリストオーディション最終試験で落選した福田明日香中澤裕子飯田圭織石黒彩安倍なつみの5名で結成されたのがモーニング娘。である。彼女たちは落選した者たち。つまり、最初は負け組だったのだ。しかし、インデーズデビューングル「愛の種」を「5日間で5万枚手売り達成したらメジャーデビュー」という今から考えれば相当過酷な試練を与えられ見事にクリア。1stシングル「モーニングコーヒー」でメジャーデビュー。その後、「サマーナイトタウン」で40万枚以上を売り上げ、「抱いてHOLD ON ME!」で初めてオリコンチャート1位をとり、負け組から勝ち組へと這い上がったのだ。

モーニング娘。「抱いてHOLD ON ME!」

モーニング娘。が勝ち組へと這い上がった要因は何だったのか。彼女たちの努力はもちろんであるが、それ以上にASAYANが彼女たちの内部の様子を映し出したことが大きかったのではないだろうか。ASAYANとは「夢のオーディションバラエティー」銘打ったテレビ東京系の番組であり、CHEMISTRY鈴木亜美などのアーティストを輩出した事でも話題になった。この番組でモーニング娘。は育てられたと言っても過言ではない。

この番組での彼女たちの取り上げられ方はそれまでのアイドル番組とは明らかに違っていた。それまでのアイドル番組では基本的にアイドルの表面を映してきたのだが、この番組では番組内でモーニング娘。に関する重大発表を行ったり、オーディションの様子や合格の瞬間、そしてその後の彼女たちが普通の少女からアイドルへと変わっていくのかといった、いわばリアリティーショー的に裏の場面もきちんと映してきたのだ。それにより視聴者の関心を引き付け、モーニング娘。は注目され勝ち組へと這い上がらせたのではないだろうか。

モーニング娘。「ふるさと」

さて、さて、福田明日香が「Memory 青春の光」で卒業した以降、「真夏の光線」で20万枚前半、鈴木亜美との対決で話題になった「ふるさと」では当時、メンバーの中でも人気であった安部なつみをセンターに置き、対抗したのだがオリコン最高順位5位、売上枚数も17万程度に終わってしまった。この当時、モーニング娘。のレコーディングディレクターであった橋本慎は「次がだめならモーニング娘。は解散も視野に入れなければと考えていた。プロデューサーのつんく♂は相当追いつめられており、ギリギリまでどのような曲にするか悩みに悩んでいた」と言う事を語っている。さて、そのような状態のつんく♂に追い風が吹く。それが、後藤真希が加入である。

 

ゴマキLOVEマシーン(黄金期への飛躍)

当時つんく♂曰く「10年に1人の逸材」「才能が飛び抜けていた」と言われ、多くのオーディション参加者の中たった1人だけ合格した彼女。合格した当初、小学生であったため様々なマスメディアで取り上げられ、モーニング娘。全体がぐっと注目され始める。そして、この状況でつんく♂は一つの賭けに出る。それは、それまでの「アイドルとしてモーニング娘。が生える曲」ではなく「誰でも踊れる、誰でも歌える王道アイドルポップス」という方向へシフトチェンジしたのだ。そこで出来た楽曲こそ、90年代を代表するアイドルディスコソング「LOVEマシーン」である。

モーニング娘。LOVEマシーン

それまでのモーニング娘。の曲は少しメロウな感じの曲が多く、歌の譜割りを細かくしカッコいいアイドルソングを、モーニング娘。がアイドルとして一番輝ける楽曲曲をつんくは作ってきた。ところがこの「LOVEマシーン」は別である。まずサウンドがそれまでのメロウな楽曲に比べると、とても明るくダンサブルなのである。これは編曲にダンスマンを迎え入れた事がとても大きい。ダンスマンと言えば替え歌の人みたいに思われがちがだが、それだけでなく日本でファンクやソウルミュージックを徹底的にやっているミュージシャンの一人でもある。そのため、この曲でもBananaramaの「Venus」やD Trainの「You're the One for Me」といった80年代ディスコクラシックを取り込み、誰もが明るくてカッコいい、そして思わず踊りたくなるようなサウンドが誕生した。

Bananarama「Venus」

D Train「You're the One for Me」

そして、このサウンドに譜割りを細かくして歌うのではなく、1音1語とゆっくり歌い、さらにはサビの部分で《日本の未来は (Wow×4) 世界がうらやむ (Yeah×4)》と間投詞(感情を反射的に表した語や擬声語)を使用、気がつけば誰もが口ずさめる歌詞を作り出した。また、ここに誰もが踊れるコミカルな踊りや、「いきますよ、せーの イェーイ!!」という観客にレスポンスを求める声を入れ、全世代の人間がカラオケ等でも歌え、誰もがこの曲の楽しさを共有できるような作りとなっている。

この曲でモーニング娘。を夢見た女の子たちやモーニング娘。のファンだけではなく、不景気で先行きが見えない中で働くすべての人が好景気だったあの頃の日本をモーニング娘。に見たのかもしれない。この曲はオリコンで3週連続1位、総売上枚数164万枚とモーニング娘。史上最大のヒットを記録。一躍、モーニング娘。は国民的アイドルになった。

 

黄金期から低迷へ

LOVEマシーン」の後、派生ユニットであるプッチモニがシングル「ちょこっとLOVE」でデビューし、112万枚を売り上げる大ヒットを記録。年末には初めて紅白歌合戦に出場。紅組のトップバッターとして「LOVEマシーン」を披露する。そして、2000年に入ってからも「恋のダンスサイト」では123万枚の売り上げ、その後「ハッピーサマーウェディング」「恋愛レボリューション21」も100万枚に迫るヒットを記録。コンサートを行えばアリーナツアーや野外コンサートなどを行い超満員の観客を沸かせ、テレビではレギュラー番組が始まり、さらには東映系にて主演映画『モー娘。走る!ピンチランナー』が公開された。モーニング娘。好きなら一度は聞いた事があるであろう「黄金期」とはまさにこの時期の事である。

モーニング娘。「恋のダンスサイト」

しかし、2002年にハロマゲドン(AKBで言うところの組閣)が行われた。その当時対抗するアイドルがいなかった事もあり全体的に大きな影響はなかったのだが、ハロプロのファンは困惑。そして、モーニング娘。は人気メンバーが卒業・脱退していき、CDの売り上げも徐々に低下。2005年以降はアリーナツアーが無くなり、CD売上も5万枚以下へ。テレビ等で彼女たちを取り上げる事も少なくなり黄金期の光はどんどんと失われていった。そして、モーニング娘。が誕生してから10年目にあたる2007年に事件が起きる。中国人留学生であるジュンジュン・リンリンの加入である。

からして思えば海外市場に打って出るための作戦だったとも思えるが、当初はこの状況が飲みこめずモーニング娘。のファンたちは混乱。そして、その状況に追い打ちをかけるかのごとくリーダーであった藤本美貴が脱退。さらにAKBやパフュームと言った対抗勢力が頭角を現し、国民的アイドルの立場は対抗勢力へと入れ替わるようになってしまった。これで終わるのか、いやここからモーニング娘。はこの状況を総力戦で乗り越え、新たなる物語を作り始めた。それが後に言われる「プラチナ期」である。

 

1から作り直す(プラチナ期と言う名の飛躍)

藤本美貴が脱退し、2007年6月1日から高橋愛がリーダーに就任する。それから、約3年半メンバー加入が全く行われなかった。この期間を今では「プラチナ期」と言っている。“今では”と枕詞がつくのはこの名称が後付けだからだ。僕はこの頃に何度かコンサートへ行ったりしたのだがこの時期を「プラチナ期」だと言うファンは誰もいなかった。さて、「プラチナ期」という名前だけ見ると、とても輝いていた頃のように見えるのかもしれないが、今思い返せば、輝いてるとはま逆だった時期だったと思う。僕なりにこの時期のモーニング娘。を語るならば「ひたすら耐えて、ひたすら努力して再建を図った時期」だと思う。

モーニング娘。「リゾナントブルー」

この時期に行われ大きな出来事の一つに海外での単独公演と言うのがある。リンリン・ジュンジュンの加入により実現した海外公演は台湾・韓国・上海で行われ、そのどれもが大盛況であった。しかしそれは海外の事だけであって、日本に目を向けるとモーニング娘。の1公演自体での平均観客動員数は以前に比べると相当下がっていた様に思う。何度か地方のホールで彼女たちのライヴを見る事があったのだが、会場全体の半分にも満たないファンが必死でモーニング娘を応援している姿は今でも僕の記憶に残っている。だからこそ彼女たちはアイドルの基本である歌とダンスに磨きをかける事で動員を増やしていったのだ。

よく「この時期のダンスが凄い!一体感が凄い」また「メンバーの歌唱力が凄かった」など様々語られるのだが、それはこの時期の努力の賜物である。以前、高橋愛はインタビューで「今のモーニング娘。はダメなんだよ」と言われるのが悔しかったと語っている。CDのセールス的には過去には追いつけない、さらに地方会場でコンサートを行えば、客席の半数くらいしか埋まっていない。黄金期の栄光を知っているメンバーにとっては、全員が私たちの代でモーニング娘は終わってしまうかもしれない。と思うような日々の連続だったのかもしれない。そんな危機感からダンスや歌に打ち込んでいき、結果というのが最終的にプラチナ期のクオリティを確立したのだと考える。

そして、彼女たちの熱量に答えるがごとくファンたちも追っかけていき応援し、さらにプラチナ期クオリティのパフォーマンスは次第に新たなるファンを獲得していった。この頃の彼女たちに魅了された人物の一人にタワーレコード社長の嶺脇育夫がいる。大のアイドル好きとしても知られる嶺脇は2009年の久住小春卒業コンサートにて、彼女たちのパフォーマンスを初めて見て「今のメンバーって過去最強なんじゃないの?なんで自分は気づかなかっただろうって/気がつけばとんでもないクオリティのダンスボーカルユニットがいた」と語っている。

2007年から国民的アイドルは自分の身の丈を知り、1からパフォーマンスを見直しレッスンやコンサートを何度も重ね、強度の強い土台作りをしていき、どこのアイドルにも負けない最強のモーニング娘。がここに誕生したのだ。

 

モーニング娘。'14へ(過去からの脱却)

2010年12月15日、横浜アリーナで行われたコンサートを最後にジュンジュン・リンリン・亀井絵里が卒業し2011年には譜久村聖生田衣梨奈鞘師里保鈴木香音の4人が、9期メンバーとして、秋には高橋愛の卒業と同時に、飯窪春菜石田亜佑美佐藤優樹工藤遥の4人が、10期メンバーとしてモーニング娘。に加入する。ここからモーニング娘。は大きな変化を見せ始める。モーニング娘。の変化、その一つは楽曲EDM化である。ここで新垣里沙光井愛佳のラスト参加シングルとなった「恋愛ハンター」をまずは聴いてほしい。

モーニング娘。恋愛ハンター

そう、このサウンドだけでみればSkrillexを彷彿させるようなダブステップなのである。さらに、50作目にあたる「One・Two・Three」では声にフィルターをかけて、それこそPerfumeのごとく無機質な感じを出して可愛さではなく前面に格好良さを打ち出した曲作りをしている。(ちなみに現在のコンサートでは過去の曲もEDMバージョンにアップデートされている。)そして、これと同時進行でダンスも変化している。恋愛ハンター以降、振り付けで見せていくのではなくフォーメーションにて魅せるダンスにシフトチェンジしている。

モーニング娘。One・Two・Three

しかし、なぜここまでモーニング娘。は変化したのか。プラチナ期はモーニング娘。を究極のダンスボーカルユニットに変えた。しかし、それは同時にモーニング娘。の枠内でができる事は全てやってしまったのだ。だから、これからさらにモーニング娘。を進化させていくならば枠内で超えることは不可能だし、新加入のメンバーが大半を占める状況ではプラチナ期よりも劣化したパフォーマンスを見せる危険性すらある。ならば、今までやらなかった事へシフトチェンジするのが今後、彼女たちが生きていく上で最も妥当な選択肢だと考えたのではないだろうか。

彼女たちは今年名称を変更した。つんく♂曰く「この先も10年20年30年とグループを存続させて行く為にも『○○○○と言う曲名のシングルっていつ頃の歌だっけ!?』や『○○さんって、いつ時代のモーニング娘。だった?』という理由で変更したが、本当はそんな理由ではなく、過去との決別、そして新しく生まれ変わった意味でも名前を変えたのかもしれない。「モーニング娘。14」と。


そして今(道重さゆみ卒業)

さて、モーニング娘。が現体制になって1番の功労者は誰であろうか。それは、つい先日卒業したリーダー道重さゆみだったのではないだろうか。12年間と言う長きにわたりモーニング娘。に在籍した彼女は現メンバーの中で唯一、先ほど話した黄金期、プラチナ期という栄枯盛衰を肌で感じていた人間なのだ。だからこそ、彼女は後輩達にプラチナ期の様なガラガラの会場でライブする思いはさせたく無かったし、黄金期のようにまた大きな会場で超満員の観客を沸かせたあの頃のようなライブを見せてあげたい、その気持ちは大変強かったのだと思う。

最後の「私は、この景色を見せてあげたかった」のスピーチは、自分達が大きな会場でも出来ること、そして、これからはあなた達の力でここまで来てください。そんなことを言っていた気がする。さあ、彼女たちにとってこれからが勝負である。「さゆロス」という言葉が生まれ、横浜アリーナ後の握手会は関散としていたという話も聞くが、これだけ何度もあったピンチを乗り越えたモーニング娘。である。今回もピンチをチャンスに変えて、さらに飛躍してくれるであろう。その時には道重さゆみが見せたあの景色。いや、それ以上の景色が彼女たちの前にも広がっているはずである。

 

 

ゴリさん(@toyoki123

ダラダラ人間の生活