関東インディーガイド#5 イツエ『今夜絶対』

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初めて聴いたのは数年前、1stミニアルバム『いくつもの絵』を試聴機で聴いた時だ。

いくつもの絵

いくつもの絵

 

ボーカルを務める瑞葵の伸びやかで力強いボーカル、ミドルテンポを主体としたタイトなオルタナティブ・ロック、静と動を行き来するサウンドと耳に残るメロディ。00年代の邦楽ロックバンドの生き字引のような、物悲しきメランコリックさを売りにしつつ、ボーカルの歌声が力強く聴き手を引っ張っていくバンド、それが初聴の印象、シンプルかつツボを押さえた彼らのこの一作は、どこか僕の脳裏にこびりついていたのだろう。

はっきりとそう言える理由は、TVアニメ「アルドノア・ゼロ」のEDを見た時だ。「どこかで聞き覚えのある歌声だな」、そう思いつつ公式サイトを覗けば、イツエのボーカル瑞葵が、新進気鋭の劇伴作曲家である澤野弘之の元でmizukiとして陽の目をみたのを見つけたのだ。

A/Z|aLIEz

A/Z|aLIEz

 

今作の1曲目「エピソード」はその名の通り、今作全楽曲の歌詞やメロディを引用し、逆再生したかのような音で始まりを連ねていく、そしてつぶやく「今夜絶対」という言葉、本当にそのまま過ぎるストレートなメッセージが潔い。

『今夜絶対』で耳を引くのは「ネモフィラ」「螺旋」「名前の無い花束」だ。オクターブ奏法で奏でられるギターサウンドとベースラインによるユニゾン、そこからキッチリと合わせ合うことなく進むアンサンブルでありながら、瑞葵の力強い歌声によって不思議な一体感を灯しながら聴くものの心を照らすような「ネモフィラ」。9mm Parabellum Bulletもかくやというハードなプレイぶりが今作では非常に良いアクセントになった「螺旋」。最終曲「名前のない花束」は、ミドルテンポでタイトなサウンドのなかで瑞葵の歌声が伸びやかに愛を象る、素晴らしい一曲だ。

君に逢う。君に伝える。隠しきれないこのすべてを。またいつか、じゃなくて 今夜絶対。以上 イツエ*1

貴方に出会えて 苦しいほどうれしくて 私の人生の 重みは増えてった(告白)

されど街は変わる 始まりと終わりを いつまでも 繰り返して 二人出会って いつか鳥になる なんて誰が決めたろうと(ネモフィラ

センシティブな心の内すらも晒けだすような重々しき決意は、先述したような00年代邦楽ロックの血筋を受け継いだもののように見える。だが彼らがひとつひとつの曲すべてに聴く者に何かしらの爪あとを残さんとする力強き意思も同時に感じられる。鳴らされるサウンドが、何より瑞葵の歌声が、太く、しなやかに、力強くなった快作だ。

 

 

草野(@grassrainbow

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