OK?NO!!『Rhapsody』
いきなりだが、僕はCymbalsというバンドが大好きだ。それはというと、リアルタイムでCymbalsを体験できていないことをどこかコンプレックスに感じるぐらいだ。しかし、そんな僕のCymbalsコンプレックスも、ほんの少し晴れた気がする。だって、2015年にはOK?NO!!がいる。
OK?NO!!は、まごうことなきCymbalsフォロワ―だ。それは、本人たちが「渋谷系に目覚めたきっかは完全にCymbals」と公言してる。そのことをもってくるまでもなく、彼らの1stを聴けば明らかだ。特に、本作にも再録されている「Beat Your Cymbal!!!」を聴けば一目瞭然である。だってこんなタイルの上、いきなりあの歌い方で「Everyday Everynight」なんて歌ってるんですよ。「午前8時の脱走計画」ですよ。1stアルバムの一番最初のフレーズからこれなんだから凄い。
2nd収録の「Meat Spa」という曲では《チャーリーに教わったスパゲッティの味はどう?》という、Cymbals結成時のバンド名候補「スパゲッティ・チャーリー」を意識したフレーズも織り込むほど。筋金入りのフォロワ―っぷりである。
そして彼らはCymbalsの持っていた、ポップスの鳴り響く最高に楽しい時間と、それがあっという間に過ぎ去ってしまった後の切ない余韻もしっかりと捉えている。Cymbalsが"Entertainment"として扱ってきたポップスの刹那性を、OK?NO!!は"Party"として扱っているようだ。
僕は、リアルタイムでこのサウンドが聴けるだけでもうれしいのだけど、ついにCymbalsの明確なフォロワ―が出てきたのがうれしい。90年代中盤の渋谷系ど真ん中世代は今のポップスの参照点になることが多い。しかし、「ポスト渋谷系」や「渋谷系の残党」といわれるこの世代は、やはり少ない気がする。そんな宙に浮いた世代の1組であるCymbalsを、OK?NO!!はこんなフレーズで、他の渋谷系ど真ん中世代のバンドと同列に扱っている。
カメラのなかで恋して
色の無い夢を見た
コーヒーカップでランデヴー
聴き飽きたメロディ口ずさむんでしょ?
(Beat Your Cymbal!!!)
Flipper's Guitar、ORIGINAL LOVE、yes, mama ok?、そしてCymbalsである。
Cymbalsをこれらのバンドと並べ、その中でもCymbalsを自らの中心に置いていることが、Cymbalsファンの僕は嬉しいのである。
その一方で、本作『Rhapsody』は、Cymbalsの呪縛から解放されたアルバムでもあると思う。1stは、徹底的にCymbalsリスペクトな作品だった。オシャレで楽しいサウンドだけでなく、「Pasta Bob」のメタな視点や、「The World is Mine」の<この世界は私のものです>と言いのけてしまう傲慢さは、まさにCymbalsのそれだった。「かわいくっていじわるなバンド。ただしパンク」というCymbalsのコンセプトの忠実な再現がそこにあった。
今回のアルバムでは、Cymbalsの影響はありながら、彼らだけの色を獲得した気がする。本作でのOK?NO!!の音楽は、いじわるさよりも、優しさや温かさを内包しているように感じる。気分が上がらないときもそっと隣に寄り添ってくれるような音楽である。特に僕は表題曲「Rhapsody」がアルバム内で一番好きだったのだけど、この自然体でさりげなく美しいメロディは、Cymbalsにはあまりなかったものだと思う。
渋谷系をリバイバルしながら、着実に自分たちの色を獲得していったOK?NO!!。Cymbalsは、後期にはハウスやエレクトロも取り入れてきたけれど、今後OK?NO!!はどうなっていくのでしょう。楽しみです。
最後に、これはOK?NO!!には直接関係ないのだが、このアルバムの発売日という奇跡的なタイミングで、Cymbalsの元リーダーである沖井礼二が新バンドの結成を発表した。
なんかもう、ほんのちょっとだけ涙が出そうなのである。2015年の1月21日は僕にとって歴史的な日になってしまった。