Belle and Sebastianの『Girls In Peacetime Want To Dance』について話してみた
関西と関東に住むアラサーなおっさん2人がskype上で語り合う対談企画。今回は先日のHostess Club Weekenderでも素晴らしいライヴを繰り広げ、今年のフジロックにも出演をするBelle and Sebastian(ベル・アンド・セバスチャン)の新作『Girls In Peacetime Want To Dance』について2人で語り合いました。本作の魅力だけでなく、過去作についてやバンドを結成する前の話など、ベルセバの事を知らない人でも楽しめる内容になっていると思います。
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ゴリ 今日はベルセバの『Girls In Peacetime Want To Dance』ということで。
草野 『幸せな少女は踊ろうとする』超いいタイトル!
「Nobody's Empire」について
草野 いろいろなPVを見てるけど、久しぶりにこのPVは「好きだなー」と思える作品です。
ゴリ このPV、確かに好き。
草野 8mmフィルム調で、今ではもう見れないシーンを切り貼りしていて、でもどこかシニカルなんですよね。しょっぱなから銃をもった女の子が踊ったり。あと後半の歌詞が好きなんだよね。
腕が鈍って姿も消した僕たちは 誰のものでもない王国の淵にいる 本と希望に頼って生きているなら 銃火の的にされてしまうのかな
草野 「Nobody's Empire」が「誰のものでもない王国」という訳で正しいのかは微妙だけど、すごい好きなんだな、このライン。あとリリック全体も結構韻を踏もうとしてる。
ゴリ これ本人たちもインタビューで語っているんだけど、初めてリーダーのスチュアートマードック自身を投影して歌詞を書いたって。
草野 マードックは、20代初めのころに慢性疲労症候群にかかって、『音楽を聴くか、白昼夢を見るか、それしかすることがなかった』っていう人で。まるでセカオワのFukaseみたいだ。
ゴリ ちょうど、同じことを言おうと思ってた(笑)
草野 ふふ(笑)
ベルセバの過去作について
草野 これまでベルセバは8作出してきてたわけだけど、ゴリさんは以前のベルセバ、聴いてきてました?
ゴリ そこなんだけど、実は1stのエロいジャケ写の奴以外、あんまり聴いてなくて今回対談するから、あわてて過去作品を全部聴いたんですよ。
草野 こうやって、音楽産業は回るんだな。
ゴリ (笑)過去作聴いて感じたのは、ギターポップ色が強いかなって思った。
草野 エロいジャケットって『Tigermilk』?
ゴリ そうそう。
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草野 1996年リリース。オアシスやブラーなどのブリットポップが大流行し、マニックスのリッチーが失踪したくらいの頃ですな。
ゴリ リッチー・ジェームスね。腕にナイフで「4 REAL」と書いたあのバンドね。
草野 ボクはマニックスの来日公演に3回は足を運ぶ程度には愛してるバンド。
ゴリ 今年サマソニに来ますね。
草野 3rdじゃなくて2ndアルバムをだな……。じゃなくて、ベルセバ!
ゴリ そうだった(笑)
草野 オレは大学の時にハマって、そのときに一気に全部揃えた感じです。
過去作品ならこの2作!『Dear Catastrophe Waitress』&『The Life Pursuit』
草野 ちなみに過去作を聴いた感じ、好みはどれになる?
ゴリ 一番好きなのは『Dear Catastrophe Waitress』かな。
草野 「Step Into My Office, Baby」は卑怯。
ゴリ 好き好き。
草野 「Step Into My Office, Baby」は、超簡単に言うと「再就職したけどオレこんな働き方でいいのかな?」っていう歌なんだよね
ゴリ はい。
草野 電話が来て、待ち合わせ場所のカフェに行ったら再就職決定、今度朝9時に来てと言われてルンルンとしてるんだーって歌。ただ、それだけじゃなくて、「でもこんなツライご時世はってサッチャーのせいなんだよね」っていう風にも歌っていて、実は皮肉を吐いてる。
ゴリ 風刺が利いてる。
草野 サッチャーの時に、スミスみたいなバンドが出てきてブラックユーモアの効いた歌詞を歌ってることを考えると、グラスゴー出身のベルセバにもその影響はあるんだなーと。
ゴリ あの、モノトーンのジャケ写ってスミスの影響だとも言われているけどね。
草野 世代的にも結構ジャストに引っかかるところがあるからね。
ゴリ まあ、グラスゴーでギターポップってどうしてもアズテック・カメラ、オレンジジュースって思うけどね。
草野 加えるとコクトー・ツインズとジザメリもスコットランド。そして忘れちゃいけないのはプライマル・スクリーム。
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ゴリ あとパステルズやティーンエイジ・ファンクラブもいますね。グラスゴーには有名バンドが本当にたくさんいるよね。
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草野 話を戻すと『Dear Catastrophe Waitress』はインディーズ最大手のラフトレードから発売、それまでの陰鬱さからはちょっと離れて、色彩豊かなポップ感が一気に出てきて、その後もこの路線は継続してる感じだよね。
ゴリ そうだね。ちなみにこの作品ってマーキュリー音楽賞にもノミネートされているんだよね。そういう意味では転機になった作品と言えるかもしれない。
草野 ボクが過去作品で好きなのは、その次作となった『The Life Pursuit』なんだよね
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ゴリ これ、LAで録音したんだよね。
草野 そうそう、初めての海外録音。この「White Colour Boy」のPVも最高で、飲んだくれて身ぐるみ全部剥がされるダメ男がPVなんだけど、歌われてるのは「ホワイトカラーのキャリアマンについて」なんだわなー、めっちゃくちゃブラックユーモアっていう。
ゴリ サウンドが西海岸の空気を吸いこんで爽やかなのに(笑)
ベルセバに近いバンドやグループって?
草野 音楽的にもすごくポップなんだよね。実はベルセバに初めて会ったのはこの『Life Pursuit』で。ゴリさんはギターポップと言ったけど、オレは反対にギターレスのインディポップとして彼らを知ったんだ。
ゴリ ふむ。
草野 個人的には、バッキバキにギターが主張しまくるわけじゃないから、ギターポップっていうのとはまた違う、それこそインディポップっていう印象。
ゴリ ギターポップであったり、時にギターレスであり、インディポップであり。前作の『愛の手紙』では女優のキャリーマリガンやノラ・ジョーンズと組んだり。そう考えると、割と作品ごとに実験しているのかなと思ったり。
草野 下手なことは言いたくないけど、本当にセンスが良いんだよね。楽曲が求めるサウンドに対して臨機応変に対応して、凄くオシャレなイメージ。
ゴリ うんうん。
草野 さっきグラスゴー周辺の先輩バンドをあげたけども、ベルセバってそのどれともつかないじゃない?「ベルセバに近いバンドとかグループってなんだろう?」と思って、個人的に思い浮かんだのはThe Style CouncilとHaircut 100、The Cardigans。あと彼らと同時期にデビューしたBen Folds Five。
ゴリ たしかに、その感じはわかる。
ゴリ いまThe Style Councilと言われて、個人的には合点がいった。
草野 あくまでロックリスナーの耳から考えて、ベルセバって「ゆるふわ」だったんだけど、どんどんピチっとしたポップ感を備えてきていて、それが最新作『Girls in Peacetime Want to Dance』で明らかになったと思う。
ダンスポップに振り切った本作
ゴリ さっき、過去作を聴いててベルセバってギターポップのイメージが強かったと言ったけど、本作がここまでダンスポップに仕上げてきたのには驚きでした。
草野 はいはい。
ゴリ 最初に聴いた時は、それこそディスコパンクだとさえ思いました。
草野 え、そんな?どのあたりでそれを感じたか興味ある。
ゴリ 「The Party Line」とか「Enter Syliva Plath」のようなチープだけど踊れる感じってなんとなく特にラプチャーとかLCDサウンドシステムを思い出しました。
草野 うんうん。なるほどね。
ゴリ あと、ディスコパンクな側面以外にもPerfect Couplesではアフリカ音楽ぽい感じも出しているし、凄くバラエティーではある。本作はプロデューサーがアニマル・コレクティヴやCut Copyの制作にも携わっていたベン・アレンで、その人の影響もあるとは思うんだけどね。
草野 ちょっとだけチープな感じのシンセサウンドだなーって思ってたんだけど、なるほどベン・アレンの影響かな。
ゴリ まあただ、 この作品つくる4年間映画撮ったりしててマードックは苦労しててね。 健康状態もそんなによくなかったり、鬱だったりしてそこからの反動でダンスポップが出来たのかなと個人的には思ったり。
草野 なるほどね。個人的には2013年のDaft Punk新作によるブギー/ディスコ再評価の波を自然と感じ取った彼らからの自然な解答/表出、みたいな感じかなとも。
ゴリ ふむふむ。
ダンスナンバー?グッドナンバー!
草野 でもこうして踊れるような曲がたくさん出てくると「ダンスナンバー!」ってもてはやすのはなんか違和感があって。
ゴリ 違和感ですか。
草野 うん。 マードック本人はすごく音楽マニアで、きっと黒人音楽だって聴いてると思うけど、ファンクやディスコ、もうちょっと手を伸ばしてハウスでいうところの『グッド・ナンバー』ってさ、つまり聴く人を踊らせる『ダンス・ナンバー』になるじゃない?っていう。
ゴリ 確かにね。
草野 なんか踊れる曲!踊れる曲!ってばかりに話が進むと、「あれ?これまですっごく良質なポップソングを作っていたのに、急にダンスナンバーって。何か違うのかな?」とか思ってしまいそうで。でもそこは安心して聴いてほしいなーっていうのが俺の願い。
ゴリ なるほど。確かにそれはあるかも。
草野 中盤はかなり聴き所があると思う。「The Cat with the Cream」はこれまでの彼ららしいゆるふわなインディポップナンバーだし、「Enter Sylvia Plath」はペットショップボーイズみたいなエレポップ。「The Everlasting Muse」はちょっとフレンチポップとかボサノヴァ感あるハネたベースラインとビート感がとても心地よい。「Perfect Couples」はさっきゴリさんが言ったような中南米なトライバルビート感ある。単なる4つうちビートだけじゃなくて、ミュージックフリークらしい多彩なダンスビートが複雑に絡み合ってる。
ゴリ ほんといろんな世界の音楽みたいな感じだよね。
草野 とにかく、ベルセバは音楽的にも歌詞的にも非常におもしろいと言いたい!既にHostess Club Weekenderが終わってしまったけど、年内にフジロックあたりでもう一度見れたらいいね!
ゴリ 大自然の中でビール片手にベルセバの音楽を聴いてみたい!(そして本当にフジロックに決まったね!!このアルバムを聴いてフジロックに行きましょ!)
(2015年2月27日収録)
草野(@grassrainbow)×ゴリ(@toyoki123)