太平洋不知火楽団という青春

2015年3月28日、下北沢屋根裏で大好きな太平洋不知火楽団が解散する。

これまでにフジロックサマーソニックに出演もしたけれど、自分にとっての彼らは小さなライブハウスで歌うのが一番好きだ。東京に出てきてすぐ知った彼らの最後を、とうとう観に行くことになってしまった。活動休止期間もこれで終わり。本当に終わってしまうという気持ちを受け入れることもできず、結局前日まで来てしまった。これまで、何度か解散ライブに立ち会うことはもちろんあったけれど、比べ物にならないくらい最後という感覚はないのに、三人が揃って演奏する景色を見ることができないのかという喪失感に襲われている。ライブの日なんて来なきゃいいのに。

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初めてこの曲を聴いた時、大学生だった私は、新鮮なはずの東京なのにしたいことも分からず、楽しいことが何かも見失っていた。学校と家を往復する生活の中で、ネットの世界に転がっているまだ知らない音楽を探すことが一日の楽しみとさえなっていた。毎日毎日、何が良いのかもわからない音楽を山ほど聴いては忘れ、聴いては忘れていった。タイトルに引かれてクリックしたこの曲には、何度も夢を見せてもらった。眼鏡をかけた少し年上の青年は、学校にいたらダサいと言われかねないシャツを着て、それからの私の生活の中で頭の中で繰り返すことになった、この曲のイントロを鳴らした。

初めてライブを見に行った日のこともよく覚えている。下北沢のライブハウス。平日で出番が早かったこともあり、客はほとんどいなかった。自分含めて数人と対バンの人くらいしかいないフロアに向けて、叩きつけるようなドラム、暴れてるベース、叫びながら掻き鳴らしてるギターの3人。ただ圧倒された。綺麗にまとめられたネットで音源は別の人たちなんじゃないか、こんなにかっこいいバンドがいるのかと。同時に、こんなバンドでも全然フロアが埋まらないなんて、東京は他にどれだけすごいバンドがいるんだとワクワクした。このバンドのライブに行くようになり、オワリカラandymori、SEBASTIAN X、SuiseiNoboAz東京カランコロンTHEラブ人間、ふくろうず、これ以外にも本当に多くのバンドを知った。どのバンドも皆、演奏が上手いとか歌が上手いとかじゃなく、心から何かを言いたくて、伝えたくて仕方がなかった。共感したいわけでも、共有したいわけでもない自分にとってとても心地よく、ただただ素敵で魅力的なバンドが溢れてた。楽しかったなあ。

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「たとえば僕が売れたら」「Dancing Hell-can't help fallin'-」のイントロを、音合わせをしているバンドマンが遊んで弾いているの何回聴いたんだろう。何気なく弾いているその光景を見るたび、太平洋不知火楽団は希望であり、いつまでも続くと思っていた。優しく響き、刺さるこのメロディが多くのバンドマンを虜にした。リスナーだけでなく、本当に多くのバンドマンにも愛されてたよ、間違いなく。

 

ボーカルの笹口は、うみのてやソロでも活動している。これから先も歌うことはやめないだろうし、これまでの曲を鳴らすこともあるはず。それでも、太平洋不知火楽団の三人で鳴らす曲に意味があるし、この三人でしか狂気は鳴らない。始まりの場所、下北沢で、僕の、他の誰かにとっての 、もちろん三人にとっての太平洋不知火楽団が終わる。それでもまだ、下北沢のロックは終わらない。

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かめ(@kame16g

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