6/15 NOT WONK @ 札幌 BESSIE HALL

先日発売されたNOT WONKの3rdアルバム『Down the Valley』のレコ発ツアー初日のライブを観た。

アルバムのDVD付きのCD盤には今年3月のライブDVDが収められていて、そこでは新譜発売前なのにアルバム全曲をそのままやるという内容で、おまけに「リリース前なのにほぼ音源をそのまま再現できてるのかよ……」という驚きがあったのだが(とはいえアルバム大半の楽曲は去年のライブでやっていたが)、今回のライブは「発売直後の初日なのにここまで仕上がっているのかよ……」と思うほどの凄まじい気迫に満ちたものだった。それこそ作品の発売から10年20年経過したキャリアを積み重ねたバンドがアルバム再現ライブをするくらいの堂々として、なおかつ刺激が満ちた内容だったと思う。ちなみに今回のツアーでワンマンは札幌だけのせいかカメラも入っていたので映像化されるかも。

セットリストはツアー初日なのでネタバレになる可能性もあるので控えるが、アルバム『Down the Valley』を聴いて「観たい!」と思っていた内容をそのままやってくれた。これ以上は言えないし対バン形式のツアーでどこまでやれるかはわからないが、あのアルバムを聴いて少しでも気になった人は絶対に観ておいたほうが良い。

NOT WONKはパンクを出自としているのだが、今作に関してはパンクらしいパンクとは言えない。「Of Reality」を発売した2017年頃からソウル色が強くなったことが指摘されていたが、今回はさらに推し進んでRadioheadの『The Bends』のようなオルタナティブロックの要素が強くなった。とはいえそう思っていたら突如パンクが顔を覗かせるので、パンクを軸としながら様々な音楽を旅するような音楽になっているのだろう。実際、昨年11月の段階で彼らは本当にやりたい放題だった。

ただその混沌がアルバムとして形になり、僕らお客がそれに馴染むことで、その尖った実験性が共有しやすくなったのだろう。事実、お客の反応が以前より明確に良かった。「最高だけどなんじゃこりゃ笑」みたいな去年のライブでの驚きが、いつのまにか「こんなにも新しい刺激を生み出してくれて圧倒的感謝!」みたいな感動になっていて、お客の熱もどんどん上がっていった。だけどしみじみする部分はしみじみとする振り幅の大きいライブだったと思う。今作において最も実験的な「Shattered」があそこまで歓迎されたことがその証左だ。

個人的に一番泣いてしまったのはアルバムの最後を飾る「Love Me Not Only in Weekends」が演奏された時だった。去年の12月の段階で聴けてはいたのだが、どう演奏しているのかがよくわからなかった。おそらくオケも使わずに3人で演奏しているのだが、どうも自分にはこの曲はRadioheadの「Motion Picture Soundtrack」に対する返事に思えたのだ。あの時、もしくはその7年後の『In Rainbows』というアルバムで、Radioheadはロックを一度終わらせてしまった。もちろん他にもロックバンドはたくさんいるし刺激的な音楽を作り続けてきたが、あの時のRadioheadに対してきちんとした返事ができているロックはずっと不在だったと思う。それは2016年に『A Moon Shaped Pool』という直球のアルバムを作り出したRadiohead自身にもできていないと個人的には感じていた。

だけどNOT WONKはそれに応えた。とはいえ、おそらくそれは僕が勝手にそう思っているだけで彼らにその意図はない。そのような大仰な目的に彼らは興味が無いだろう。実際、彼らの音楽は彼らの半径数メートルの周囲に届くことを目的として作られている。ライブでのMCでも度々「自分の後ろにいる人のことを知ることができれば、わからないものに対する恐怖がなくなると思う」といった趣旨のことが話されている。彼らは日々の周囲の人に対する想いを形にすることで、それを聴く我々の気持ちが変わり、そしてそれはあの頃のトム・ヨークが象徴していた虚無主義に対する明確な返事となった、とあくまで僕は感じた。

敢えて大げさな物言いをするけど、ロック(ここは敢えてロックと書くけど、別にパンクでも何でもいいです)に希望を持つことができた夜だった。

あと最後のアンコールでそれまで踏みとどまっていた理性が一緒にぶち壊れたみんな、ありがとう。本当に楽しかったね。ぶち壊れたのもうれしかったけど、それまで踏みとどまっていたのも素敵だった。

 

 

ぴっち(@pitti2210