「東京」の話 番外編 水没した東京の話

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さて、前回、東京の話の中で「東京」の曲やアルバムを紹介をしたのですが、今回はそれに入れようかどうしようか考えた末、文章が長すぎたので結局お蔵入りにした曲を紹介したいと思います。

その曲はceroの「Contemporary Tokyo Cruise」です。

cero「Contemporary Tokyo Cruise」

ceroはジャズやファンク、カリプソといった様々な音楽を融合しつつ、描く曲はとてもファンタジーでありながらその内容を読み解くと、今の生活や事象にリンクをしています。では、今回紹介する「Contemporary Tokyo Cruise」はどうなのか。タイトルを観る限り「東京を船で巡るのかな」と思いきや、この歌詞の中には東京の街の記述は一切ありません。そして唯一「東京」というワードが出てくるのですが、それが《あるはずない東京の摩天楼》となっています。東京をクルーズしているのに「あるはずない」とはこれいかに。

実はこれは同じアルバムの「大洪水時代」という曲の中にヒントがあります。この曲の中で《東京に大雨が降り水没した》と説明しており、この曲は「その水没した東京を船でクルーズする」という内容になっています。水没する東京というキーワードだけでも東日本大震災のメタファー的な感じもしますが、歌詞の中で登場する幽霊がこんなセリフを私たちに言ってきます。

行かないで光よ 私たちはここにいます 巻き戻しして

この言葉が大雨で水没した東京で亡くなった人たちの声であるならば、この歌詞は「水没する前の時まで再生させてほしい。もう一度、あの時に戻してくれ。」と、ものすごく辛い内容であります。そして曲が徐々に高まってくる中、実はここにも薄くではありますが子供たちの声を入れ込んだり波の音が聞こえたりして、生活を海が呑みこんでいく様子がこの短い間奏部分だけでも表現されています。そして、頂点の部分で「巻き戻して」と言ったら実際、今度は本当に逆再生が始まり、本当に巻き戻しが行われる。現実世界において巻き戻すことはできないけど、曲の中だけでは巻き戻しさせてあげた。あの時へ戻してあげたいという気持ちがここからは伝わってきます。

この曲は東日本大震災で亡くなった方への鎮魂歌であり、かなえられない希望をceroが音楽に返して私たちへ伝えてくれているそんな気がします。東京と言う視点から震災をとらえ、とても重い内容となってもおかしくない曲をファンタジーでありながらとてもポップに我々の耳へ届けてくれる、新たなる東京を語る上でのスタンダードナンバーであると私は思います。

 

 

ゴリさん(@toyoki123

ダラダラ人間の生活