ネットの音楽オタクが選んだ2022年のベストアルバム 50→1

お待たせしました。2022年のベストアルバム、最後の50枚です。このランキングはTwitterハッシュタグ#2022年ベストアルバム」、もしくはブログのコメント欄に挙げていただいた中で、集計のルールに適した540のデータを用いて作りました。

2022年の音楽は大充実の年だったと思います。私自身10枚を選ぶのが大変で、泣く泣く外した作品もありました。現実におけるコロナ移行の動きがそうさせたのかもしれないし、たまたまだったのかもしれません。今後聴き続けるであろう作品に多数出会いました。

しかしそれでもこの音楽オタクたちが選んだ150枚の中には聴いたことのない作品が多々あり、作り手と聴き手両方の途方もなさを実感します。僕がそうであったように、このランキングが誰かの次の一枚を見つけるきっかけになれば最高です。このように10年目の「ネットの音楽オタクが選んだベストアルバム」を迎えられてうれしいです。

有志によるレビュー、そしてサブスクへのリンク、プレイリストも付いてます。楽しんでいただけたら。できる限り続けるので今後もよろしくお願いします。(ぴっち)

 

このランキングについて
  • ネットの音楽オタクが選んだベストアルバムは音楽だいすきクラブ、及びそのメンバー等の特定の誰かが選んで作ったものではありません。
  • Twitterハッシュタグ、募集記事のコメント欄に寄せられたものを集計しています。
  • 540人分のデータを集計しました。
  • 募集期間は2022年12月1日から31日の間です。
  • 同点の場合、乱数を発生させて順位づけしています。
  • そのため順位に深い意味はありません。気にしすぎないでください。
  • 150位以内はすべて4人以上に挙げられたものです。
  • レビューは有志によるものです。500字以内、ディス無しでやっています。
  • レビューは随時追加しています。興味がある方は@pitti2210にリプかDMください

 

50. tofubeats『REFLECTION』

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49. Awich『Queendom』

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48. ASIAN KUNG-FU GENERATION『プラネットフォークス』

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47. Laura day romance『roman candles|憧憬蝋燭』

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とてもとても心を掴まれるサウンドで、油断すると感情が乱れます。ネオアコオルタナ、エモ、インディーロック、インディーポップあたりが守備範囲な人には是非聴いてほしいですが、90〜2000年代あたりのJ-POP、歌謡曲を愛聴していた人にも伝わりやすそうです。温もりも感じつつ、ちょいダウナーでメランコリックみのあるボーカル、それにピッタリ寄り添う風通しのいいバンドサウンドがお互いを引っ張ってドラマチックにアルバムをナビゲート。「happyend」まで見届けたときの満足感は、この企画記事などに名を連ねるほど愛されている現実が保証します。広く届き渡るべし。

ラニワにて、わど。(@wadledy

 

46. Jockstrap『I Love You Jennifer B』

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45. リーガルリリー『Cとし生けるもの』

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44. Nilüfer Yanya『PAINLESS』

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43. Louis Cole『Quality Over Opinion』

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42. 佐野元春 & THE COYOTE BAND『今、何処 (WHERE ARE YOU NOW)』

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紅白でも恐ろしいほどの現役感を放っていた佐野元春。それもそのはずで、2022年はアルバムを2枚リリースしています。世界に対する解像度の高い佐野さんですが、パンデミックに誘発されて作った曲は「この道」「合言葉」くらいでしょうか。いずれも4月発表の最初のアルバムに収録されています。

この『今、何処』は7月発表で、ここにはむしろ、パンデミックを経てなお衰退する日本、これへの不信や諦観が通底しています。しかしその視座が批判ばかりになるのではなく、その中で暮らす人々にスポットを当てるのがいかにも彼らしいと思います。またアートワークや冒頭と最後のインストなど、古典的なコンセプトアルバムとしても仕上がっており、先の見えない時代において強固な力を放っています。すごく感覚的な言い方になりますが名盤の風格を燻らせています。

特に素晴らしいのは先行シングルにもなった「銀の月」ですかね。この「銀の月」が何のメタファーなのか想像が膨らみますし、この曲、1回目のサビでは《少し君は泣いた》なんですが、2回目は《君は少し笑った》なんですね。なぜ”君は”と”少し”を入れ替えたのか、ビート詩人らしいこだわりでしょうか。

安本(@yasumoto_akira

 

41. Spoon『Lucifer On The Sofa』

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40. caroline『caroline』

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39. Weyes Blood『And in the Darkness, Hearts Aglow』

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38. 山下達郎『SOFTLY』

 

37. 水曜日のカンパネラ『ネオン』

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36. DOMi & JD BECK『NOT TiGHT』

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35. Rina Sawayama『Hold The Girl』

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メアリー・シェリーの小説「フランケンシュタイン」において、ヴィクター・フランケンシュタインが造り出した怪物には怪物である以前の過去が無い。それは不幸にも、怪物が怪物であることを理由に忌み嫌われ自己嫌悪や他者への加害に陥る原因へと繋がってしまう。

私にはフィクションのこの怪物が、自分のすぐ近くにいるように思えてならなかった。私の中には過去の自分を否定する自分がいて、その過去の自分を無いものにして今を生きる自分がいる。縫い目の無い身体の内側で、私の過去は今もバラバラの欠片で転がっている。その欠片を眺める時、私は嫌悪感を抱き断絶を望んでしまう。

そんなバラバラの欠片に対し、この作品は肯定でも否定でもない、ただ抱きしめる事を説いてくる。過去を抱きしめる事は恐ろしく勇気が要る事だ。だけど自らの過去は自分という集合体を形作る欠片の一つ一つで、「二人セゾン」の最後で伸びた欅の木のようにそのどれが欠けてもいけないのだ。怪物には人間であることを忘れられなかった記憶を宿す身体の欠片と共に、抱きしめられる過去があったのなら少しは救われていたのだろうか。自らのバラバラになった欠片を見ながら怪物に想いを馳せている。

ハタショー(@hatasyo5

 

ポリティカルでパーソナルなメッセージをポップミュージックとして伝えていく彼女のスタイルはあまりにも先鋭的でいて。それはとても必要だと思うの。だから私は、彼女の作品が好き。

Y(@y_3588

 

34. OMSB『ALONE』

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日本のカルチャーとしてヒップホップはだいぶ浸透した。最近では、ジャパニーズ・ヒップホップも細分化されていて、一概にヒップホップ好きとひとくくりにできなくなった。そんな中で、このアルバムは比較的幅広く聴かれてる印象がある。このアルバム、そして、OMSBが幅広い層にウケていると言えるだろう。私自身、ASIAN KUNG-FU GENERATION「プラネットフォークス」を聴き、その中の「星の夜、ひかりの街(feat. Rachel & OMSB)」でOMSBを知った。その時のラップが格好良く、アルバムまで聴いた。

このアルバムは全体を通して、自分との向き合いが強く伝わってくる。特に「お前はどうだ」と聞いてくることはないが、自然とOMSBの独白を聴いてると「自分はどうなんだろう」と考えざるを得ない気持ちに陥る。「Standalone | Stallone」では、過去の自分との向き合いがテーマとなっている。OMSB自身の過去と今と、それを背負ってステージに立つ姿勢がすべてこの楽曲に詰まっている。OMSBの人生観が垣間見えるアルバムだと思う。

mokko(@mokko

 

33. beabadoobee『Beatopia』

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32. syrup16g『Les Mise Blue』

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再結成前してからのバンドは「本物でもやっぱり昔とは違うな」って感覚を持っているファンも多いだろう。若手の頃の名作と比べてしまい、歳を重ねて落ち着いた新曲を耳にして、受け入れられない人の声がたくさん聴こえる。過去を超えるのももちろん、客観的に「何も変わらない良さ」をキープすることの難しさ。私自身は新譜に思い入れを持ちやすいタイプで、特にSyrup16gは再結成前くらいからの後追いで聴き始めたからか割と並列に愛せてはいると思うけど、たしかに別物ではあるのかなと思う。

そして新譜がリリースされ、まずツィッターを覗いてみると「あの頃の〜」のような表現で迎え入れる声の数々。復活以降、わざわざそういう言い回しで讃えられた新譜はそこまで観測した記憶が無かった。当然、人それぞれ重ねていた印象はズレがあると思うけど、実際聴いてみても確かに『Mouth to Mouse』あたりの空気と馴染むようだ。名曲感満載の屈指のキラーチューン「うつして」など入門編にもピッタリで、わかりやすくバンドの魅力をこの一枚に封じ込めている。多くの人がそう納得するとは言い難いが、キャリア総決算のひとつの境地に達した名盤だと思いました。

ラニワにて、わど。(@wadledy

 

31. SZA『SOS』

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30. ROTH BART BARON『HOWL』

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29. betcover!!『卵』

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28. Alex G『God Save the Animals』

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27. 七尾旅人『Long Voyage』

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シンガーソングライターの音楽として表現するとはなんたることかと、優しく語りかけてくれる合計17曲の長旅の記録。それはかつての2枚組作品、『ヘヴンリィ・パンク:アダージョ』と同じようにストイックに、しかし真逆なくらい全く異なった体温と方向性で産み落とされた。涙も怒りも辛さも悔しさも込められているけど、全編通して温かく包み込むように発せられている。

近年の日本のソウルミュージックを象徴するような、骨の髄まで響かせる詩と音。それでいて、寧ろ旅の序章のような、まだまだこれから大航海が待ち受けているワクワクすら感じる。他に誰もしなかったような尖った表現も沢山してきた七尾旅人の、シンプルな歌の強さで満たされた2022年産のイチオシのギフト音楽作品。

ラニワにて、わど。(@wadledy

 

26. ゆうらん船『MY REVOLUTION

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低体温で、どんどん解けていく。童謡のような語り口とサイケデリックと電子音で、ミニマルに構築された映像、のような音楽。適切な調理法で、これでもかとおもしろくしている。ひと口サイズに切り分けられた食べやすさで、実に喉越しが良い。かねてより歌声が引っ張っていくようなバンドではあったが、それに沿うサウンドも引き立て役にとどまらず、今作では完全に主役級の存在感がある。極端な言い方だと、イントロのハジメからオワリまで終始サビまみれの美味しさ。牧歌的に飄々と奏でるのびやかな部分もあれば、時にはポストパンクのような尖った焦燥、緊迫感を醸し出す。同じ曲にしても、違うタイミングで耳にすれば表情をガラッと変えてしまうこともある。

シンプルかつ錯綜。まだ死んではいない、諦めたくはない不特定多数に燻っている念を、拾い集めた空間に意識を飛ばされた気分だ。こんなにも居心地が良いのは、自分にもその属性があるからなのだろうか。変革はどこかと問うては、きっかけを掴みあぐねる日々の中だ。色んなパーソナルスペースに馴染む音色。誰かの心象風景をVR機器で歩き回り、主観でも客観でも浸り込んでいられる箱庭である。

ラニワにて、わど。(@wadledy

 

25. Little Simz『NO THANK YOU』

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24. ROSALÍA『MOTOMAMI』

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23. 藤井風『LOVE ALL SERVE ALL』

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22. サニーデイ・サービス『DOKI DOKI』

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一周回ってどころか、何周もぐるぐる回り続けて永遠にフラッシュな歌謡ロックの2022年産決定打。流石のバラエティ豊かなアプローチで、様々な角度からツボを突いてくる。どれだけ歳を重ねても青春真っ只中。素敵でしかない。朗らかに切なく、刹那的で未来永劫をダッシュするバンドの今が丸ごと体現されてて生命力に満ち溢れてますね。全力でガッハッハ!!!!!万歳!!!

〜完〜

ラニワにて、わど。(@wadledy)

 

21. 明日の叙景『アイランド』

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ゴリゴリにブラックメタル、激情ハードコアな土台を用いて、初見さんいらっしゃい!ってな具合に限りなく耳馴染みの良さを加えている。この融合っぷりが新時代を感じ、近年活発だったハイパーポップや独創的に進化したシューゲイザーを鳴らすバンドたち、ローファイヒップホップビートなどの空気が入り乱れ渦巻く異様さは正しく「キメラ」である。このようなジャンルのバンドのアルバムで、ここまでわかりやすくアイコンになり得る作品がリリースされたことがどのくらいあっただろうか。

メンバーのKei Torikiという方はRAY、SAKA-SAMA、NECRONOMIDOLなどのアイドルグループによく作曲提供もしている一面もあり、いろんな組み合わせの妙を心得ていることだろう。とうにジャンルの壁は薄く、定義は広く交わっていく。誰かのロックは死んだかもしれないが、此の姿かたちがロックバンドの明日の叙景として紡がれるのだ。

ラニワにて、わど。(@wadledy

 

20. Harry Styles『Harry's House』

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19. The Smile『A Light for Attracting Attention』

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18. 優河『言葉のない夜に』

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17. 春ねむり『春火燎原』

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私は学生時代、暗記ばかりの歴史が好きではなかった。教科書に書いてある文字列だけを必死に覚え、試験を受け、簡単に忘れる。そんなことに一体何の意味があったのだろうと、今でも思う。そんな私が2022年、不思議と鎌倉時代に想いを馳せていた。鎌倉時代に想いを馳せたことで、本当の歴史は点ではなく点と点で結ばれた線の内側にこそあって、その内側にある喜びや悲しみや苦しみが様々な濃淡で表出する瞬間の重なりこそが歴史であるのだと、その事にようやく気がつくことができた。

時が経ち、今は鎌倉時代と比べたら飛躍的に記録が残る時代になった。だけどどんなに記録が残るようになったとしても、あなたや私が産まれたこと、今日という日、人生、その全てが未来からすればただインターネット上を漂う記号的な文字列でしかなくなるだろう。でも、それでいいのかもしれない。私/あなたの歴史をあなた/私が見ていてくれるのならば。

いつかみんな息絶える。歴史上の偉人達も、あなたも、私も。だけど今、この瞬間、私は生きている。この事実だけはただ変わらずにそこにある。どんなに苦しく絶望的な日常でも、生きることに希望があると信じて、生きている。生きて、生きて、生きて、生きて、生きている。

ハタショー(@hatasyo5

 

16. Beyoncé『RENAISSANCE』

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15. Black Country, New Road『Ants From Up There』

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Black Country, New Roadの音楽を一言で表そうとするとおそらくはチェンバー・ポップ、つまりクラシックの要素をロック・ミュージックに落とし込んだものになるのだが、実際前例とはかな違う。Arcade Fire、Dirty Projectorsくるり、そんなに似てない。楽曲のテンポもゆったりに、聴く人に一つ一つの楽器の音を把握させつ、それが重なり合うこと自体の意義に重きを置いているからだろう。わかりにくいかもしれないが、音の重なり合いやスピードの強弱を道具のように使って聴く人を快楽に連れ去るタイプの音楽ではなく、音の一つ一つを着実に提示し、最終的に重ね合わせることの醍醐味そのものを大事にしているのだ。

言ってしまえば「ボレロ」のようなものなのだが、ラスト曲の「Basketball Shoes」の要素をアルバム全体に散りばめたように、彼らの一つ一つの要素の積み重ねが、見たことのない成果を生み出している。その行為自体は、リードボーカル兼ギタリストのアイザック・ウッドが脱退しても変わらないだろうし、実際昨年のフジロックでの全曲新曲のライブもすばらしかった。

ぴっち(@pitti2210

 

14. 中村佳穂『NIA』

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あなたは赤井俊之をご存知だろうか?彼は吉本興業所属のピン芸人で、2021年のR-1グランプリで初の賞レース決勝に進出した経歴を持つ。彼の芸風はとても奇抜で、一度観たら忘れられない強烈さがある。赤井の父親の教育方針はかなりでは済まないくらい厳しく、彼は幼い頃から勉強漬けの毎日だった。そんな彼がその時代父親の目を掻い潜って一番の娯楽として楽しんでいたのがテレビのバラエティ番組で、それが赤井の"好き"に対する原体験だったのかもしれない。好きを見つけ出すことをいろんな場面で続けていくことで、自分の軸や芯が見つかっていく。そうして自分の信じた楽しいや好きを追求した結果、赤井には翼が生えた。

2022年のフジロックに舞い降りた赤井と同じように翼の生えた女性は、「好きを浴びるとなんと、空も飛べちゃうのさ」と言った。メリー・ポピンズが飛んだように、町田君が飛んだように、好きという気持ちはどこまでだって行ける。彼が背中に付けた派手な翼は、飾りではない。彼はあの翼でどこまでだって飛べるのだ。空も飛べるはずだし、飛べちゃうのさ。

ハタショー(@hatasyo5

 

13. 柴田聡子『ぼちぼち銀河』

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前作『がんばれ!メロディー』で得た肉体性をさらに深化させた6thアルバム。まずは歌の上手さに驚きました。圧倒的にはみ出した言語感覚でリズムの隙間をくぐったり飛び越えたり。音楽、ひいては現代詩としても非常に優れた作品だと思います。

まず「ようこそ」での韻の踏み方や音響、これは今までには見られないような極めて意識的なものでしたし、リードシングル「雑感」での吐露にも近い感情のスケッチはこれまで意識の流れで詩情を膨らませてきた彼女にとって新境地でしょう。個人的な感想を申し上げると、この「雑感」は動詞の終止形の脚韻で進行していきますが、最終連冒頭の《星粒》、この体言止めが素晴らしい。途端に視点が宇宙へ向けられたかと思うと、続く《給料から年金が天引かれて心底腹が立つ》でまた現実に振り戻される。このアングルの切り替えはやはり彼女にしかできないと思います。

全曲に言及するには文字数が足りませんが、特にタイトル曲「ぼちぼち銀河」は言語に絶しました。まず《星真似》という存在しない単語、気高い精神性、さらには徹底された押韻やリズムの跳躍、井上陽水小沢健二宇多田ヒカルといった偉大な先人たちが垣間見えます。

安本(@yasumoto_akira

 

12. 結束バンド『結束バンド』

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2019年5月11日、私は初めて行ったEDCで孤独感を覚えていた。ここはお前のいるべき場所じゃ無い、フェスの空気感にそう言われている気がした。そんな時に、音楽だいすきクラブの「平成ベストトラック」レビュー募集のツイートを見かけた。レビューに参加すればこんな孤独感も少しは解消される、その時の私はそんな馬鹿みたいに飛躍した想像を膨らませた。そんな想像の後、私は『参加したい』意思を伝えるか否かで30分くらい悩み、最後には指を震わせながら勇気を出して送信ボタンを押した。

私が出した勇気は、他人の人生を変えるようなものではなかった。ましてや、自分の人生すらもろくに変えはしなかった。だけど、あの小さな勇気があったからこそ自分の中から出てきた言葉があって、出会えた最高の人達がいる。何も変わっていなかったように思えたけれど、ほんの少しだけ私の人生は変わっていて、あの小さな勇気が間違っていなかったことだけは確かな事実としてここにある。あの時できれば私は私の世界を塗り替えたかったけど、塗り替えることはできなかった。だけど、小さな絵くらいは描けたんじゃないかな。

そんな小さな勇気を、ちょっと思い出しただけ。

ハタショー(@hatasyo5

 

部屋で音楽を聴いている時、ライブやフェスにいる時、稀に「自分のための音楽」「自分を肯定してくれる」ような、救われるような感覚がある。でもちょっと居心地が悪かったり恥ずかしくなったりもする。音楽を聴くことに理由なんていろいろあるだろうし、逆になくてもいい。理屈なんて今どきいらない。それでも、自意識を揺さぶられる作品が稀にある。

この作品の根幹にあるのは「あなたと私」。結束バンドのアルバムを聴いていると、私に歌ってくれているのではないかと勘違いしてしまう。私を無理矢理にでも掴んで離さない、一度入ったら出ることは出来ないほどに、この作品は私をぶん殴って来る。半径5mmどころか直ぐ隣にいるような距離感で。自慢の武器など何もない(と思っている)けど、人と繋がりたい。繋がっていたい。そんな自分でも、いや、自分だからこそ結束バンドの曲はグサリと刺さる感覚がある。

この作品が何かしらの形で、ライブで披露される未来があるとする。私がそこにいるとする。きっと私は少し居心地が悪く、恥ずかしい気持ちを持ちつつも音に耳を傾ける。ここに自分しかいないような感覚に陥りながらも、自意識の片隅から足を踏み出す……かもしれない。

のすぺん(@nosupen

 

「君さ、サザン好きってほんと?」2004年4月、窓際でカーテンをかぶり昼ごはんを食べていた俺に話しかけてきた彼。野球部に入ろうぜと誘ってきた彼。2006年10月、窓際でカーテンをかぶり「笑っていいとも!」を観ながら昼ごはんを食べていた俺に「バンドやろうよ」と誘ってきた彼。俺にナンシーとニックネームをつけた彼。「俺はギターやるから、キーボードやって。アレンジも全曲お願い!」と言った彼。もちろん全部断れなかった俺。知り合いが誰もいない高校で入学式に遅刻し完全に置いていかれたぼっちの俺、を引っ張ってくれたのはクラスの違う学校一のひょうきん者な彼だった。

バンドも解散して社会人になってすぐ、放課後ティータイムの「Cagayake!GIRLS」をギターで掻き鳴らす動画をよく観ていた。俺にとってのギターヒーローだ。「ぼっち・ざ・ろっく!」を観て、あの頃を重ねてしまった。またあの動画を観たくなった。俺は結束バンドの4人にあの頃の全てを重ねて見ていたのかもしれない。ひとりぼっちを感じたら、このアルバムを聴けば良い。あの頃をまた思い出して、俺はひとりぼっちじゃなくなるのだから。

9jack(@Nan4y

 

これを聴いてアニメも見ていたオタクのぶち撒ける文章を読むのは楽しいな。みんなももっと書こう!

ラニワにて、わど。(@wadledy

 

11. Wet Leg『Wet Leg』

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田舎町のワイト島からほぼ勢いだけで世界に進出した、リアン・ティーズデールとヘスター・チャンバース。楽器のプレイや音楽理論とかどうでも良くなる。リスナーに寄り添う訳ではなく、ユーモアを出し、自分たちが楽しく歌えればハッピーっと、そう伝わる楽曲ばかり。ハリー・スタイルズもそれに共鳴したのか、ツアーではオープニングアクトとして選抜、と話題が絶えない。ただのインディーロックだが、周りと違うのは包み隠さず、皮肉とユーモアたっぷりでいること。周りに合わせていない感じが、逆に脱力して聴ける。それがこの作品において最大の礼儀とも思える。ピリついた時代だからこそ輝いた作品。

あの店の水を飲むと腹がくだる(@showhaya

 

10. Kendrick Lamar『Mr. Morale & The Big Steppers』

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9. black midi『Hellfire』

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8. 坂本慎太郎『物語のように』

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7. The Weeknd『Dawn FM』

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懐かしいんだけど退廃的な、ラジオ仕立ての終末トラベルミュージック。亜蘭知子の曲をサンプリングした「Out of Time」を筆頭に、レトロフューチャーというやら、かつての近未来のビジョンが脳を侵食する。しかしこんなにもソウルフルなのに、人間味や感情が伝わりにくい。少し怖くなるくらいに。無作為に抽出された過去のアーカイブを切り貼りしたような、機械的な思い出のようで、Oneohtrix Point Neverが全面的に関わっているのが納得の世界観でした。

ラニワにて、わど。(@wadledy

 

ここ数年のThe Weekndはおもしろい。21年2月のスーパーボウルハーフタイムショーはThe Weekndだった。前作『After Hours』の世界を表現したまさにショーとなった。昨年のコーチェラではカニエ・ウェストのキャンセルを受けて、Swedish House Mafiaとともに急遽ヘッドライナーを務めた。当時、日本ではまだコロナから立ち直っていなかったが、アメリカでは大勢の観客が自由に踊っていた。

そこからさらに進化して22年初頭にリリースされたアルバムがこの『Dawn FM』だ。今作はどこか全体に不安定さ、不気味さが漂う。架空のFMラジオ番組がコンセプトとなっているが、サウンドも相まって、ラジオのチューニングが壊れて80年代のラジオが聞こえてくるような不安を煽る印象を持つ。それでいて「Sacrifice」は、マイケル・ジャクソンを彷彿とさせるサウンドになっていたり、全体的にディスコチューン、80年代ダンスチューンに仕上がっている。ダークなのに踊れる、不安定なのに心地よいという不思議さが魅力ではないだろうか。早く日本でもThe Weekndと踊れる日が来ることを期待する。

mokko(@mokko

 

6. Arctic Monkeys『The Car』

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Arctic Monkeysの7枚目のアルバム。前作で見せた大きな路線変更のその先にあるものと言える。僕の正直な思いを綴るなら、前作はとても興味深かった。が、数回聴いてそれで満足してしまった。ロックバンドがラウンジ・ミュージックをやる。その意義はわかる。バンドなりの危機感や飽きもあったかもしれない。その上での一手としては良い作品だった。でもそろそろ『AM』みたいなロックをやってくれない?フェスでもみんな「R U Mine?」を待ってるじゃん。そんな気持ちだった。

でも今作はそんな僕の正直な気持ちを満足させるものだった。矛盾しているのはわかっている。前作の路線は続いてるのにロックへの渇望を充たせてくれたのか?そうなのだ!確かに『AM』とは違う。このアルバムの楽曲はフェスで映えるとは思わない。しかしどうしようもなくロックなのだ。静寂を破るドラム。増幅されたギターの音色が空気を振動させる。そしてボーカルの危険な色気。そこに物語性を帯びたストリングスが加わる。原始的なロックではないかもしれない。しかし享楽的なポップミュージックでは満たされない原初のロックの匂いが充満している。僕は満足した。あなたは?

ぴっち(@pitti2210

 

5. Alvvays『Blue Rev』

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地平線の果てまで届きそうな、青い太陽の光。ドリームポップに祝福を!どんな想いも、こんな音に乗せて飛ばしたくなるね。

ラニワにて、わど。(@wadledy

 

4. 羊文学『our hope』

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3. Big Thief『Dragon New Warm Mountain I Believe in You』

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2. The 1975『Being Funny In A Foreign Language』

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Fun. の ジャック・アントノフと共同プロデュースしたこともありポップだが、The 1975 特有の哀愁も漂わす楽曲ばかり。ネットのディストピアを歌った前々作や内相的でありながらクラブミュージックやアンビエントミュージックにアプローチをした前作の反動からか外向的でハッピーで「Love」が詰まった今作。世界は「Love」に溢れているが時に無情、だからこそ美しく愛おしい求めてしまう。だから、僕らはこの作品をいつまでも聴けるのだ。

あの店の水を飲むと腹がくだる(@showhaya

 

1. 宇多田ヒカル『BADモード』

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2022年の1月19日にもう2022年のベストアルバムが出てしまった。宇多田ヒカルの凄さって誰も置き去りにしないところだと思う。物凄く音楽好きな人にも、音楽を普段聴かない人も。一番好きなところはそこ。

そして聴き込めば聴き込むほど、サウンドの質感、テクスチャへの傾倒に心が震える。メロディやハーモニー、リズムといった音楽を構成する大きな要素以上に、その手触りこそがこのアルバムの醍醐味。何回も何回もつい聴いてしまうの。音の奥行きの深さが心地よくて。

Y(@y_3588

 

マルセイユに行きたいなあ。マルセイユでなくてもいいからどこかに行きたい。コロナ禍が始まってからはあまり遠出ができてない。去年の初夏に一度フェスに行ったけどそれからは近場だけ。いろいろあったのでもうコロナとは関係なく遠出が難しくて、それはそれで仕方がないと納得してるけど、ふとどこか遠くへ消えてしまいたくなる。

この作品は別にコロナ禍を描いていない。そんなことはどこにも書いていない。でもこのアルバムのリリース時に聴いた人はきっと少しは考える。日々の生活の中で生まれる喜怒哀楽がコロナ禍で制限されていたことを。怖さと心底感じた面倒くささを。10年、20年経ってもきっと忘れない。

でも一方で未来においてコロナ禍を知らずに育った人は、そんなことをまったく考えもしないんじゃないかな。「マルセイユに行きたかったのかな?」とかのんきに思いを巡らせて欲しい。それでいいよね。

ぴっち(@pitti2210

 

ネットの音楽オタクが選んだ2022年のベストアルバム 50→1

1. 宇多田ヒカル『BADモード』
2. The 1975『Being Funny In A Foreign Language』
3. Big Thief『Dragon New Warm Mountain I Believe in You』
4. 羊文学『our hope』
5. Alvvays『Blue Rev』
6. Arctic Monkeys『The Car』
7. The Weeknd『Dawn FM』
8. 坂本慎太郎『物語のように』
9. black midi『Hellfire』
10. Kendrick Lamar『Mr. Morale & The Big Steppers』
11. Wet Leg『Wet Leg』
12. 結束バンド『結束バンド』
13. 柴田聡子『ぼちぼち銀河』
14. 中村佳穂『NIA』
15. Black Country, New Road『Ants From Up There』
16. Beyoncé『RENAISSANCE』
17. 春ねむり『春火燎原』
18. 優河『言葉のない夜に』
19. The Smile『A Light for Attracting Attention』
20. Harry Styles『Harry's House』
21. 明日の叙景『アイランド』
22. サニーデイ・サービス『DOKI DOKI』
23. 藤井風『LOVE ALL SERVE ALL』
24. ROSALÍA『MOTOMAMI』
25. Little Simz『NO THANK YOU』
26. ゆうらん船『MY REVOLUTION
27. 七尾旅人『Long Voyage』
28. Alex G『God Save the Animal』
29. betcover!!『卵』
30. ROTH BART BARON『HOWL』
31. SZA『SOS』
32. syrup16g『Les Mise Blue』
33. beabadoobee『Beatopia』
34. OMSB『ALONE』
35. Rina Sawayama『Hold The Girl』
36. DOMi & JD BECK『NOT TiGHT』
37. 水曜日のカンパネラ『ネオン』
38. 山下達郎『SOFTLY』
39. Weyes Blood『And in the Darkness, Hearts Aglow』
40. caroline『caroline』
41. Spoon『Lucifer On The Sofa』
42. 佐野元春 & THE COYOTE BAND『今、何処 (WHERE ARE YOU NOW)』
43. Louis Cole『Quality Over Opinion』
44. Nilüfer Yanya『PAINLESS』
45. リーガルリリー『Cとし生けるもの』
46. Jockstrap『I Love You Jennifer B』
47. Laura day romance『roman candles|憧憬蝋燭』
48. ASIAN KUNG-FU GENERATION『プラネットフォークス』
49. Awich『Queendom』
50. tofubeats『REFLECTION』

プレイリスト