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Foals『What Went Down』メロディが揺らす波とポストロックからダンスへ

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The Edmund Fitzgerald、エドモンド・フィッツジェラルドと聞いて何を思い浮かべるだろう。村上春樹が訳したことで有名な『グレートギャッツビー』を書したフィッツジェラルドはF・スコット・フィッツジェラルドだが、ここで指すエドモンドフィッツジェラルドは、世界的にも有名な海難事故を引き起こしてしまった貨物船のことだ。

カナダとアメリカを跨ぐ五大湖において貨物輸送船として活躍していたこの船は、とある嵐の夜に出港し行方が分からなくなった、数か月の捜査活動の後、その船体は湖底で発見されたという。詳細な写真を見たことはないが、見事なまでにねじきれて真ん中から真っ二つに折れた状態、船員の遺体を乗せたままで今なお五大湖の奥底で安置されているのだという。

不吉かつ不気味なエピソードではあるが、暗夜行路を征き、困難に立ち向かった船の姿を思い浮かべるのはたやすい。この貨物船をバンドの名前に掲げ、『シリアスすぎた、もっと僕たちが踊れるような音を目指したい』といって航行を断念、残されたメンバーによって結成されたバンドがある。イギリスはオックスフォード出身、この記事の主人公Foalsだ。

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Foalsの前身にあたるThe Edmund Fitzgeraldというバンドを聴いてみたあとで先の言葉を反芻してみると、マスロックという音楽に纏わる本質をとらえている上に、ロックンロールという音楽の歴史と発展を少しだけ頭に入れれば、彼らFoalsの音楽は素晴らしく輝きだす。

ロックンロールという音楽は、黒人のジャズミュージックがどんどんと変奏されていった先にあった、いわゆる横ノリのグルーヴ感や縦ノリのグルーヴ感といった問答が顕在化する前時代から始まる。ジャズから顔がわずかに見えるブルースが、時として激情に身を委ねてはノイズを(和声的な意味でも)走らせる中、ジャズはシカゴなどアメリカの都市群でモダナイズへとひた走った。蓄音機の出現、世界大恐慌による音楽への需要心理変化により、ダンスホール向けのスウィングジャズが興った。それはアルバート・アモンズのブギウギへとつながり、リトル・リチャードやチャック・ベリーエルヴィス・プレスリージーン・ヴィンセントら白人のミュージシャンへと連なるロックンロールの正史へと連なっていった。 

資本主義の経済的先鋭化というモダナイズに手を引かれ、当時の黒人女性ボーカルユニットやギターバンドなどのレコードとともに、ロックンロールは貨物船に乗っかってアメリカからイギリスへと移り渡った。1962年から1965年に渡るブリティッシュ・インベーション、ビートルズローリングストーンズらによるサウンドを聴いたときにアメリカ人が『驚いた』のは、リズム・コード進行・サウンドがまさしく綺麗に差し替えられ、音楽の力によってよりモダナイズされた音楽の姿がそこにあったからに他ならない。

ここで重要になるべきなのは、大西洋の向こう側で名声を手に入れようとしていた20歳そこそこであったビートルズローリングストーンズという単語ではなく、彼らの手で為し得た『アイディアと実行力が齎せるマジックのわずかなさじ加減』だ。現況のポピュラーミュージックにおける『ダンス』の始まりと変化の一歩は、おおよそココに集約されているといっても差し支えはないだろう。

その後、70年代中盤から後半におけるパンクミュージックとディスコ~ハウスミュージックの発生と拡大によって、黒人的な音楽要素と白人の音楽要素は明らかな違いとして現れるようになる。それはシンセサイザーとギターの扱いに留まらない、根本となるダンスミュージックを支えるベースとドラムとの交じり合いに大きな変化が見て取れる。

ベースとドラムの音がきっちりと合っているか数テンポずれているか、手数の多さ/少なさと運指による複雑さや音を埋める/抜くの違い、他の楽器と合わさることで広がるアンサンブルの在り方や楽曲構成と志向性による多彩な変化など、端的かつ乱暴に言い連ねれば、パンクミュージックとディスコミュージックにおけるボトムサウンドの違いと言ってしまえる。バンドアンサンブルを緻密に探求していく流れは、産業ロックともいわれたAORからフュージョンなどの音楽や、音楽産業拡大に伴って生まれたセッションミュージシャンの影響力も計り知れないが、その探求さの向こう側に到来したフェーズが、90年代におけるポストロックであった。

 

では、そういったヒストリックな視点を持ちつつ、Foalsと向かい合ってみよう。

ジャズとアンビエントを遠景にしながらロックを拡大するポストロックやマスロックは、過ぎるほどに緻密なバンドアンサンブルを何よりも尊ぶロックミュージックだ。フレーズとまた別のフレーズを考え、そのフレーズのリフレインと差異を奏でながらアンサンブルを重ねていく様、電気信号化された音に電圧を過大増幅させて広がった様々な音に酔いしれていくそこに広がるのは、無限の選択肢だ。

この拡大路線について回る<ポスト>の字義から離れ、彼らが『シリアスすぎた、もっと僕たちがおどれるような音を目指したい』と話したのを三度思い出せば、なるほど彼らの転向は非常に興味深い。そこに、ミュージシャン自身のアイディアと実行力が齎せるマジックのわずかなさじ加減でありながらも、実に意義のある転向と視座が含まれていると思えるのだ。

彼らの志向性と実行力は、ファーストアルバム『Antidotes』から早くも発揮されていた。オープニングを務めた「The French Open」のイントロやヒットナンバーとなった「Cassius」「Olympic Airways」「Balloons」を聴けば、彼らがポストロック…マスロックを志向し緻密なアンサンブルを得意としていたのを理解するのもたやすく、ハウスミュージック譲りの4つ打ちビートとディスコめいたベースフレーズによるぎこちなくも心地よいグルーヴィさに、民族音楽のような多層のコーラスワークが交じり合う様は、ロックンロールがダンス・ミュージックの血を引いた音楽であったことを思い出させるのには十分であろう。

2008年当時、イギリスで吹き荒れていたギターロック・ルネッサンスの喧騒から出てきた最後のバンド、あの喧騒を背負った最後のバンドが彼らであったことを忘れてはいけない。(その後この日本における2010年代ロックのスタイルとしてすくすくと育ったことにも連なっていく)

そういった流れを甘噛みしながら、Foalsの新作『What Went Down』を聴いてみる。デビュー後の彼らは加速することなく、むしろ減速していくことになったわけだが、おそらく今作はその中でもBPMが平均的に最も遅い一作ではないだろうか。ロックの先鋭化の先で彼らは黒人の魂をぎこちなくも交霊し、その後の作品に生かしていくことになったが、よりよき「おどり」を求めるには、やはりパンキッシュな性急さだけでは表しきれないということであろう。

その代わり、オアシスやブラーが志向したような大衆が心の底から『イエス!』と言えるメロディライン、そのメロディラインを複線化・多重化することで生まれる音の洪水が、彼らにとってもっとも凶悪な武器として冴えわたることになった。

前作『Holy Fire』では「Inhaler」「My Number」がこの志向性を確実に捉えているわけだが、今作ではそれが「What Went Down」へとつながり、シングルカットなどはされていないが「Night Swimmers」もそれにあたるだろう。多重録音とエコーサウンドによって重圧化されたギターサウンドが、鈍重になりすぎることなく軽やかにドライブしていくのは、Simian Mobile Discoのメンバーであり、The Last Shadow Puppets、Arctic MonkeysMystery JetsKlaxonsなどの作品で敏腕をふるい、今年ではMumford & sonsとFlorence and the Machineの新作でもプロデュースを務めるジェームズ・フォードの働きも大きいであろう。

特に、中盤の「Albatross」「Snake Oil」「Night Swimmers」は秀逸だ。ギターとベースがユニゾンフレーズと分散和音のハーモニーを行き来しながらも響きあい、硬質なドラムビートが打ち鳴らされれば、歌うことも踊ることも許したポップソングとして僕らの心を躍らせてみせるのだ。

イギリスのロックミュージックがメロディを尊ぶのは、ストーンズよりもビートルズ、クラッシュやセックスピストルスよりもクイーン、U2やオアシスにコールドプレイといった多くの人が合唱できるアンセムを多くそろえたバンドが国民的な人気を得やすいという土壌を見ればわかるだろう。イギリス人のメロディと音の波に揺らされることへの執心は、シューゲイザーというジャンルに大きく明らかだ。

思い出してみれば、彼らのアルバムジャケットはセカンドアルバム以降は「海」が関係している。大海の波に揺られるように、彼らの強く厚いギターサウンドに揺らめけば、それは徐々に踊りへと変遷していく。そこに彼らFoalsが見出した答えがある、そしてようやく彼らにも、<国民的>と言われる冠が授けられるのかもしれない。なぜ仮定形なのかと言われれば、今作のどこにもオアシスやビートルズのような「国民的/大衆的」といえようメロディアスさが輝いていないからだが、それはこれからの彼らのソングライティングに、最も期待するところだ。

 

 

草野(@grassrainbow