風俗街の中心で愛を叫ぶ
「あの、これ」
そう言って、雑貨屋で見つけたドラゴンボールを、僕はアヤに手渡した。
「ありがとう」
とある風俗店の一室に、穏やかな空気が流れる。
彼女と初めて会ったのは、去年の春だった。地方出張のついでに訪れた風俗街。フロントに張り出された数枚のポラロイド写真。その中の一枚に、僕の目は奪われた。チビで、色が白くて、巨乳ではないけれど乳首が綺麗な女の子。
「アヤちゃん、お願いします」
数分後に現れたのは、やっぱりチビで、色が白くて、巨乳ではないけれど乳首が綺麗な女の子だった。僕が「綺麗な乳首だね」と言うと、アヤは素直に喜んだ。
正常位と騎乗位で一度ずつ射精した後、僕たちは少ない時間で色々な話をした。音楽のこと。映画のこと。恋愛のこと。将来のこと。他愛のない世間話のひとつひとつにアヤは耳を傾けてくれて、たまに笑ってくれて、僕は嬉しくなると同時に少しだけ悲しくなった。数時間後、この子は他の男に抱かれる。他の男の話に耳を傾けて、そして笑う。僕は単なる客の一人でしかない。そんな当たり前のことが怖かった。
何かしなくちゃ。そう思って、僕はバッグにつけていたドラゴンボールのキーホルダーをアヤに渡した。一星球が付いた、ちっぽけなキーホルダー。迷惑な客だろうなという自覚はあった。でも、それが僕たちを繋ぎとめておいてくれるような気がした。
「また今度、星の数が違うやつを持って来てあげるよ。それでさ、いつか七つ揃ったら、僕の願いを聞いてくれる?」
アヤはニコニコしながら、「ふふ、どうしようかな?お店の外では会わないよ?」とおどけてみせた。
「ホントに七回も来てくれるなんて思わなかった……これで七つ目だね」
とある風俗店の一室。ベッドの上には大小さまざまな六つの黄色い球が転がっている。一番端っこに、ちっぽけなキーホルダー。それを見て僕が「願い、聞いてくれる?」と言うと、アヤは得意の意地悪顔で「聞くだけでいいの?」と笑ってみせた。「それじゃ困るな」と言って僕も頭をかきながら笑った。こんな子がどうしてソープなんかで……そう思いかけて、僕はその先を考えるのを止めた。
「ウチな」
突然、アヤが切り出した。
「ぼうずさんが、初めてのお客さんだったんよ。ちょうど一年前、このキーホルダー貰った日。こういう仕事したことなかったし、すごく不安やったけど、ぼうずさんが優しくしてくれたお陰で何とか頑張っていこうって。そう思えたんよ」
初めて聞くアヤの関西弁。
アヤは続けて「たまに落ち込んだりしたときは、これ見て元気出したりしてな」と言って、ベッドから拾い上げたちっぽけなキーホルダーを揺らして見せた。目には涙を浮かべてる。何が誰かの心の支えになるか分からない。
「ほんまにありがとう」の声を聞くと、もう駄目だった。心の奥底から押し寄せてくる愛おしい感情をコントロールできず、僕はアヤを無理やり押し倒して、一年間ずっと抱き続けてきた思いを叫んだ。
「パンティおくれーーーっ!!」
オプションで2000円だった。
ぼうず(@bowz0721)