クウチュウ戦『Sukoshi Fushigi』
少し不思議どころか、かなり不思議。彼らの言うSFとはフィクションではない。本作は世界と宇宙に潜む不思議な心髄を捉えている。
ある雑誌が彼らの音楽を「どこを向いているのかわからない」と評したが、僕も彼らの音楽はどこを向いているのかわからない。Pink FloydとKing Crimsonに影響を受けたプログレ、井上陽水やさだまさしに影響を受けた歌謡曲、インディーの潮流に乗ったシティポップ、様々な方向に手を伸ばしている。
「どこに向かっているのかわからない」というのは、現在の日本の音楽シーンにおいて、どのジャンルにもムーブメントにも属しないということだ。しかしこのくらいふざけている音楽も良い。ふざけていてもポップミュージックとロックの核心を捉えている。
本作は「光線」で幕を開ける。プログレ的な楽器のフレーズがトリッキーで、その間隙を縫うサビは疾走する気持ちいい。リスナーに向けて鮮やかな光線を飛ばす。リスナーとの距離を光の速さでグッと縮めてくる。
続く「青い星」では、突然ガラリと曲の景色が変わる。宇宙から美しい青い星(地球)を見ているような夢想的なサウンドだ。宇宙飛行士のガガーリンが人類で初めて地球を宇宙から見た時、こんな感情だったのかもしれない。そう感じさせる雰囲気がある。
演奏はすこぶるうまい。キメが多いサウンドをタイトにキメる。ベースのフレーズも気持ちよく、ドラムも的確だ。自らのことを「シャーマン」に例えていたフロントマンのリヨだが、実際本作の感触は感覚的だ。まるで未知の感覚を開発されているかのよう。
井上陽水を彷彿させる「エンドレスサマー」は歌詞が耳にスッと入ってくる。くつろいでいてゆったりとした曲調が心地よく、このまま永遠にこの夏が続けばよいのにと感じさせる名曲だ。
今作はリヨさんだけでなく、キーボードのベントラーカオルもソングライターを務めたのもポイントだろう。ベントラーカオルさんが作詞作曲した「雨模様です」ははっぴいえんどの音楽性をグラマラスにしたかのようだ。インスト曲の「にゅうどうぐも」もカオルさんの作曲だが、ピアノアンビエントに様々な音のエフェクトが重なるのがおもしろい。
「台風」では表情がころころ変わり混沌としている。 サビに行く直前に《台風がやってきました》 のセリフがあるが、ライブの場においてもサビに行く前の掛け声としておもしろいかもしれない。
今後の邦楽ロックシーンの台風の目になりうるクウチュウ戦、要注目のバンドですよ。彼らの今後は、密林のように何が飛び出してくるかわかりません。
よーよー(@yoyo0616)