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ゆらゆら帝国『3×3×3』

レビュー

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一つだけお願いがある。何なら土下座でもするから聞いて欲しい願いだ。もしこの記事をご覧になっている貴方が、ゆらゆら帝国を聴いた事がないなら、必ずこの『3×3×3』から聴いてくれ。頼む。いきなり『空洞です』を聴いてはいけない。1stから順番に聴いて欲しいのだ。『3×3×3』から『ミーのカー』、『㈽』『しびれ』『めまい』『Sweet Spot』…そして最後に『空洞です』を味わって欲しい。

なぜこんなお願いをするのか。答えは明確だ。貴方にゆらゆら帝国の進化の過程を体験して欲しいのだ。サイケとガレージを合わせたサウンドが魅力の初期から、ポップスを取り入れながらも実験する事は止めなかった中期、そしてロックの形骸化を図り、2000年代の日本をこれ以上ないほどに見事に表現した後期。私は彼らのような自分達の独自の音楽を洗練していき、且つ商業的成功も収めたバンドが日本にいた事を、そして彼らが日本語ロックに焦点を置いていた事を誇りに思う。

では、この『3×3×3』は一番期待外れの作品なのかというと、それどころかこのアルバムを超えるロックアルバムの方が少ないんじゃないかと思うほどの素晴らしい作品である。そもそも本作でメジャーデビューしたゆら帝だが、結成してから(メンバーは変わったものの)10年近く経っている。初々しさなど感じない。むしろ貫禄がある。爆音から始まる「わかってほしい」からそれは伝わってくる。そして次の「昆虫ロック」では、坂本慎太郎はこう歌う。

ぼくは綺麗な虫のように 生きたいんださりげなく

ただそこにある物のように 生きたいんだ意味もなく

 

ぼく本当はいろんなこと いつも考えてたのに 

 ゆら帝の歌詞には、人間という生き物の否定、動物化の肯定が見て取れる。人間の知性や理性を嫌い、とことん動物のように踊りまくろうと誘ってくる。それに拍車をかけるのが、和製ジミヘンとも成り得る坂本の妖艶なギターリフだろう。そして演奏に負けず劣らずセクシーなボーカルと重なり、もう既に独自の世界観を構築している。

また、メジャー1stにして「ユラユラウゴク」「3×3×3」「EVIL CAR」と長尺の曲を3曲も収録しているのも、いかにも新人離れした強心臓の奴らだ。そして3曲とも素晴らしいのがまた憎い。特に「EVIL CAR」の静→動→静の三部構成は見事としか言いようがなく、禁忌の場所へ我々を案内するにはこれ以上ない恐ろしさを誇る。とにかくお腹いっぱいどころか、踊り過ぎて苦しくなるアルバムなのだ。

日本語ロック最強バンドの呼び声も高いゆら帝。デビュー作からこんだけクオリティー高かったら、そりゃそう呼ばれるわ。しかもここで既にゆら帝ワールドをある一定の完成度まで作り上げている。この音は誰にも真似できない。

しかしここまで重く、かつ妖艶に響くサウンドを持ちながら、ゆら帝は更に進化していくのだ。「日本語ロックの追及」をコンセプトに掲げていた彼らは、決して満足する事なく、常に先を見据えていた。そして、彼らが選んだ道は、「湿った肉を削ぎ落として」いく事だった。かつてビートルズフィッシュマンズも辿った、音の引き算。しかし彼らが削ぎ落とした肉は、他のロックミュージシャン達が「もったいない」と思うものだった。それでも彼らは脱ぎ捨てた。そして追求した。音が空っぽになるまで。そして彼らは満足して解散する。あまりにもカッコいいロックバンドだった、と言わざるを得ない。

ゆらゆら帝国「EVIL CAR」

 

 

HEROSHI(@HEROSHI1111