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アニソン連載 #8 『May'n 10th Anniversary Special Concert at Budokan "POWERS OF VOICE"』に行ってきた

ライブレポート コラム

1989年生まれ。今年で26歳を迎えたMay'nは彼女が高校1年生だった2005年、「中林芽依」という名前でデビューた。May'nと名乗るようになったのは2008年。同年4月に放映されたテレビアニメ『マクロスF』は彼女を一躍有名にした。作中の歌姫であるシェリル・ノームの「歌パート」に抜擢されたのだ。

ほぼ10年に1度のペースで生み出されていた『マクロス』シリーズの久しぶりの新作、旧来のファンに加えて、萌えアニメ・深夜アニメをきっかけにアニメ作品に親しみを持つようになっていた多くの大学生やティーンエイジャーが、『マクロスF』に魅了された。

アニメキャラの歌パートを、声優ではなく専門のシンガーに任せるのは本シリーズでのお決まりだ。彼女はその歌声をいかんなく発揮し、本編で演じたシェリル・ノームそのままに、アニソンシーンを席巻した。デビューシングルとなった『ダイアモンド クレバス/射手座☆午後九時 Don't be late』は、当時のアニソンとしては異例のオリコンシングル週間ランキング3位を記録。『マクロスFギャラクシーツアーFINAL』と謳われた今作のイベントは武道館で開催されたほどだった。

アニソン歌手としてはあまりにも順風満帆なスタートを切った彼女は、その後多くのアニメ作品に携わり、そのライブ活動もきわめて旺盛だ。1年のうちで半年近い日々をライブ活動に捧げる彼女は、昨年『May’n Road to 10th Anniversary Japan & World Tour 2014-2015 "dots and lines"』を敢行。47都道府県すべてを回るライブツアーを成功させた。

アクティブなライブ活動にもう一花を加えるのが、アジアを中心にした世界ツアーを頻繁に行っていることだ。これまで彼女が回ってきた国々は、インドネシアシンガポール・台湾・韓国・中国・アメリカ・ドイツ・フランス。2011年からほぼ毎年のペースで3~10か所を回るツアーを行ってきた彼女は、こうしてみるとジャパニーズオリジナルのアニメカルチャーを、国内にとどまらずより世界へと広めていく親善大使のようでもある。

だが、デビュー10周年の今年に入り、そのストイックな活動が裏目に出てしまった。数年前からあった両側声帯にあったポリープが悪化、約4か月間を治療に充てることになった。そんな彼女の復活の場となったのが、今回の単独コンサート『May'n 10th Anniversary Special Concert at Budokan "POWERS OF VOICE"』なのだ。セットリストは以下。

 

1. Ready Go!
2. ViViD
3. ユニバーサル・バニー
4. DOLCE
5. ノーザンクロス
6. 射手座☆午後九時Don't be late
7. pink monsoon
8. シンジテミル
9. 今日に恋色
10. Crazy Crazy Crazy*
11. Sympathy*
12. Fallin’in or Not*
13. Run Real Run
14. 誰がために
15. HERO
16. 決意の朝
17. キミシニタモウコトナカレ
18. May'n☆Space 
19. Chase the world
20. ヤマイダレdarlin'
encore
21. Phonic Nation
22. WE ARE
eocore2
23. ダイアモンド クレバス

 

「Ready Go!」は彼女の中でももっともシンプルかつポップに響く一曲であり、忘れがちだが彼女のソロシングルで一番最初に発表された曲だ。この曲が持つアッパーな流れからライブが始まったのは、ここからスタート!という意思を十二分に感じられたし、何よりも会場に来ていた多くのファンが『活動休止前と変わらぬ歌声』に一安心したであろう。

実は、May'nと日本武道館は親しい関係にある。2010年に同じ武道館で行われた単独ライブは、彼女が所属するホリプロの女性歌手としては1980年の山口百恵以来、30年ぶり出来事だった。その後の5年間で武道館の地で単独ライブを行ったのは、この10周年記念ライブを含めて4度にも及ぶ。(これはおそらくの話だが、アニソンシンガーが10周年記念ライブを武道館で行うのはアニソン史上初めての出来事ではないだろうか?)『武道館には魔物が住んでいる』と語ったのは、とあるロックバンドのギターボーカル。彼らもまた長い期間の間に複数回にわたって武道館公演を行ってきてはいるものの、ほぼ毎年のペースで武道館を埋められるミュージシャンやシンガーはあまり多くない。May'nは彼の地の魔物をどのように打ち倒し、勝ち続けることができたのだろうか。それはPOWERS OF VOICEの通り、声の力なのは言うまでもない。

ライブタイトルにするほどに高められたMay'nが持つボーカリストとしての完成度と実力、存分に堪能できたのが序盤から中盤にかけての流れだった。 

「ユニバーサルバニー」の歌詞中には2人のキャラ(ないしは人格)が出てくるわけだが、彼女はその2人のキャラを演じ分けるように歌声を切り替える。CDでははっきりとは聞こえづらいところがあったが、このライブでは、空気を多めに吐き出すような歌い方で甘い歌声とはっきりとした発音でクールな歌声とできっちりと歌い分けているのを感じられた。若干音程が合わない場面が続いたなと思いきや、一瞬だけ舞台袖をみてイヤモニの音量を指示し、少し経過すると歌声がどんどんと楽曲にフィックスしていったのは非常に驚いた。

「ライブに帰ってくることができてうれしい!」「両側声帯ポリープの除去手術後、もう一度歌えるかが不安で仕方なかった」というMCの後に始まった「ノーザンクロス」「射手座午後九時Don't be late」。菅野よう子作曲のこの2曲は、メロディラインに対して歌詞の文字数が非常に多く、メロディの譜割もかなり難しい曲。だが彼女は、はっきりとした発音で歌詞を聞き取りやすく歌いあげていく、デビュー当時でも非常に高いレベルではあったものの、その正確さには驚かされた。

「pink monsoon」は非常にディープかつスローテンポなR&Bサウンドにセクシーな歌声で合わせてアダルティなヒロインを、続く「シンジテミル」ではわざと荒げるような歌声で悲恋のヒロインを、彼女は演じ上げていた。歌い上げるときの表情、ダンス、一つ一つのしぐさまで、その曲のヒロインに自らを投げれる。まさにそれはヴォーカリストとして、声の女優≒ボイス・アクトレスとして素晴らしい演技を見せつけてくれたと大仰に言ってもいいだろう。

それに加えて、「いろんな人に聞きたいと言われてきて、May'nになって初めて歌えました!」という中林芽依時代の3曲。同日発売されたベストアルバムにはリテイクヴァージョンが収録されているのだが、彼女のルーツが「安室奈美恵倖田來未」に連なるアーバンなR&Bであり、ダンサーを連れて歌い踊るのかがよくわかる3曲だった。ダンサースクールに通う子供たちや、EXILEのバックダンサーですよね?というようなヤンキー風な人が観客にいたり、もしも彼女が新たに持ち込める要素をアニソンに持ち込めるのであれば、きっとR&Bテイストなのではないか?などと思えたりもした。

「音楽を嫌いになったことはありません。ただ、本当に音楽を続けていけるかどうか、不安になる夜は何度もありました」

「オーディションに受かって、上京してきて暮らし始めて、私は一人で戦っていこうと決めました。デビューして今までやってきて、一人、また一人と仲間が増えてきて、10年経ってわかったことがあります。私はたった一人で立てているわけじゃない、いろんな人に支えてもらってるからこの舞台まで来れたし、そして10年続けられた。これまで支えてきてくれた多くの人に、この場を借りてありがとうと伝えたいです」

「そんな多くの出会いの中で、ワタシにとって大きな転機になったのは菅野よう子さんです。今日最後の曲は、彼女との出会いで生まれて、これまでで一番わたしが歌ってきた曲です」

そう言って始まったのは「ダイヤモンド・クレバス」。歌い上げる彼女をスクリーンに映しながら、「ダイヤモンド・クレバス」の歌詞がテロップとして流れる。先に話したMCの後に流れていった言葉に、彼女の想いが込められたとき、シェリル・ノームが歌い上げた悲しきラブソングがMay'n個人のメッセージソングへと変わっていったのだ。

貴方に出逢い STAR輝いて アタシが生まれて
愛すればこそ iあればこそ
希望のない 奇跡を待って どうなるの?
涙に滲む 惑星の瞬きは gone…

彼女の歌声やボーカリストとしての姿勢は、一発一発の弾を手で込めるリボルバー型の拳銃のように思える。一つ一つに気持ちを込めて、狙いすまして相手に撃つ、まっすぐ飛んでくる銃弾のよう。その力強さは、響き渡るという言葉では少しだけ不釣り合いに思えるし、のびやかなロングトーンと煙のようにゆらっと揺らめく様は、撃発後に銃身の先から立ち上る硝煙のようだ。それもR&B歌手にありがちなソプラノボイスではない、アルトボイスでのロングトーンは、独特の施条痕を心に残してくれる。

ライブ会場でMay'nの歌声を聞いた人なら、ほぼ間違いなく同じ衝撃を与えてきたこの武器は、『マクロスF』でのレコーディング時に菅野よう子が「ハイトーンを表声で出すように」と提案されたがきっかけになっているという。それまでは低音が武器だった彼女のボーカルスタイルは、まさに『マクロスF』がなくては生まれなかったのだ。

聴く者の記憶に強烈かつ深い印象を残す歌声が、彼女をアニソンシーンのトップランナーとして10年間にわたり君臨させてきた。その影響度は計り知れない部分があるが、「アニメキャラの歌パートやアニメのテーマソングを声優ではなく専門のシンガーに任せる」という側面から切り取れば、会場に訪れたというLiSAや黒崎真音を筆頭にして、のちにデビューしたアニソンシンガーに同じ形式ででデビューするパターンが増えたことが、何よりもの証明だ。

「一か月に一本、ライ部(May'nのライブ活動のこと)をする生活をずーっと続けていたから、3か月も離れると久しぶりすぎて本当に楽しかったよー!今日は、本当に、本当にありがとうございました!次は、20周年に向けて頑張っていきましょう!」

 デビュー20周年を迎えられるような歌手はあまり多くない。少なくともあと数作品でもヒットに恵まれたアニメ主題歌があれば、と邪にも思ってしまうが、彼女の魅力はCDやmp3やwavではほぼ間違いなくとらえきれない。だからこそ、彼女は最後にこう言ったのだ。

 「じゃあみんな、またライ部で会おうね!」

 

 

草野(@grassrainbow