カラスは真っ白『バックトゥザフューチャー』

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カラスは真っ白『バックトゥザフューチャー』に見る大きな変化

前回、カラスは真っ白を紹介させていただきましたが、先日6thアルバム『バックトゥザフューチャー』が発売されたので、今回はこのアルバムについて書いてみようと思います。公式にアップロードされている楽曲が少ないので曲の紹介というよりは、すでに手に入れた方向けのレビューになってしまうかもしれませんが、ぜひ最後まで一読いただければうれしいです。では。

アルバム全体を通して思ったのは、「なんじゃこりゃ」。

今までのカラスは真っ白と違うことが多すぎて、1周目は処理することが多く感想なんてメモする余裕がなかった。多分、同じ思いをしたファンの方も少なくないのではないでしょうか。結果から言えば彼らが傑作と自称するにふさわしいアルバムだと思います。各曲の感想を通してどう傑作だったのか説明していきます。

1. 魔法陣より愛をこめて

まさかの実写MVでビックリされた方も多いのでは。私はとても驚きました。ただ相変わらずMVと楽曲のリンクが上手くできていて、二つ合わせて一つの作品だというコンセプトが今作も強く感じられました。それを考慮すると実写MVも悪くないな、と思います。

曲に関しては、カラスは真っ白「っぽくない」。

当然作詞はヤギヌマさんかと思っていたが、彼女が書くラブソングにしてはストレートで素直すぎて少し不気味な感じがした。「I love you、愛を込めて」なんて歌うのか。カラスは真っ白にしては、この歌詞もMVも愚直に愛を伝え過ぎでは?というのが第一印象。

しかしアルバムを買って初めて今作が文字通り4人の合作だと知り、そのモヤモヤが晴れました。ヤギヌマさんが作詞をしていないという事実はなかなか衝撃的で、これからの楽曲がどうなるか少し不安になった一方、言葉遣いがわかりやすくなるなぁという若干の安心もありました。この曲はわりと好きです。ただこの路線がずっと続いていくとなると、そのうち何か聴き手にも変化が訪れそう。ともあれメロウなカッティングのギターラインやベースの動きなんかの端々に、疾走感こそありませんがカラスは真っ白サウンドが散りばめられていて、上に書いた変化は根底を揺るがすほどではないな、と思い至りました。これからこのような曲が増えるのかはわかりませんが、将来がすごい楽しみになった一曲です。

2. 浮気DISCO

この曲の歌詞もわかりやすいですね。そして今までのファンタジー路線とは正反対で、テーマが浮気だという。俗世とかけ離れているのが彼女たちのフィールドだと思ってたが、これはまあこれでありじゃないかな。「浮気」「官能」など、曲から感じ取れるキーワードが新鮮すぎて何回も聴いてしまいます。

注目すべきはメロディだと思います。80年代のディスコ感を見事に彼ら流にアレンジしていますね。一言で表すなら、「カッコイイダサさ」。当時の昭和ディスコ/ファンク系音楽ってかっこよさを突き詰めた結果とにかくダサくなっていると平成生まれの私は思うんです。それに関して、浮気DISCOでは男性バックコーラスが入っていたり、サビ後のワンテンポ遅れたあとの懐かしく聴こえる大胆なギターソロなど、ちょっとダサいんですよ。でもそのダサさがたまらなくかっこいい曲。

3. Let it die~You shall die~

全英歌詞ということで今作の中では1番くせものだと思う。超個人的な意見として日本人アーティストの全英歌詞はあまり好きではないので受け入れるのに時間がかかりそうではあるけど、新鮮すぎて結構何回も聴いてしまう。外部からこういうの作ってください、って何かタイアップの依頼があったのかなあって思ってしまうくらい新鮮ではないでしょうか。実際とあるゲームに参加された曲です。しかしヤギヌマさんの優しい声とは正反対の歌詞、さらに歌詞とは真逆のメロディ、と工夫が幾重にも凝らされていて、聴きごたえがあります。

4. サヨナラ!フラッシュバック!~hard mode ver. ~

原曲よりさらにコッテコテのアニソンっぽくなりましたね。サウンドに関してはもう本当に好きです。あまりカラスは真っ白で重低音が登場する機会はあまり無くその点で新鮮なのと、ベースのスラップやサビの中毒性のある疾走感など今までの踏襲もしっかりされてて、素晴らしい。ちなみに動画はオールヤギヌマさんです。この曲って『HIMITSU』に収録されていそうですね……というくらい疾走感に溢れていて、しびれます。カラスは真っ白が好きな人のツボを要所要所でしっかり押さえてくるので「わかってるなぁ……」「ズルい……」とか思ったりします。最後ヤギヌマさんの絶叫(?)で曲が終わりますね、あの全身に稲妻がビビッと駆け抜ける感じがたまらんです。

5. fifth blues

これはどうコメントすればいいのだろう。アルバムでの立ち位置的には「サヨナラ!フラッシュバック!」という大曲を終えたあとの小休止みたいな感じなんだろうけど、それ以外の感想が未だ浮かびません。ただ、闇クラブとかのBGMとしてかかってそうとかいう謎の印象がある。ジャンル的にもブルースって少し今までのファンクとは違うし、ぜひこのムードで次回は歌詞が書かれていることを期待しています!

6. カーネーション

アルバムを通しで聴いていた時は、今度はスイングジャズかあなんてぼんやり思ったけど、この人たち多才すぎません?いや本場のジャズと比較するつもりはないんですけど、今までの音楽性を丸無視してここまで切り替えられるのってすごい。方向性を変えたとかではなく、今までのファンク/ポップは彼らの表現できる音楽の一部にすぎなかったのだなぁ、と実感させる一曲だと思います。これから先、彼らはこのように様々なジャンルに手を出していくと思います。アルバムの核心に触れますが、ジャンルの変化はカラスは真っ白にとっては些細なことで、例えばこの曲ならただ無数にある彼らの音楽の引き出しからジャズを引っ張ってきただけ、それだけです。少なくとも私はそう思っているので、この先どんな変化が訪れようと必ず受け入れられると思いますし、昔ながらのカラスは真っ白が決して失われることはないと思います。そんな深いことをちょっぴり考えるきっかけになった曲。

7. Oh my sugar

これは一昔前の歌謡曲になぞっているのかな。ヤギヌマさんの早口パートは除いて、メロディが昭和のアイドルソングのそれ。楽器隊にもバイオリン?っぽいのが聴こえて、少し安っぽい仕上がりになってるのも(褒め言葉です)。「痺れるくらい恋は刺激のフレイバー」なんて歌詞、彼らから聴けるとは思わなかった。そして間奏!どこがで聴き覚えがあるコード進行だなあなんて今でも悶々としている。浮気DISCO同様,、懐かしい感じがする。

8. YASAI FUNK

これイントロからもうやばい、多分この曲流れた瞬間に実家に帰ってきた感じがした人が多くいるのでは。今まで色んなジャンルの音楽に掻き回されて頭も耳も追いつかなかったけど、この曲にたどり着いてから、聴き慣れた安心感が尋常じゃないほど耳に入ってくる。内容的には良い意味でいつものカラスは真っ白です。遊び心満載で聴いていて本当に楽しい曲ですね。ただ新しいことが一つ。「トウモロコシ」パートのヤギヌマさん……どうした。戸惑いは一瞬で、すぐ受け入れられました。可愛いの一言で済ましたくはありませんが、この曲のヤギヌマさん可愛いですね()。ヤギヌマさんは可愛いんですけど、ヤギヌマさん以外のメンバーは男性ですし、本人のスタンス的にも、カラスは真っ白がヤギヌマさんを全面的な武器とした準アイドルバンドになることはなさそうですね。ちなみに「かいじゅうファンク」からの「YASAI FUNK」……主人公はグレてしまったのでしょうか……。

9. みずいろ

またさわやかなロックテイストでアルバムを締めます。YASAI FUNKに続き、聞き慣れたメロディがアルバムの最後に登場するのは、やはり何かしらの意図があるのでしょうか。不思議ワールドではないけれど、この曲や「ニュークリアライザー」、少し違うけれど「スカート・スカート・スリープ」のようなストレートな味の曲が各アルバムにだいたい一つ収録されているので、ファンク/ポップの他に、「さわやかロック」は彼らを形容するジャンルの一つとして数えていいのではないでしょうか。植草さんのアニメMVが見たいなあ、って思いました。

 

さて各曲感じたことを書いていきましたが、アルバムの総評を手短に述べたいと思います。カーネーションでも触れましたが、カラスは真っ白の才能が爆発した作品です。爆発というのは、今までにないジャンルの曲を突然引っ張り出したこと、その冒険がアルバムの大半を占めていること、最後に彼らが今までの音楽から大きくシフトしたにも関わらず「史上最高のアルバム」と言い切っていること。それらを含め爆発しています。全く新しいジャンルの曲をたくさん盛り込んだ上で傑作だなんて、今までの音楽を否定されているような気持ちになりますが、しっかりと「YASAI FUNK」や「みずいろ」を通して過去からの踏襲もしてくれています。だから「バックトゥザフューチャー」なのでしょう!(キマッター


まこ(@bacchusoishi

雨のパレード「You」

雨のパレードの楽曲には「とにかく美しくて透明感がある」、そんなイメージがある。「You」は彼らの最新シングルの表題曲である。

彼らの魅力はまずサウンドにある。ドラムひとつとっても単なるドラムセットではなく、様々な打音、アナログからシンセサイザーに至るまでを使い分け、楽器本来の音と機械的な音を組み合わせることで、優しくも力強い音を作り上げている。

そしてボーカルの声。バンドにおいて顔ともなるその声は独特で、切なく優しく歌い上げたかと思えば曲の盛り上がりに応じて力強くなる。

この楽曲は個人的に思い入れが強い。「あの頃の僕」や「今でもまだ覚えてる」など、後悔を思わせる歌詞。そしてタイトルにもなっている「あなた」の存在。最後のサビの歌詞にもなっているが、

人は誰しも一人では生きていけない

この言葉はよくいろんなところで目にするし、やっぱりクサい言葉だと思う。「わかってるよ!」とつい言ってしまいそうになる。

けれどこの曲にはその独特のクサさがない。人間誰もが頭ではわかっていながらも、相手をないがしろにしてしまったり、うっとうしく感じてしまう。それゆえに傷つけてしまうこともあるし、私にも身に覚えがある。ただ、それを歌っているこの曲はすっと胸に落ちていく感覚で心地いい。

相手がいてこその自分の存在を、認めたくない時がある。自分は一人で立っているんだと思いたいこともある。けれど、自分は一人で立っているんじゃない。今まで出会った「あなた」、今一緒にいる「あなた」、そしてこれから出会う「あなた」がいて、自分がいる。そんなことをあらためて教えてくれる。

 

 

eve

宇多田ヒカル『Fantôme』

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母に捧ぐ、終りと始まりの歌

私たちが始まりと呼ぶことは、しばしば終わりであり、終わることは始まることである。 終わりは私たちの始まりの場所である。( T・S・エリオット『四つの四重奏』より)

もう、何度目だろうか。今年、この言葉を思い出したのは。リアーナは『アンチ』でポップ・スターから一人のアーティストとして道を歩み始め、リアーナの先輩でもあるビヨンセは『レモネード』で黒人として戦うという覚悟を私たちに見せた。また、アントニー・アンド・ザ・ジョンソンズアントニー・ヘガディはアノーニという名の女性になり、それまでのチェンバーポップな要素を一切捨て、ハドソン・モホークやOPNの共同プロデュースのもと『ホープネス』を作り上げた。すべてのアーティストが今いる場所から、さらになる違う場所へ歩みを進めている2016年。そしてそれは、この作品でアーティスト活動復帰となった宇多田ヒカルにも同じことが言える。そう、この『Fantôme』もまた、終わりであり、始まりなのだから。

2011年以降に配信シングルとして発売された「桜流し」「花束を君に」「真夏の通り雨」、さらにはKOHHや元N.O.R.K.のヴォーカリストでもあった小袋成彬、さらには同期である椎名林檎との東芝EMIガールズ以来の共演など話題は尽かないが、個人的には1曲目の「道」からそのシャープで硬い音作りにまずは驚かされた。本作ではどの楽曲も余分な贅肉は削ぎ落とし、少ない音数ながらも大変スタイリッシュで洗練されたサウンドであり、この辺あたりは国内外のアーティストを数多く手掛けて、宇多田ヒカルの作品であると『HEART STATION』や『First Love -15th Anniversary Edition-』などのマスタリングを担当したスターリング・サウンドの影響が大きいと思われる。しかし、それ以上に、特に全体を通して感じたのが、この『Fantôme』という作品が実にコンセプチュアルな作品であるという点である。

本作の歌詞では「あなた」という言葉が何度も使われ、この「あなた」は時には“心の中”にいて、時には“すぐには会えないとても距離が遠いどこかにいる存在”として歌われる。そして、「忘却」の中で

好きな人はいないもう
天国か地獄
誰にも見えないところ

と、彼女の言葉をKOHHが代弁する。ここまで言えばお分かりだと思うが、ここでいう“あなた”という存在は宇多田ヒカルの母である藤圭子の事である。現にインタビュー等でも本作は“母に捧げた”という趣旨の事を語っており、そのように考えた時に本作のジャケット写真を見ると若かりし頃の藤圭子と大変よく似ているという事に気が付かされる。さて、この作品が母親についての物だと考えると一つ疑問が生まれる。それは、なぜ幻影とい意味の『Fantôme』という言葉をアルバムタイトルとして使ったのかという事である。それを説明するには時計の針をあの日まで戻さないといけない。そう、6年前のあの日まで。

嵐の女神 あなたには敵わない
心の隙間を埋めてくれるものを探して 何度も遠回りしたよ たくさんの愛を受けて育ったことどうしてぼくらは忘れてしまうの

Utada Hikaru SINGLE COLLECTION VOL.2』Disc2の1曲目に入っている「嵐の女神」は彼女の母親に対しての思いが綴られていた曲であった。それまでも「BE MY LAST」など断片的に母親の事を語られた歌はあったのだが、全編を通して歌われた曲はこれぐらいである。そして、この曲が世に出た2010年、彼女は私たちの前から「人間活動」という名目でアーティスト活動を休止した。誰もが「いつ彼女が戻ってくるか?」と期待に胸躍らせていたが、そんな最中、出てきたニュースは彼女の母、藤圭子の訃報であった。もう、彼女の歌声は聴けないのでは、そんなことを考えていた翌年、彼女は結婚し妊娠。そして、2015年に出産し、宇多田ヒカルは母になった。

そんな母となったタイミングで母に捧げた作品が発売された。そう考えれば、この作品で彼女は“母の幻影を断ち切り、一人の人間として独り立ちをする”ということを思い制作したのではないだろうか。そのように考えると本作がコンセプチュアルに母親に向けた作品であることや、1曲目に「道」をもってきて「桜流し」をラストへ持ってきた事も自らに向けてのメッセージだと説明がいく。「桜流し」の最後の歌詞で、彼女は天国にいる母へむけて、自分の決意をこのように歌う。

どんなに怖くたって目を逸らさないよ
全ての終わりに愛があるなら

そして、「桜流し」の後、CDは1曲目の「道」となる。そう、終わりは始まりの場所へ通じ、その場所から歩みを進めるのだ。悲しみ、苦しみを乗り越え、自らの呪縛を取り払う意味での『Fantôme』。一寸先が闇なら、二寸先は明るい未来、宇多田ヒカルの新たなるスタートは今、始まったのだ。


ゴリさん (@toyoki123

ki-ft ダラダラ人間の生活